次期がん対策推進基本計画に向けた新たな指標及び評価方法の開発のための研究

文献情報

文献番号
202208018A
報告書区分
総括
研究課題名
次期がん対策推進基本計画に向けた新たな指標及び評価方法の開発のための研究
課題番号
20EA1019
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
東 尚弘(国立研究開発法人 国立がん研究センター  がん対策研究所 がん登録センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 ゆり(大阪医科薬科大学 研究支援センター医療統計室)
  • 小川 千登世(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科)
  • 樋田 勉(獨協大学 経済学部)
  • 助友 裕子(日本女子体育大学 体育学部 スポーツ健康学科)
  • 増田 昌人(琉球大学医学部附属病院第二内科)
  • 松坂 方士(国立大学法人弘前大学 医学部附属病院)
  • 若尾 文彦(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所)
  • 高山 智子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部)
  • 脇田 貴文(関西大学 社会学部)
  • 片山 佳代子(国立大学法人 群馬大学 情報学部)
  • 市瀬 雄一(国立がん研究センター がん対策研究所医療政策部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,231,000円
研究者交替、所属機関変更
・研究者交代:研究分担者 渡邊ともね 国立がん研究センターがん対策研究所 医療政策部(令和2年4月1日~令和4年3月31日) →市瀬雄一 国立がん研究センターがん対策研究所 医療政策部(令和4年4月1日~令和5年3月31日)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、次期がん対策推進基本計画(以下、「次期計画」という)に向けた指標を設定し、それらを測定した結果を活用した基づくがん対策の継続的改善を推進するため必要な研究を行うことを目的とする。本研究においては、特定のテーマに偏ることなく分野横断的にがん対策上の課題を俯瞰するため必要事項の抽出から始め、科学的に整理しつつ解決を進めていくことを目的とする。
研究方法
① 患者体験調査の詳細解析
成人患者体験調査のデータを使い、回答者の特徴と関連因子を検討、また、がんの診断との就労の継続に関して詳細に分析を行った。
② 小児患者体験調査
小児患者体験調査が行われたことを受けて、その結果をもとに次回以降の調査に資するよう、意見を収集した。
③ がん教育
がん教育の進捗評価が可能な高校2年生へのアンケート用紙を確立し、全国から高等学校238校を選択、高校2年生に対するアンケートを行った。
④ 患者体験調査改善点の検討
改善に向けた、いくつかの検討を行った。
a.今後都道府県値を出していくための必要なサンプルサイズの計算を行った。
b.尺度スケールによる選択肢を提示した質問と、各選択肢に言葉を割り当てた多選択肢方式で、対象者を無作為に割り付け回答のパターンと項目無回答率を比較した。
c. Web調査の検証
 郵送とWebで同じ質問紙を作成してそれらを1か月の間隔をあけて交差させた回答を依頼し、その一致を検証することにより、Web調査の代替性を確認した。
⑤ 都道府県との連携
青森県、神奈川県、沖縄県のがん対策と指標の状況に関する情報交換をした。
結果と考察
患者体験調査の詳細解析はまだ初期的な解析であり、現在の結果に対しては注意深く検討する必要がある。家族への負担(迷惑)に関しては、客観的指標による負担あるいは家族への生活影響の度合いが測られていない。相談支援センターの知識や利用が、「負担」との回答割合が多いこととの関連については、因果が逆転しており、負担や迷惑の度合いが大きかったために相談支援センターを利用しており、そのために知識もある、さらに、家族の支援の場があると思わない人が負担をかけたと思っている、という関連についても、負担をかける状況になり、それに対して支援を探したが結果として、満足のいく支援が無かったために、負担をかけたと思っている割合が高くなるという実態を表すにすぎない可能性もある。この結果から、がん対策に資する情報としては、若年患者が特にハイリスクグループであるということ以上は中々結論しづらい。
就労の解析に関しては、非常勤において離職割合が大きいことについては、今後その文脈や個別の是非についての検討が必要と考えられる。ハイリスクグループであることは間違いないため、就労継続支援などの提供についての示唆を得ることもできる。
 小児患者体験調査について、医療者との関係においては、相談のしやすさなどについて、より良い状況を回答した者の割合が多かった。一つの可能性として、小児医療体制の恵まれた環境が、小児患者が成人医療へ移行を難しくしている要因かもしれず、さらなる検討が必要かもしれない。逆に、偏見を感じる患者の数が小児の方で多いのは、小児がんが成人のがんに比べて数が少ないことに起因するかもしれず、何らかのがん対策上の配慮を検討する必要があると考えられる。
がん教育については、全国の高等学校の協力を得て知識レベルを測定することができた。予防的な知識については一般的な知識と考えられるが、事柄によっては知識が十分に得られていない現状が明らかになった。また、生活習慣に関する論理的な難しさや、がんの多様性などについても応用編として教育することも検討されるべきである。
 サンプルサイズについては、都道府県ごとの検討を行うために施設数を増やす方針で行うことが良いと考えられ、その方向とする。
 Web調査の適切性については、がん診断の有無が一致する対象が想定よりも多くないことが分かったため、原因の検討を要すると考えられた。
 尺度スケールによる回答の検証については、尺度方式は、直感的にわかりやすいが、高齢がん患者にとっては無回答につながる傾向が見られた。本結果を受け、次期の調査では、設問の選択肢は他選択肢方式で提示することとした。
 都道府県のがん対策の推進において、データを活用し行っていくことは、そのデータの信頼性や、入手可能性などに対する整理を国レベルで行っていくことで、「未整理」を理由とした活用の障害を取り除いていくことが必要と考えられる。
結論
がん対策推進基本計画の中間評価に資する患者体験調査の報告が発行され、詳細な解析を行うとともに、次期がん対策推進基本計画の策定に向けたデータの提供が必要になると考えられる。状況に適合した形で、がん対策の評価を実施していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-01-15

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208018B
報告書区分
総合
研究課題名
次期がん対策推進基本計画に向けた新たな指標及び評価方法の開発のための研究
課題番号
20EA1019
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
東 尚弘(国立研究開発法人 国立がん研究センター  がん対策研究所 がん登録センター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 ゆり(大阪医科薬科大学 研究支援センター医療統計室)
  • 小川 千登世(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科)
  • 樋田 勉(獨協大学 経済学部)
  • 助友 裕子(日本女子体育大学 体育学部 スポーツ健康学科)
  • 増田 昌人(琉球大学医学部附属病院第二内科)
  • 松坂 方士(国立大学法人弘前大学 医学部附属病院)
  • 若尾 文彦(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所)
  • 高山 智子(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 がん情報提供部)
  • 脇田 貴文(関西大学 社会学部)
  • 片山 佳代子(国立大学法人 群馬大学 情報学部)
  • 市瀬 雄一(国立がん研究センター がん対策研究所医療政策部)
  • 渡邊 ともね(国立がん研究センター がん対策情報センター がん臨床情報部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
・所属機関異動  研究分担者 片山佳代子  神奈川県立がんセンター(令和2年4月1日~令和3年3月31日)  →群馬大学 情報学部(令和3年4月1日以降) ・所属機関名変更  研究分担者 伊藤ゆり  大阪医科大学 研究支援センター(令和2年4月1日~令和3年3月31日) →大阪医科薬科大学 医学研究支援センター(令和3年4月1日以降)   研究分担者 若尾文彦、高山智子  がん対策情報センター(令和2年4月1日~令和3年8月31日)  →がん対策研究所(令和3年9月1日以降)  研究分担者 渡邊ともね  がん対策情報センター がん臨床情報部(令和2年4月1日~令和3年8月31日)  →がん対策研究所 医療政策部(令和3年9月1日以降) ・研究者交代:研究分担者 渡邊ともね 国立がん研究センターがん対策研究所 医療政策部(令和2年4月1日~令和4年3月31日) →市瀬雄一 国立がん研究センターがん対策研究所 医療政策部(令和4年4月1日~令和5年3月31日)

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、第3期のがん対策推進基本計画の評価に資するデータを提供すると共に、次期がん対策推進基本計画(以下、「次期計画」という)に向けた進捗評価指標を設定し、測定結果に基づくがん対策の継続的改善を推進するため必要な研究を行うことを目的とした。
研究方法
① 患者体験調査に基づく政策提言
平成30年度末に実施された患者体験調査(以下、患者体験調査という)について、その結果を元とした政策提言をまとめて公表した。その過程で患者関係者(全国がん患者団体連合会、調査時のがん対策推進協議会患者委員)を頻繁な意見交換を行った。これらは、報告書を発行するとともに国立がん研究センターのホームページ上で公表した。
② 第2回患者体験調査の詳細解析
成人患者体験調査のデータを使い、代表的なテーマに対して詳細に分析を開始した。自由回答の分析、データの正確性を検討するものや無回答のパターンに関する検討など方法論に関するものと、主として経済的問題、就労支援、高齢者といった対象者で区別した際の特徴などについて詳細解析が行われた。またさらに、自由記述に関する分析も行われた。
③ 小児患者体験調査
今回初めて小児患者体験調査が行われたことを受けて分析を行った。さらにそれらの結果について関係者と意見交換を行った。
④ 患者体験調査改善点の検討
次回の患者体験調査に向けて様々な検討を行った。
a. 施設から得られた情報(院内がん登録の臨床情報)との比較
患者の回答負担軽減のためには、施設から得られた情報をつかって質問数を減らすことが考えられるが、回答率が下がってしまう懸念がある。そこで、今回、主として患者体験調査の本調査と並行して、各施設で10名ずつ、施設から得られた診療情報と比較可能な形で質問紙上も説明を行った分について解析を行った。
 b. サンプルサイズの再検討
第2回の患者体験調査の結果を受けて都道府県ごとの検討を試みたがサンプルサイズが項目によっては足りないこともあり、これまでは全体値に焦点を当てたサンプル設計をしてきたのに対して、都道府県ごとの比較なども可能なサンプルサイズの設計をすることが必要と考えられたため、再検討を行った。
⑤ 数理モデルにかかる調査
 シミュレーションは研究としては盛んにおこなわれているが、基礎データが不足していると異なるデータが出てくることがある。しかしその手法はブラックボックスになりがちであり、がん対策評価に使えるかどうかの検討は必要である。シミュレーションの活用が先行する欧米諸国に比較して、我が国の課題を検討するためには、事例の収集が必要と考えられた。
⑥ がん教育
がん教育の進捗評価が可能な、高校2年生へのアンケート用紙を2年目までに作成、さらに、3年目で全国の145の高等学校の協力を得て、実態調査行った。
結果と考察
患者体験調査の成人・小児の報告書が発行されそれらのデータに基づくさらなる解析を進めてきた。ここから様々な知見を報告することができた。患者体験調査自体は、主たる目的が幅広い実態把握に基づくがん対策全般の評価であるために、詳細な原因の分析に資する解析には限界があるものの、次の調査などへの出発点になると考えられる。
 がん教育については、単なる知識の伝達だけでなく、論理的思考や不確実性に関する教育がなかなか難しいと考えられた。がん対策の文脈の中で考えられる達成度と教育現場の目標を明確に整合性をとることが、評価をする上でも必要であると考えられ、その認識のもとに質問紙を作成する必要があると考えられる。今後評価や教育を継続するうえではその意識を入れていくことが重要である。
 第3回の患者体験調査へ向けた検討においては、いくつかの知見が提供された。まず、がんの進行度については、正確性の課題や質問数の低減のためにも他の情報源を使用することが望ましいと考えられた。また、質問の回答形式については、尺度形式は避けて多選択肢形式が重要と考えられた。Web調査の併用についてはその信頼性が必ずしも確認できず慎重に検討すべきと考えられた。
都道府県のがん対策の推進において、データを活用し行っていくことは、そのデータの信頼性や、入手可能性などに対する整理を国レベルで行っていくことで、「未整理」を理由とした活用の障害を取り除いていくことが必要と考えられる。
結論
がん対策推進基本計画の中間評価に資する患者体験調査の報告が発行され、詳細な解析を行うとともに、がん対策推進基本計画の継続的な策定に向けたデータの提供が必要になると考えられる。その他、この3年間は、その他、コロナ禍のために研究の遂行が影響を受けた。令和5年現在コロナの影響はずいぶん少なくなったとはいえ、医療機関では面会の制限など、まだ影響は大きい。今後もコロナ禍の影響は免れ得ないが、新しいやり方で、がん対策の遂行と、評価を実施していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
患者体験調査の結果をまとめた発表した。その中で、第2回の患者体験調査で採用された、多数の質問をまとめて可視的なスケール上で回答する形式の質問は高齢者において無回答が増えることを実験的に証明した。
臨床的観点からの成果
本研究は臨床的な成果を期待されたものではない。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
第3回の患者体験調査を実施するにあたって、その質問紙設計では、上記の結果からすべての質問を、一括して答える形式を取りやめて、一つ一つ別個の選択肢を準備して回答する形式とした。
その他のインパクト
円滑にがん対策の評価のための患者体験調査を実施することが可能となった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
20件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ワーキンググループでの議論1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
202208018Z