宿主側及びウイルス側要因からみたHIV感染症の病態解明と新規医薬品・診断薬品の開発によるエイズ発症防止の研究

文献情報

文献番号
200908004A
報告書区分
総括
研究課題名
宿主側及びウイルス側要因からみたHIV感染症の病態解明と新規医薬品・診断薬品の開発によるエイズ発症防止の研究
課題番号
H19-政策創薬・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 愛吉(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 塩田達雄(大阪大学 微生物病研究所)
  • 松下修三(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 市村 宏(金沢大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
20,361,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先進工業国においては抗HIV療法(ART)が普及し、HIV感染者の予後は著しく改善した。一方、先進工業国と途上国の治療上の格差が拡大しつつある。HIVに対するワクチンのめどが立っていない現在、HIVに対する特異的免疫の基礎研究や免疫強化療法の開発が急務である。また、国際的な視野に立った研究が重要である。本研究は、HIV特異的免疫の基礎及び応用研究、国際的な共同研究による抗HIV薬のの副作用や薬剤耐性の研究を行うことを目的とした。
研究方法
タイにおいてARTを受けた患者800名について脂肪異常症の有無を調査した。細胞死に関わる遺伝子Fas –670の多型を解析し、と脂肪異常症との関連を研究した。ケニア国のHIV感染小児の薬剤耐性について調査研究を行った。これらの研究は、分担研究者が所属する機関の倫理委員会や相手国の研究機関で承認を受けた。HIV感染症例から血清IgGを精製し、当該患者から分離されたHIVの中和実験を、低分子化合物の存在下で行った。HIV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)クローンからT細胞受容体(TCR)とその抗原を試験管内で発現し、ビアコア法で分子間相互作用を解析した。
結果と考察
タイにおいてARTを受けた800名で、治療開始後平均4.8年の観察期間中270名が脂肪異常症を発症した。70名の発症者と対照群270名では、Fas –670遺伝子のAアリルの頻度およびAAのホモ接合者の数ともに発症者群で有意に多かった。ケニアでARTを受けた84名の小児のうち治療が失敗した16名(19%)のうち4名では、治療開始前から薬剤耐性ウイルスに感染していた。患者から分離されたHIVは、同時期の患者血清IgG200µg/mlでも中和できなかったが、低分子化合物NBD-556の濃度依存的に中和活性が検出された。野性型HIVとエスケープ変異体の識別が異なる2つのCTLからTCR蛋白質を精製し、抗原との分子間相互作用を検討したところ、CTLの特異性を忠実に再現できた。
結論
細胞死を起こす遺伝子Fasの多型が脂肪異常症の発症に関わることが示唆された。途上国においても薬剤耐性検査の重要性が示された。低分子化合物NBD-556存在下で、血清IgGにより同時期のウイルスを中和できることから、免疫増強作用を持つ低分子化合物として期待が持てる。試験管内で精製した抗原とTCRによりCTLの抗原認識を再現できたことから、構造解析によりHIVのエスケープ機構の解析する基盤ができた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200908004B
報告書区分
総合
研究課題名
宿主側及びウイルス側要因からみたHIV感染症の病態解明と新規医薬品・診断薬品の開発によるエイズ発症防止の研究
課題番号
H19-政策創薬・一般-004
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 愛吉(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 塩田達雄(大阪大学 微生物病研究所)
  • 松下修三(熊本大学 エイズ学研究センター)
  • 市村 宏(金沢大学 大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界基金等の支援により、途上国での抗HIV療法が現実のものとなっている。タイのHIV感染者コホートで抗HIV療法(ART)に対する副反応に関与する個人差を解析する。ケニアの小児感染者でHIVの薬剤耐性や病態研究を行う。HIVに対する中和抗体の臨床応用を目指し、その反応性を増強する低分子化合物の基本的性質と効果を明らかにする。感染個体内でウイルス増殖抑制を示す細胞傷害性T細胞(CTL)の抗原認識とHIVの逃避メカニズムについて詳細な解析を行う。
研究方法
遺伝子多型解析にはDNAチップや制限酵素切断を用いた。ケニアの小児HIV感染者約100名について解析した。該当する研究については、所属研究機関及び相手国機関の承認を受けた。臨床分離株やエスケープ変異株を用いて、低分子化合物の中和抗体作用に及ぼす影響を検討した。T細胞受容体(TCR)と抗原提示側の分子を大量調整し、ビアコアによる解析を行った。また、抗原提示側分子については特異抗体の樹立を行った。
結果と考察
抗HIV薬ネビラピンによる薬疹発現とHLA-Cw*04に相関を認めた。抗HIV療法の副作用による脂肪異常症とFas-670の多型に相関を認めた。ケニアのHIV感染小児の研究から、垂直感染した薬剤耐性HIVが児のARTの失敗に直結すること、HIVのサブタイプにより薬剤耐性遺伝子変異の出現パターンが異なることなどが分かった。低分子化合物NBD-556が、HIV gp120のCD4結合部位に作用して立体構造を変化させ、中和抗体の反応性を増強することを発見した。HIV特異的CTLが認識する抗原に対する単クローン抗体を樹立できた。HIV特異的CTLのTCRと抗原を試験管内で合成し、蛋白質レベルでCTLの特異性を再現できた。
結論
薬疹や脂肪異常症と遺伝子多型の相関を明らかにし、抗HIV療法の安全性に寄与できる可能性がある。途上国との共同研究により科学技術外交にも寄与できる。NBD化合物が抗体の併用薬として有望なエンベロープ蛋白質の構造変化誘導物質であることが分かった。単クローン抗体の樹立により、HIV特異的CTLの機能を抗原提示の側から解析する可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-12-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200908004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
低分子化合物NBD-556が、HIV gp120のCD4結合部位に作用して立体構造を変化させ、中和抗体の反応性を増強することを発見した。中和抗体の併用薬として有望であることが分かった。HIV特異的CTLが認識する抗原に対する単クローン抗体を樹立できた。HIV特異的CTLのTCRと抗原を試験管内で合成し、蛋白質レベルでCTLの特異性を再現できた。単クローン抗体の樹立により、HIV特異的CTLの機能を抗原提示の側から解析する可能性が示された。
臨床的観点からの成果
抗HIV薬ネビラピンによる薬疹発現とHLA-Cw*04に相関を認めた。抗HIV療法の副作用による脂肪異常症とFas-670の多型に相関を認めた。抗HIV療法の安全性に寄与できる可能性がある。ケニアのHIV感染小児の研究から、垂直感染した薬剤耐性HIVが児のARTの失敗に直結すること、HIVのサブタイプにより薬剤耐性遺伝子変異の出現パターンが異なることなどが分かった。途上国での抗HIV療法に役立つ。
ガイドライン等の開発
該当無し。
その他行政的観点からの成果
HIVに関する途上国との共同研究は、科学技術外交にも寄与できる可能性がある。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
46件
学会発表(国際学会等)
29件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
研究代表者は自身の臨床的・基礎的研究に基づく専門的知識を活用し、厚生労働省エイズ動向委員長、厚生科学研究エイス対策研究費評価委員として厚生労働省の施策に貢献している。
その他成果(普及・啓発活動)
0件
該当なし。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Koga, M., Kawana-Tachikawa, A., Iwamoto, A., et al.,
Transition of impact of HLA class I allele expression on HIV-1 plasma virus loads at a population level over time. 
Microbiol. Immunol.  (2010)
原著論文2
Maegawa, H., Miyamoto, T., Shioda, T., et al.
Contribution of RING domain to retrovirus restriction by TRIM5α depends on combination of host and Virus.
Virology  (2010)
原著論文3
Zhu, D., Iwamoto, A., and Kitamura, Y., et al.
Influence of polymorphism in dendritic cell-specific intercellular adhesion molecule-3-grabbing nonintegrin-related (DC-SIGNR) gene on HIV-1 trans-infection.
Biochem Biophys Res Commun.  (2010)
原著論文4
Hatada, M., Yoshimura, K., Matsushita, S., et al.
HIV-1 evasion of a neutralizing anti-V3 antibody involves acquisition of a potential glycosylation site in V2.
J. Gen. Virol.  (2010)
原著論文5
Nunoya, J., Nakashima, T., Iwamoto, A., et al.
Generation of recombinant monoclonal antibodies against an immunodominant HLA-A*2402-restricted HIV-1 CTL epitope.
AIDS Research and Human Retroviruses , 25 , 897-904  (2009)
原著論文6
Miyazaki, E., Kawana-Tachikawa, A., Iwamoto, A., et al.
Highly restricted TCR repertoire in the CD8-positive T cell response against an HIV-1 epitope with a stereotypic amino acid substitution.
AIDS , 23 , 651-660  (2009)
原著論文7
Likanonsakul, S., Rattanatham, T., Shioda. T., et al.
HLA-Cw*04 allele associated with nevirapine-induced rash in HIV-infected Thai patients.
AIDS Research and Therapy , 6 , 22-  (2009)
原著論文8
Nakajima, T., Nakayama, EE, Shioda, T., et al
Impact of novel TRIM5alpha variants, Gly110Arg and G176del, on the anti-HIV-1 activity and the susceptibility to HIV-1 infection.
AIDS , 3 , 2091-2100  (2009)
原著論文9
Kono, K., Shioda T, Nakayama EE. et al.
Impact of a single amino acid in the variable region 2 of the old world monkey TRIM5a SPRY (B30.2) domain on anti-human immunodeficiency virus type 2 activity.
Virology , 388 , 160-168  (2009)
原著論文10
Lwembe R, Ichimura H, et al.
Changes in the HIV-1 envelope gene from non-subtype B HIV-1-infected children in Kenya.
AIDS Res Hum Retroviruses , 25 , 141-147  (2009)
原著論文11
Nakayama EE, Shingai Y,Shioda T. et al.
TRIM5alpha-independent anti-human immunodeficiency virus type 1 activity mediated by cyclophilin A in Old World monkey cells.
Virology , 375 , 514-520  (2009)
原著論文12
Kono K, Song H, Shioda T, et al.
Comparison of anti-viral activity of rhesus monkey and cynomolgus monkey TRIM5alphas against human immunodeficiency virus type 2 infection.
Virology , 373 , 447-456  (2008)
原著論文13
Ikeda, T., Ohsugi, T., Matsushita, S., et al.
The anti-retroviral potency of APOBEC1 deaminase from small animal species.
Nucleic Acids Research , 36 , 6859-6871  (2008)
原著論文14
Khamadi SA, Ichimura H, et al.
HIV type 1 genetic diversity in Moyale, Mandera, and Turkana based on env-C2-V3 sequences.
AIDS Res Hum Retroviruses , 24 , 1561-1564  (2008)
原著論文15
Kiptoo M, Ichimura H, et al.
Prevalence of nevirapine-associated resistance mutations after single dose prophylactic treatment among antenatal clinic attendees in North Rift Kenya.
AIDS Res Hum Retroviruses , 24 , 1555-1559  (2008)
原著論文16
Ndembi N, Ichimura H, et al.
Molecular Characterization of HIV-1 and HIV-2 in Yaounde, Cameroon: Evidence of Major Drug Resistance Mutations in Newly Diagnosed non-B Infected Patients.
J Clin Microbiol, , 46 , 177-184  (2008)
原著論文17
Wichukchinda N, Nakayama EE, Shioda T., et al.
Effects of CCR2 and CCR5 polymorphisms on HIV-1 infection in Thai females.
Journal of AIDS. , 47 , 293-297  (2008)
原著論文18
Hosoya N, Miura T, Iwamoto A. et al.
Comparison between Sendai virus and Adenovirus vectors to transduce HIV-1 genes into human dendritic cells.
Journal of Medical Virology , 80 , 373-382  (2008)
原著論文19
Sakuragi J, Sakuragi S, Shioda T.
Minimal region sufficient for genome dimerization in the human immunodeficiency virus type 1 virion and its potential roles in the early stages of viral replication.
J Virol. , 81 , 7985-7992  (2007)
原著論文20
Song H, Nakayama EE,Shioda T. et al.
A single amino acid of the human immunodeficiency virus type 2 capsid affects its replication in the presence of cynomolgus monkey and human TRIM5alphas.
J Virol. , 81 , 7280-7285  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-