薬剤耐性HIV/AIDS症例救済のための新規な機序による抗HIV薬剤の開発研究

文献情報

文献番号
200908003A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤耐性HIV/AIDS症例救済のための新規な機序による抗HIV薬剤の開発研究
課題番号
H19-政策創薬・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 亙(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 野村 伸彦(富山化学工業株式会社綜合研究所第3研究部)
  • 田中 晴雄(いわき明星大学薬学部薬学科)
  • 明里 宏文(京都大学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター)
  • 足立 昭夫(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
34,403,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存の抗HIV薬剤に対する薬剤耐性を克服するための新規な阻害機序による抗HIV薬剤を開発し実用化することを目的とする。
研究方法
本研究班では開発グループと実用化グループの2つのサブグループに分かれて研究を進めた。開発グループでは新規抗HIV薬の候補化合物T-Yの阻害活性の増強と毒性の軽減、新規薬剤の作用メカニズム解明、そしてVif-APOBECの基礎研究に取り組んだ。これに対して実用化グループでは候補化合物の実用化に向けた実験に取り組んだ。候補化合物T-Yについてはヒト血清が抗HIV活性に及ぼす影響の評価、小動物を用いた毒性実験を行った。アクチノヒビン(AH)についてはX線構造解析と抗HIV活性の増強に取り組んだ。
またT-Y,AHともカニクイザルPBMCを用いたSIVmac阻害活性の確認と毒性評価等を行う。さらにカニクイザルを用いた感染予備実験を行う。
(倫理面への配慮)国立感染症研究所動物実験委員会、医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター、名古屋医療センター動物実験委員会、富山化学工業株式会社が定めた「実験動物使用管理規定」に従って実施した。
結果と考察
(1)開発グループでは次の研究成果を挙げた(i) T-Yは小動物での各種毒性試験において良好な結果を示した。(ii)新規薬剤の阻害機序はTat 依存的な転写がスタートする初期転写 (Pre-initiation Complex for Transcription (PICT)形成)が作用点である可能性が強く示唆された(PICT阻害剤と仮呼称)。
(iii) APOBEC の構造解析からUb抵抗変異を同定しVif抵抗性A3Gを作成した。A3ファミリーの発現量は刺激、細胞腫により異なる事を明らかにした。
(2)実用化グループでは次の研究成果をあげた。(i) T-Yの類縁化合物117個にヒト血清が及ぼす影響の評価を行いIC50の変位が5-10倍程度の化合物を見いだした。(ii) AHの阻害機序を解明した。二量体にする事で、阻害活性の増強に成功した。スチレン・マレエートやポリエチレン・グリコールを結合させた注射薬の開発を進めている。(iii)カニクイザルにおける新薬評価の実施を目指してT-Yの体内動態の解析と経直腸感染モデルの構築を行った。
結論
実用化候補である、化合物T-YとAHの最適化に取り組み成果を上げた。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200908003B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤耐性HIV/AIDS症例救済のための新規な機序による抗HIV薬剤の開発研究
課題番号
H19-政策創薬・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
杉浦 亙(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター 感染・免疫研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 野村 伸彦(富山化学株式会社綜合研究所第3研究部)
  • 田中 晴雄(いわき明星大学薬学部薬学科)
  • 明里 宏文(京都大学霊長類研究所 人類進化モデル研究センター)
  • 足立 昭夫(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
既存の抗HIV薬剤に対する薬剤耐性を克服するための新規な阻害機序による抗HIV薬剤を開発し実用化することを目的とする。
研究方法
開発グループと実用化グループに分かれて研究を進めた。開発グループでは新規抗HIV薬の探索とその最適化、新規薬剤の作用メカニズム解明、そしてVif-APOBECの基礎研究に取り組んだ。これに対して実用化グループでは候補化合物の実用化に向けた実験に取り組んだ。候補化合物T-Yについてはヒト血清が抗HIV活性に及ぼす影響の評価、小動物を用いた毒性実験を行った。アクチノヒビン(AH)についてはX線構造解析と抗HIV活性の増強を試みた。またT-Y、AHともカニクイザルPBMCを用いたSIVmac阻害活性の確認と毒性評価等を行う。さらにカニクイザルを用いた感染予備実験を行った。
(倫理面への配慮)国立感染症研究所動物実験委員会、医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター、名古屋医療センター動物実験委員会、富山化学工業株式会社が定めた「実験動物使用管理規定」に従って実施した。
結果と考察
(1)開発グループ:1.研究開始時点で1群化合物(インテグラーゼ阻害剤)と2群化合物(阻害機序不明)という2群の化合物を有していた。2群化合物を基に化合物を合成し、強力な抗HIV活性を呈する化合物T-Yを同定した。2. T-Yは小動物での各種毒性試験において良好な結果を示した。3.T-Yの阻害機序はTat 依存的な転写がスタートする初期転写 (Pre-initiation Complex for Transcription (PICT)形成)が作用点である可能性が強く示唆された(PICT阻害剤と仮呼称)。
4. APOBEC の構造解析からUb抵抗変異を同定しVif抵抗性A3Gを作成した。A3ファミリーの発現量は刺激、細胞腫により異なる事を明らかにした。
(2)実用化グループ:1. T-Yの類縁化合物377個にヒト血清が及ぼす影響の評価を行いIC50の変位が5-10倍程度の化合物を見いだした。2. AHがgp120の高マンノース型糖鎖に結合する事により抗HIV活性を示すことを明らかにした。二量体化によりAHの阻害活性増強に成功した。 3.カニクイザルにおける新薬評価予備実験を行った。
結論
候補化合物T-Y、AH共に臨床試験の実現を目指して研究を進めていく。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200908003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
候補化合物T-Yは化学構造も作用機序も新規の抗HIV薬であり、新薬としての期待だけでなく、HIVの複製機序の更なる解明に繋がることが期待される。アクチノヒビンの構造解明とHIV特異的阻害活性の機序の解明は今後の薬剤開発にとって有益な情報である。APOBECの研究成果は国際的にも注目を浴びている最先端の成果である。サル指向性HIV感染モデルの構築はHIVの病態に迫る国際的にトップクラスの研究成果である。
臨床的観点からの成果
候補化合物T-Y は既存抗HIV薬と交叉耐性を示さない事を確認しており、多剤耐性の為に治療困難に陥っている症例の救済に繋がると期待される。HIVのワクチン開発が滞っている現在、抗HIV薬剤の感染予防への応用が議論されるようになっているが、AHはそのHIV選択性と強力な阻害活性から、WHOも注目する有望な化合物である。サル指向性HIV感染モデルの構築は抗HIV薬剤開発やワクチン研究の後押しをすると期待される。
ガイドライン等の開発
該当無し
その他行政的観点からの成果
今まで抗HIV薬剤開発と実用化を担って来た製薬会社が新しい抗HIV薬剤開発から撤収しつつあるなかで、本研究班の成果はいずれも新薬開発研究に興味を呼び寄せ、再び刺激活性化する原点なることが期待される。
その他のインパクト
本研究班で作製した抗HIV活性評価細胞MaRBLE細胞は国外数カ所から依頼があり分与し、活用されている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
45件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
19件
学会発表(国際学会等)
85件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計7件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiro Ibe, Yoshiyuki Yokomaku, Teiichiro Shiino, etal.
HIV-2 CRF01_AB: First Circulating Recombinant Form of HIV-2.
JAIDS  (2010)
原著論文2
Matsuyama S, Shimizu A, Ode, H, etal.
Structural and Energetic Analysis on the Complexes of Clinically-isolated Subtype C HIV-1 Proteases and Approved Inhibitors by Molecular Dynamics Simulation.
The Journal of Physical Chemistry , 114 (1) , 521-530  (2009)
原著論文3
Hasegawa N, Sugiura W, Shibata J, etal.
Inferring within-patient HIV-1 evolutionary dynamics under anti-HIV therapy using serial virus samples with vSPA.
BMC Bioinformatics. , 10 (1) , 360-  (2009)
原著論文4
Iwatani Y, Chan DS, Liu L, etal.
HIV-1 Vif-mediated ubiquitination/degradation of APOBEC3G involves four critical lysine residues in its C-terminal domain.
Proc Natl Acad Sci U S A. , 106 (46) , 19539-19544  (2009)
原著論文5
Saeng-Aroon S, Yoshida LM, Ariyoshi K, etal.
An Efficien Tool for Surveying CRF01_AE HIV Type 1 Resistance in Thailand to Combined Stavudine-Lamivudine-Nevirapine Treatment: Mutagenically Separated PCR Targeting M184I/V.
AIDS Res Hum Retroviruses , 23 (12) , 1461-1467  (2007)
原著論文6
Seiichiro Fujisaki, Saeko Fujisaki, Shiro Ibe, etal.
Performance and Quality Assurance of Genotypic Drug-Resistance Testing for Human Immnodeficiency Virus Type 1 in Japan.
Jpn. J.Infect. Dis. , 60 , 113-117  (2007)
原著論文7
Ode H, Matsuyama S, Hata M, etal.
Mechanism of drug resistance due to N88S in CRF01_AE HIV-1 protease, analyzed by molecular dynamics simulations.
J Med Chem. , 50 (8) , 1768-1777  (2007)
原著論文8
Chiba-Mizutani T, Miura H, Matsuda M, etal.
Use of new T-cell-based cell lines expressing two luciferase reporters for accurately evaluating susceptibility to anti-human immunodeficiency virus type 1 drugs.
J Clin Microbiol. , 45 (2) , 477-487  (2007)
原著論文9
Makiko Hamatake, Masako Nishizawa, Naoki Yamamoto, etal
A simple competitive RT-PCR assay for quantitation of HIV-1 subtype B and non-BRNA in plasma.
J Virol Methods. , 142 , 113-117  (2007)
原著論文10
Hiroyuki Gatanaga, Shiro Ibe, Masakazu Matsuda, etal.
Nationwide Survey of Drug-Resistant HIV-1 Prevalence in Patients Newly Diagnosed with HIV/AIDS in Japan.
Antiviral Research, , 75 (1) , 75-82  (2007)
原著論文11
Afework Kassu, Masayuki Fujino, Masakazu Matsuda, etal.
Molecular Epidemiology of HIV-1 in Treatment Naïve Patients in North Ethiopia
AIDS Research and Human Retroviruses , 23 (4) , 564-568  (2007)
原著論文12
Akari H, Iwasaki Y, Yoshida T, etal.
Non-human primate surrogate model of hepatitis C virus infection.
Microbiology and Immunology , 53 , 53-57  (2009)
原著論文13
Iwasaki Y, Akari H, Murakami T, etal
Efficient inhibition of SDF-1α-mediated chemotaxis and HIV-1 infection by novel CXCR4 antagonists.
Cancer Science , 100 , 778-781  (2009)
原著論文14
Tanaka H, Chiba H, Inokoshi J, etal.
Mechanism by which the lectin actinohivin blocks HIV infection of target cells.
Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. , 106 (37) , 15633-15638  (2009)
原著論文15
Piroozmand, A., Yamamoto, Y., Khamsri, B., etal.
Generation and characterization of APOBEC3G-positive 293T cells for HIV-1 Vif study.
Journal of Medical Investigation , 54 , 154-158  (2007)
原著論文16
Fujita, M., Otsuka, M., Miyoshi, M., etal.
Vpx is critical for reverse transcription of the human immunodeficiency virus type 2 genome in macrophages.
Journal of Virology , 82 , 7752-7756  (2008)
原著論文17
Nomaguchi, M., Fujita, M., and Adachi, A
Role of HIV-1 Vpu protein for virus spread and pathogenesis.
Microbes and Infection , 10 , 960-967  (2008)
原著論文18
Fujita, M., Otsuka, M., Nomaguchi, M.,etal.
Functional region mapping of HIV-2 Vpx protein.
Microbes and Infection , 10 , 1387-1392  (2008)
原著論文19
Yamashita, T., Nomaguchi, M., Miyake, A., etal.
Status of APOBEC3G/F in cells and progeny virions modulated by Vif determines HIV-1 infectivity.
Microbes and Infection , 12 , 166-171  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2017-06-23