実装を視野に入れたがん患者の精神心理的な支援に関する診療ガイドラインの開発研究

文献情報

文献番号
202208011A
報告書区分
総括
研究課題名
実装を視野に入れたがん患者の精神心理的な支援に関する診療ガイドラインの開発研究
課題番号
20EA1012
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
吉内 一浩(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
  • 奥山 徹(名古屋市立大学大学院 医学研究科 精神・認知・行動医学)
  • 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 支持・サバイバーシップTR研究部 支持・緩和・心のケア研究室)
  • 秋月 伸哉(国立がんセンター東病院 臨床開発センター 精神腫瘍学開発部)
  • 藤澤 大介(慶應義塾大学 医学部)
  • 小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター 東病院 精神腫瘍科)
  • 島津 太一(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、気持ちのつらさ(不安・うつ)、再発恐怖、不眠、コミュニケーションに関する診療ガイドラインの作成を行う。その際、欧米においてガイドラインが半数未満の医療機関でしか使用されていないという問題があるので(Riba MB, J Natl Compr Canc Netw 2019)、普及のための実装科学の知見も取り入れて、ガイドラインの作成を行うことも目的とする。
研究方法
(1)ガイドラインのテーマ
 本研究課題に課せられた通り、「再発恐怖」(世界的に用いられている表現に合わせて再発不安でなく、再発恐怖と表記する)」、「気持ちのつらさ(不安・抑うつ)」、「コミュニケーション」、「不眠」を主たるガイドラインのテーマとした。
(2)ガイドラインの開発方法
日本医療評価機構のMinds診療ガイドラインの作成マニュアルに準拠した方法を用いることとした。
 具体的には、
① 統括委員会、ガイドライン作成グループの設置(テーマの類似性のため研究Iと重複あり)
② スコープの作成、重要臨床課題・クリニカルクエスチョンの設定
③ 系統的レビューを中心としたエビデンスの収集、評価・統合
④ 推奨文の作成
⑤ 診療ガイドライン草案作成
⑥ 外部評価者(患者等の一般市民の代表を含む)による外部評価
⑦ 診療ガイドライン最終決定
⑧ 公開
という手順を踏む。

(3)倫理面への配慮
本研究は、文献調査ならびに専門家や外部評価者の合議による、ガイドラインの作成が主となるため、倫理上、大きな問題となることはないと考えられるが、世界医師会における「ヘルシンキ宣言」、及び文部科学省/厚生労働省研究「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵守する。
また、必要な場合には、各研究実施施設においては、研究内容の妥当性や人権擁護上の配慮、安全性への配慮、個人情報の保護、インフォームド・コンセントの対応状況等について、倫理審査委員会の審査を受ける。その際、研究対象者に対しては、インフォームド・コンセントに関する十分な配慮を行い、参加・不参加によって不利益が生じないこと、研究参加が自由意志によるものであること、研究参加をいつでも撤回できること、個人情報について厳重に保護されること等を明記し、書面等による十分な説明のもと、書面にて同意を得る。
 また、気持ちのつらさに関しては、専門家を対象とした、デルファイ法を用いて、クリニカルパスウェイを作成する。
結果と考察
(1)再発恐怖に関するガイドラインと気持ちのつらさガイドライン
 再発恐怖に関しては、1つのクリニカルクエスチョンを設定し、気持ちのつらさに関しては7つのクリニカルクエスチョンを設定し、文献レビューを実施した。現在、推奨文を確定する作業を行なっている。
(2)コミュニケーションの診療ガイドラインの作成
 前年度までに作成したガイドライン臨床疑問の推奨文について、8関連団体ならびに患者団体による修正型デルファイ法によるガイドライン外部評価を実施した。そして、3つの重要臨床課題、7つの臨床疑問(CQ)について推奨文が確定した。また、ガイドライン作成にあたっては、実装科学の観点から、記載方法に関する提案を受けて、取り入れられた。
(3)不眠ガイドラインの作成
 Mindsガイドライン作成マニュアルに従い、統括委員会、ガイドライン作成グループを設置し、エキスパートによる重要臨床課題の抽出、クリニカルクエスチョンの設定を行った。重要臨床課題にあわせて、わが国のがん患者の実態調査を行う質問票を作成し、オンラインでの調査を実施した。今後、がん患者の精神心理的な支援法に関する診療ガイドラインが作成され、がん患者の生活の質の向上が期待される。また、より一層症状緩和を推進するうえで必要な研究が明らかになることが期待される。
 さらに、本研究で作成された診療ガイドラインの推奨内容の普及と実装については、実装研究により診療ガイドラインの利活用を支援していく有効な方法(実装戦略)を明らかにしていく必要がある。具体的には、1)診療現場の現状を客観的に把握し、利用者が現場に実装する際の促進要因や阻害要因を分析する研究、2)阻害・促進要因に応じた現場での具体的な実装戦略を開発・検証する研究があげられる。
結論
がん患者の「再発恐怖」、「気持ちのつらさ(不安・抑うつ)」、「コミュニケーション」、「不眠」に対する精神心理的な支援法に関する診療ガイドラインが作成されることにより、がん患者の生活の質の向上が期待される。さらに、不足しているエビデンスの構築が期待されるとともに、普及・実装のための方略も示されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208011B
報告書区分
総合
研究課題名
実装を視野に入れたがん患者の精神心理的な支援に関する診療ガイドラインの開発研究
課題番号
20EA1012
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
吉内 一浩(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
  • 奥山 徹(名古屋市立大学大学院 医学研究科 精神・認知・行動医学)
  • 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 支持・サバイバーシップTR研究部 支持・緩和・心のケア研究室)
  • 秋月 伸哉(国立がんセンター東病院 臨床開発センター 精神腫瘍学開発部)
  • 藤澤 大介(慶應義塾大学 医学部)
  • 小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター 東病院 精神腫瘍科)
  • 島津 太一(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、気持ちのつらさ(不安・うつ)、再発恐怖、不眠、コミュニケーションに関する診療ガイドラインの作成を行う。その際、欧米においてガイドラインが半数未満の医療機関でしか使用されていないという問題があるので(Riba MB, J Natl Compr Canc Netw 2019)、普及のための実装科学の知見も取り入れて、ガイドラインの作成を行う。
研究方法
(1)ガイドラインのテーマ
 本研究課題に課せられた通り、「再発恐怖」(世界的に用いられている表現に合わせて再発不安でなく、再発恐怖と表記する)」、「気持ちのつらさ(不安・抑うつ)」、「コミュニケーション」、「不眠」を主たるガイドラインのテーマとした。
(2)ガイドラインの開発方法
日本医療評価機構のMinds診療ガイドラインの作成マニュアルに準拠した方法を用いることとした。
 具体的には、
① 統括委員会、ガイドライン作成グループの設置
② スコープの作成、重要臨床課題・クリニカルクエスチョンの設定
③ 系統的レビューを中心としたエビデンスの収集、評価・統合
④ 推奨文の作成
⑤ 診療ガイドライン草案作成
⑥ 外部評価者(患者等の一般市民の代表を含む)による外部評価
⑦ 診療ガイドライン最終決定
⑧ 公開
という手順を踏む。
 また、気持ちのつらさのクリニカルパスウェイに関して、オーストラリアで作成されたものを参考に作成し、専門家によるデルファイ法を実施する。

(3)倫理面への配慮
本研究は、文献調査ならびに専門家や外部評価者の合議による、ガイドラインの作成が主となるため、倫理上、大きな問題となることはないと考えられるが、世界医師会における「ヘルシンキ宣言」、及び文部科学省/厚生労働省研究「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を遵した。
また、必要な場合には、各研究実施施設においては、研究内容の妥当性や人権擁護上の配慮、安全性への配慮、個人情報の保護、インフォームド・コンセントの対応状況等について、倫理審査委員会の審査を受けた。その際、研究対象者に対しては、インフォームド・コンセントに関する十分な配慮を行い、参加・不参加によって不利益が生じないこと、研究参加が自由意志によるものであること、研究参加をいつでも撤回できること、個人情報について厳重に保護されること等を明記し、書面等による十分な説明のもと、書面にて同意を得た。
結果と考察
(1)再発恐怖に関するガイドライン
 クリニカルクエスチョンとして、「再発恐怖の心理的介入は有効か?」、バックグラウンドクエスチョンとして、「再発恐怖を有するがん患者に対して推奨される介入はなにか?」と設定し、系統的レビューを実施し、論文を抽出した。現在、推奨文を作成している。
(2)がん患者の気持ちのつらさガイドライン
7つのクリニカルクエスチョンを設定し、系統的レビューを行い、現在、外部委員も交えたデルファイ法を実施し、コンセンサスを形成中であり、今後、推奨文を確定させる。
 また、クリニカルパスウェイに関しては、オーストラリアのクリニカルパスウェイを作成グループの許可のもと、日本語版を作成した。今後、それを原案として、専門家によるデルファイ法を実施し、日本におけるクリニカルパスウェイを作成する。
(3)コミュニケーションの診療ガイドラインの作成
Mindsの手順に従って、ガイドラインの作成をおこなった。作成したガイドライン臨床疑問の推奨文について、関連する8団体ならびに患者団体による修正型デルファイ法による1回目のガイドライン外部評価を実施した。推奨、エビデンスレベルについての合意が得られず、追加で2回の会議と、2回のデルファイ評価を行い、第3回のデルファイ評価をもって合意に達し、7つの臨床疑問に対する推奨文を確定した。3つの重要臨床課題、7つの臨床疑問(CQ)について推奨文が確定し、ガイドラインの出版を行なった。
(4)不眠ガイドラインの作成
Mindsガイドライン作成マニュアルに従い、統括委員会、ガイドライン作成グループを設置し、エキスパートによる重要臨床課題の抽出、クリニカルクエスチョンの設定を行った。重要臨床課題にあわせて、わが国のがん患者の実態調査を行う質問票を作成し、オンラインでの調査を実施した。
結論
がん患者の「再発恐怖」、「気持ちのつらさ(不安・抑うつ)」、「コミュニケーション」、「不眠」に対する精神心理的な支援法に関する診療ガイドラインが作成されることにより、がん患者の生活の質の向上が期待される。さらに、不足しているエビデンスの構築が期待されるとともに、普及・実装のための方略も示されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「コミュニケーションガイドライン」に関しては、日本サイコオンコロジー学会のサイトにて全文無料公開を開始した。そして、PEACEプロジェクトの緩和ケア研修会の「コミュニケーション」の単元の資料に、本ガイドラインの紹介を含めた。関連学会等で、普及のための企画では、多くの聴衆を集め、大きな反響があった。「気持ちのつらさガイドライン」に関しては推奨文をを確定し、今後、外部委員の査読を受ける予定である。「不眠症」に関するガイドライン:2024年度中に、ウェブ公開を行う予定である。
臨床的観点からの成果
「がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン」を発刊し、今後、「気持ちのつらさ(再発恐怖、不安・抑うつを含む)」、「不眠症」に関するガイドラインを発刊予定である。がん医療における、精神・心理的分野における唯一のガイドラインシリーズであり、臨床上、大いに役立つことが期待される。
ガイドライン等の開発
「がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン」を発刊し、日本サイコオンコロジー学会のサイトで無料公開を開始した。今後、「気持ちのつらさ(再発恐怖、不安・抑うつを含む)」、「不眠症」に関するガイドラインを発刊予定である。がん医療における、精神・心理的分野における唯一のガイドラインシリーズである。さらに、気持ちのつらさにおけるクリニカルパスウェイを開発予定である。
その他行政的観点からの成果
「がん医療における患者-医療者間のコミュニケーションガイドライン」を発刊し、日本サイコオンコロジー学会のサイトで無料公開を開始した。そして、PEACEプロジェクトの緩和ケア研修会の「コミュニケーション」の単元の資料として、PEACEプロジェクに含めることができた。今後、「気持ちのつらさ」、「不眠症」に関するガイドラインを発刊予定である。これらにより、医療の質の担保と均てん化が期待される。さらに、開発中の「気持ちのつらさにおけるクリニカルパスウェイ」により、効率的な医療・医療費の削減が期待される。
その他のインパクト
今後、開発中のガイドラインや、クリニカルパスウェイは、順次、日本サイコオンコロジー学会のホームページに掲載予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
66件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
ガイドライン作成1件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kurisu K, Hashimoto M, Ishizawa T, et al.
Development of computer adaptive testing for measuring depression in patients with cancer.
Scientific Reports  (2022)
原著論文2
Yoshikawa E, Fujisawa D, Hisamura K, et al.
The Potential Role of Peer Support Interventions in Treating Depressive Symptoms in Cancer Patients.
Journal of Nippon Medical School  (2022)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-06-21

収支報告書

文献番号
202208011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,700,000円
(2)補助金確定額
11,700,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,466,416円
人件費・謝金 4,829,313円
旅費 693,441円
その他 975,879円
間接経費 2,700,000円
合計 0円

備考

備考
当初は文献検索を外部に依頼することを予定していたが、研究補助員等で対応することにしたため、残預金が生じた。ただし、このことによる研究内容への影響はない。

公開日・更新日

公開日
2024-06-21
更新日
-