患者・家族の意思決定能力に応じた適切な意思決定支援の実践に資する簡便で効果的な支援プログラムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
202208010A
報告書区分
総括
研究課題名
患者・家族の意思決定能力に応じた適切な意思決定支援の実践に資する簡便で効果的な支援プログラムの開発に関する研究
課題番号
20EA1011
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野)
研究分担者(所属機関)
  • 長島 文夫(杏林大学 医学部腫瘍内科学)
  • 濱口 哲弥(埼玉医科大学 医学部 )
  • 海堀 昌樹(関西医科大学 医学部)
  • 平井 啓(大阪大学 大学院人間科学研究科)
  • 渡邉 眞理(湘南医療大学 保健医療学部 看護学科)
  • 稲葉 一人(中京大学 法務総合教育研究機構 法務研究所)
  • 松井 礼子(国立がん研究センター東病院 薬剤部)
  • 五十嵐 隆志(国立がん研究センター東病院 薬剤部)
  • 奥山 絢子(聖路加国際大学 看護研究科)
  • 水谷 友紀(杏林大学 医学部腫瘍内科学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者の増加を背景に、意思決定に関しての知識の普及や実践の必要性が指摘されている。意思決定は、医療においては適切なインフォームド・コンセントを実現する上で最重要な課題であるとともに、療養生活の質を向上させるためには、アドバンス・ケア・プランニングでも中心的なテーマである。近年では、がん以外の疾病への緩和ケアを適応する動きが求められる中で、がん医療のみならず、循環器や老年医療においても検討されつつある。緩和ケアにおける経験と実践が、より広く社会に貢献することも強く期待される領域である。本研究においては、高齢者等における意思決定支援の現状を把握するとともに、教育プログラムの開発、実装するための支援プログラム、意思決定支援の質の向上に資する情報の収集・解析を目指して計画を進めた。
研究方法
1. 高齢がん患者に対する意思決定支援の現状把握
がん診療連携拠点病院の相談支援センターの相談員、緩和ケアチーム専従看護師を対象とし、各施設2名に回答を依頼した。

2.高齢がん患者における治療に伴う負担の検討
全国のがん診療病院431施設の院内がん登録とリンケージさせたDPC導入の影響評価に係る調査データを用いて、非小細胞肺がんと乳がんについて年齢階級別に外科手術後の日常生活動作が10点以上低下した者の割合を算出した。

3. 看護師、相談員を対象とした意思決定支援
高齢がん患者の意思決定を支援する医療職(医師、看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士等)を対象に、研究班で作成した軽度認知症がん患者の意思決定場面と中等度から高度認知症がん患者の意思決定支援場面のトリガービデオ教材を用いて、高齢がん患者の意思決定支援プログラムに基づいた研修会を開催した。

4. オンラインによる多職種向けの研修の試行
これまでのプログラム実施データを統合し、幅広い医療従事者を対象とした,意思決定支援に関する研修プログラムの効果を検討することを目的とする。対面型・オンライン型といった実施形態によって、ワークの種別を変えていることから、本報告書ではオンライン形式のものに限定し、分析した。

5. 多職種検討会の開催
老年腫瘍学の専門家を中心に各専門家などの老年医学または腫瘍学に精通した多職種が参画し、高齢者のがん診療に関する情報の普及・啓発をするための勉強会を検討した。
結果と考察
1. 高齢がん患者に対する意思決定支援の現状把握
高齢がん患者の意思決定支援の現状を評価するために、がん診療連携拠点病院を対象に現状調査を行った。その結果、
① 7割のがん診療連携拠点病院において、自施設で加療している高齢がん患者の半数以上に何らかの意思決定支援が必要
② 一方で、85%の施設では、必要な意思決定支援のうち、半数以下しか提供されていない
と評価していた。今回、半数以上のがん診療連携拠点病院において、臨床上必要である状況にもかかわらず、提供できていない実態が把握された。

2.高齢がん患者における治療に伴う負担の検討
非小細胞肺がんの75歳以上では若い世代と比較して、ややADL低下割合が高くなる傾向があったが、ADLが10点以上低下した患者の割合は胸腔切除を受けた患者であっても5%未満であった。但し、年齢が高くなるほど手術を受けていない患者の割合が多く、手術に耐えられると判断された患者が手術を受けた結果であることには留意が必要である。

3. 看護師、相談員を対象とした意思決定支援
中等度から高度認知症がん患者の意思の推定が必要な教育プログラムの充実、具体的にはワークシート及びファシリテーターマニュアルの改善が示唆された。

4. オンラインによる多職種向けの研修の試行
意思決定支援に関する知識の変容が一部見られ、効力感については多くの側面で向上することが確認できた。つまり、これらの研修は、参加者の効力感向上に寄与するという点で効果がある。
 一方、行動科学の知見を活かした支援のあり方や具体的な方法を提示したことにより、支援への効力感が複数項目で向上した。行動科学的な視点を導入し、応用することができるといった視座を提供できたことにより、効力感が向上したと考えられる。

5. 多職種検討会の開催
WEB勉強会を開催し、学際的な情報発信ができた。
結論
高齢がん患者を中心に、がん医療における意思決定支援の現状を質的量的に検討し、その結果に基づく、わが国の意思決定支援の質の向上を目指して教育プログラム、支援プログラムの開発を進めた。教育プログラムの実施可能性を確認した。今後複合プログラムを用いた介入につなげる予定である。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208010B
報告書区分
総合
研究課題名
患者・家族の意思決定能力に応じた適切な意思決定支援の実践に資する簡便で効果的な支援プログラムの開発に関する研究
課題番号
20EA1011
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター 先端医療開発センター精神腫瘍学開発分野)
研究分担者(所属機関)
  • 長島 文夫(杏林大学 医学部腫瘍内科学)
  • 濱口 哲弥(埼玉医科大学 医学部)
  • 海堀 昌樹(関西医科大学 医学部)
  • 平井 啓(大阪大学 大学院人間科学研究科)
  • 渡邉 眞理(湘南医療大学 保健医療学部看護学科)
  • 稲葉 一人(中京大学 法務総合教育研究機構法務研究所)
  • 松井 礼子(国立がん研究センター東病院 薬剤部)
  • 五十嵐 隆志(国立がん研究センター東病院 薬剤部)
  • 奥山 絢子(聖路加国際大学 看護研究科)
  • 水谷 友紀(杏林大学 医学部腫瘍内科学)
  • 中山 健夫(京都大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
意思決定は、医療においては適切なインフォームド・コンセントを実現する上で最重要な課題であるとともに、療養生活の質を向上させるためには、アドバンス・ケア・プランニングでも中心的なテーマである。近年では、がん以外の疾病への緩和ケアを適応する動きが求められる中で、がん医療のみならず、循環器や老年医療においても検討されつつある。緩和ケアにおける経験と実践が、より広く社会に貢献することも強く期待される領域である。そこで、本研究においては、高齢者等における意思決定支援の現状を把握するとともに、教育プログラムの開発、実装するための支援プログラム、意思決定支援の質の向上に資する情報の収集・解析を目指して計画を進めた。
研究方法
1. 高齢がん患者に対する意思決定支援の現状把握
がん診療連携拠点病院の実態調査を行った。
2.高齢がん患者における治療に伴う負担の検討
がん診療連携拠点病院等を中心とするがん診療病院の院内がん登録とDPC導入の影響評価に係る調査データを用いて、高齢のがん患者における治療負担を検討するために、入院加療後の日常生活動作(Activity of Daily Living, ADL)低下、入院日数、及び退院から6ヶ月以内の予期せぬ再入院割合について調査した。
3. 看護師、相談員を対象とした意思決定支援
高齢がん患者の意思決定を支援する看護師に対し、高齢がん患者の意思決定支援教育プログラム案を実施し、教育プログラム案の内容の評価と課題の検討を行った。
4. オンラインによる多職種向けの研修の試行
医療従事者を対象に,意思決定支援に関する制度や考え方,認知・身体・アセスメント方法の理解と獲得を目的とした研修プログラムを実施し,その効果を検討した。
5. 日常診療で使用する場合に推奨されるGAツールの選定
どのGAツールが日本のがん診療現場で正しく利用できるのか、どのGAツールを用いるべきなのかについて意思決定支援をする前段階の情報の整理することを目的として、日常診療で使用する際に推奨されるGAツールを策定した。
結果と考察
1. 高齢がん患者に対する意思決定支援の現状把握
① 7割のがん診療連携拠点病院において、自施設で加療している高齢がん患者の半数以上に何らかの意思決定支援が必要
② 一方で、85%の施設では、必要な意思決定支援のうち、半数以下しか提供されていない
と評価していた。加えて自施設の医療従事者において、意思決定能力の評価、意思決定支援の手段、意思の推定に関しては、半数以上の施設が習熟していないと評価していた。

2.高齢がん患者における治療に伴う負担の検討
本研究では、全国のがん診療病院431施設のデータを用いて、胃癌、大腸癌、膵臓癌における治療に伴う入院日数、ADL低下、予期せぬ再入院割合等について明らかにした。早期胃癌、大腸癌への内視鏡的切除術に関しては、75歳未満と75歳以上において治療に伴う入院日数やADL低下の影響は同程度であった。一方で、開腹手術では75歳未満と比較し、75歳以上では入院日数が長くなる傾向にあり、ADL低下割合、予期せぬ再入院割合がやや高くなる傾向にあった。

3. 看護師、相談員を対象とした意思決定支援
高齢がん患者に意思決定を支援する看護師を対象とした教育プログラム案でトリガービデオ教材を用いて実施した。教育プログラム案の指針となる「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」の活用が増加していた。教育プログラム案の課題として、
・支援の時間の調整
・支援者や第三者の影響への配慮
・地域を含めた多職種チームとの共有
の内容を強化する必要性が示唆された。

4. オンラインによる多職種向けの研修の試行
研修の前後で収集したデータの変化から,研修プログラムの一定の効果は確認された。これまでに実施した研修に比べ、それぞれの職種の専門性やチーム医療に焦点を当てたポイントを含んでいた。
診察行動、意思決定支援の構成要素の実施に関しては、少ないサンプルながら実際の医療現場における実施率の概要が示唆された。アセスメントや支援スキルの発揮はそれぞれ行われていることが伺われるものの、その関連性や個別に合わせた支援といった観点を意識した実施を促すような介入を今後実施する必要があると考えられる。

5. 日常診療で使用する場合に推奨されるGAツールの選定
 今回、日常診療で使用する際に推奨される高齢者機能評価について、エキスパートのコンセンサスを策定した。
結論
がん診療連携拠点病院での意思決定支援の質の向上を目的に、意思決定支援の教育プログラムを開発した。今後、各がん診療連携拠点病院を対象に介入を進める予定である。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
DPC結合データを用いることで、全国規模での高齢がん患者の入院に伴う治療日数、ADL低下、予期せぬ再入院の発生等について明らかにした。意思決定支援に関するオンラインを用いた教育プログラムを開発しその効果を検証した。アセスメントや支援スキルの発揮に関して行動変容は生じるものの、個別性に合わせた支援を促す工夫などその限界も明らかとなった。
臨床的観点からの成果
がん診療連携拠点病院の7割で、高齢がん患者の半数以上に意思決定支援の必要があると認識する一方、85%の施設で実際に提供されているのは半数以下と認識しており、意思決定支援の提供が遅れていることが確認された。この現状を踏まえ、意思決定支援の質を高めることを目的とした教育プログラムを開発・効果を検証した。今後、開発した教育プログラムを実施することにより、高齢がん患者に対する意思決定支援の質の向上を図ることが可能である。
ガイドライン等の開発
がん診療連携拠点病院を対象とした「高齢がん患者の意思決定支援に関する手引き」の診療での実装を目指した教育プログラムを開発した。あわせて、日常診療で使用する際に推奨される高齢者機能評価について、エキスパートのコンセンサスを策定した。
その他行政的観点からの成果
高齢がん患者の意思決定支援に関する手引きを作成するとともに、手引きの普及に資する教育プログラムを開発した。医療機関内での意思決定支援の実施頻度については、厚生労働省委託事業成年後見制度利用促進現状調査等とも共有し、意思決定支援ガイドラインに共通した研修資料の作成に活用された。
その他のインパクト
高齢がん患者の診療に関する情報共有を目的とした研究会を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
11件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
N Sakata YO, A Ogawa.
Postoperative Pain Treatment in Patients with Dementia:A Retrospective Observational Study.
Drugs & Aging , 39 (4) , 305-311  (2022)
10.1007/s40266-022-00932-3
原著論文2
Hatanaka T, Kaibori M、et al
The prognosis of elderly patients with hepatocellular carcinoma: A multi-center 19-year experience in Japan.
Cancer Med , 12 (1) , 345-357  (2023)
10.1002/cam4.4850
原著論文3
小川朝生
各併存疾患の対策と管理 がん
内科 , 129 (6) , 1307-1310  (2022)
原著論文4
小川朝生
〈高齢者診療〉認知症診療の診療評価指標
medicina , 59 (11) , 1962-1965  (2022)
原著論文5
長島文夫
今こそ考えたい!高齢がん患者を取り巻く課題・解決策
CNJ News / CNJ Report , 27 , 2-5  (2023)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-06-10

収支報告書

文献番号
202208010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,000,000円
(2)補助金確定額
11,924,000円
差引額 [(1)-(2)]
76,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 215,980円
人件費・謝金 3,708,437円
旅費 342,838円
その他 4,888,080円
間接経費 2,769,000円
合計 11,924,335円

備考

備考
自己資金:335円

公開日・更新日

公開日
2024-05-23
更新日
-