体脂肪減少因子を用いた2型糖尿病の治療

文献情報

文献番号
200907007A
報告書区分
総括
研究課題名
体脂肪減少因子を用いた2型糖尿病の治療
課題番号
H19-ゲノム・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武田 純(岐阜大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 堀川 幸男(岐阜大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 英司(岐阜大学大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
26,280,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人2型糖尿病はやせ型インスリン分泌不全を体質的特徴とするので、肥満などのインスリン抵抗性による分泌デマンドを代償できず耐糖能異常が惹起される。従って、効率的な体脂肪減が望め、しかも血糖改善を同時に見込める治療は理想的である。膵島トランスクリプトームや転写標的をシーズとし、臨床応用に直結する液性因子の同定と作用機序の解明により、耐糖能異常と肥満の改善治療の開発を目指す。
研究方法
ラット膵島ESTデータベースを用いて分泌蛋白をスクリーニングした。さらに糖尿病ラットにおいて発症の有無に関して発現レベルの変化遺伝子を求めた結果、32kDa分子をコードする遺伝子を同定した。同分子を強発現させたところ、グルコース負荷前後の血糖低下と体脂肪蓄積の変化が観察され、肝での糖脂質代謝が背景因子であることが示唆された。そこで実験動物の成績をヒトで確認するために、同分子の糖尿病患者における臨床所見との関連を解析して臨床応用を目指した。同時に、同代謝において重要な役割を担う転写因子ChREBPとその標的液性因子の血糖改善効果の機序の解析を行った。
結果と考察
糖尿病患者において、BMI、罹病年数、eGFR、血糖値、CPR、HbA1c、baPWV、平均IMTなどの臨床所見と、空腹時および食後の血中32kDaとの間に有意の相関は認めなかった。一方、SU薬とインスリンを使用していない28人を抽出して解析した結果、食後2時間での血中32kDaとCPRとの間に有意の相関を認め、マーカーとなる可能性が示唆された。
 ChREBP抑制が耐糖能と肥満を改善することを明らかにしている。ラット肝細胞において、グルコース刺激およびChREBP過剰発現によりFGF-21発現が誘導され、一方、ChREBP活性を優性阻害する Mlx 発現によりグルコースによるFGF21誘導が阻害されることを明らかにした。次に、FGF-21を肝臓で強発現させたところ血糖降下作用が認められたが、ChREBP標的の発現レベルは不変であった。FGF21は血糖降下作用により間接的にChREBP転写活性を抑制するフィードバック機構が示唆された。 
結論
32kDa蛋白やFGF21などの液性因子は患者の血中測定や投与が容易であり臨床応用に直結するので、膵島トランスクリプトーム活用や糖脂質代謝の責任転写因子の標的液性因子の探索は有効である。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200907007B
報告書区分
総合
研究課題名
体脂肪減少因子を用いた2型糖尿病の治療
課題番号
H19-ゲノム・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武田 純(岐阜大学大学院 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 堀川 幸男(岐阜大学 医学部附属病院)
  • 鈴木 英司(岐阜大学大学院 医学系研究科)
  • 飯塚 勝美(岐阜大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人2型糖尿病はインスリン分泌不全を基本病態とするので、肥満によるインスリン抵抗性の分泌デマンドを代償できずに食後血糖から上昇する。従って、効率的な体脂肪減少と血糖改善を同時に見込める治療は理想的である。液性因子は血中測定や投与が容易なので創薬に直結する。膵島トランスクリプトームをシーズとし、分泌蛋白コード遺伝子の同定と作用機序の解明により、耐糖能異常と肥満の改善治療の開発を目指す。
研究方法
ラット膵島ESTを用いて分泌蛋白をコードする遺伝子をスクリーニングした。さらに糖尿病GKラットを用いて発現プロフィールを解析した結果、疾患発症の前後で発現レベルが有意に変化する32kDa分子を同定した。同分子をアデノウイルス系により強発現させたところ、グルコース負荷前後の血糖値の低下と体脂肪蓄積が変化することが観察された。そこで実験動物を用いて生理作用を解明すると共に、同分子のヒト血中測定系を確立し、糖尿病者における臨床所見との関連を解析して創薬応用を図った。
結果と考察
糖負荷試験では、32kDa分子の強発現は、血中インスリンを変化させずに負荷前後で血糖値を有意に低下させた。肝の解糖系酵素の発現は有意に亢進し、糖新生系の酵素発現は有意に抑制されていた。一方、インスリン感受性には顕著な変化はなく、末梢の体脂肪蓄積は有意に減少し、逆に血中TGおよび肝重量と脂肪含量は増大した。肝の糖取込みの亢進が血糖低下の主たる背景であり、その結果、体脂肪が遊離脂肪酸に分解されて肝に移行したと推定された。一方、ヒトで種々の臨床所見との関連を検討した結果、肥満度との有意の相関や、糖尿病治療薬を使用していない軽症例群では食後での血中32kDaレベルとCペプチドの間に有意の相関を認めた。また、血中レベルと相関するコード遺伝子多型をイントロン8に同定した。
結論
肝の糖取込みの促進は早期の2型糖尿病の食後血糖の是正にとって有望であり、さらに、体脂肪の減少と耐糖能改善を同時に望める薬剤は理想的である。血中レベルの測定は健診など早期診断に有用であり、32kDa分子の血中レベルと相関するSNP多型の同定は投与基準の判断や薬剤感受性の検定にとって有用と期待される。モデル動物の作成と解析は、糖尿病の発症機構の解明においても新しい病態モデルを提示できる可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200907007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖尿病ではインスリン作用不足により、肝の糖取込み低下と糖放出が生じ血糖値が上昇する。膵島ゲノムシーズの探索により、インスリン分泌を介さず、肝糖取込みを促進させて血糖を低下させる32kDa液性分子を同定した。興味深いことに、同時に体脂肪は分解され、放出された遊離脂肪酸は肝の脂質蓄積に移行することが観察された。従って、32kDa分子の解析は新しい糖脂質代謝機構を明らかにする可能性がある。
臨床的観点からの成果
液性因子を基盤とした創薬は、投与治療や血中測定など臨床に直結する。効果的な体脂肪減量と耐糖能改善が同時に見込める観点から32kDa分子治療は理想的であり、血糖降下作用がインスリン分泌に依存しないことから、病態の新しいメカニズムが提示される可能性がある。一方、ヒトの解析から、32kDa分子の血中レベルは肥満度や耐糖能と有意に関連したので、疾患の早期診断マーカーになる可能性も期待される。
ガイドライン等の開発
該当せず
その他行政的観点からの成果
耐糖能異常の健診スクリーニングの多くは、空腹時血糖値またはHbA1cの測定が基本である。しかし、いわゆる「かくれ糖尿病」を検出するためには不十分であり、全てに糖負荷試験を実施することは現実的ではない。32kDa分子は、空腹時血糖値やHbA1cに加えて新たな早期検出マーカーとなる可能性があり、保健行政の健診事業において効率化が望める。
その他のインパクト
2型糖尿病の予防と治療に体脂肪の減少は重要である。しかし、食事療法と運動療法を中心とした減量は長期努力を要するので、続かず十分な改善に至らない場合が大半である。従って、体脂肪蓄積と耐糖能異常の改善を同時に目指す治療は、継続的な運動やインスリン治療が困難な高齢化社会では老人の生活自立阻害を予防する。そこで、高い需要を見込んで32kDa分子の創薬と診断ツールへの応用について特許申請を準備している。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
29件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
E. Kuroda, Y. Horikawa, M. Enya, et al.
Identification of minimal promoter and genetic variants of Kruppel-like Factor 11 gene and association analysis with type 2 diabetes in Japanese.
Endocrine Journal , 56 (2) , 275-286  (2009)
原著論文2
K. Iiduka, J. Takeda, Y. Horikawa
Hepatic overexpression of dominant negative Mlx improves metabolic profile in diabetes-prone C%'BL/6j mice.
Biochemical and Biophysical Research Communication , 379 , 499-504  (2009)
原著論文3
K. Iiduka, J. Takeda, Y. Horikawa
Glucose induces FGF mRNA expression through ChREBP activation in rat hepatocytes.
FEBS Letter , 583 , 2882-2886  (2009)
原著論文4
K. Miyake, W. Yang, K. Hara, et al.
Construction of a prediction model for type 2 diabetes mellitus in the Japanese population based on eleven genes with strong evidence of the association.
Journal of Human Genetics , 54 , 236-241  (2009)
原著論文5
K. Yasuda, K. Miyake, Y. Horikawa, et al.
Variants in KCNQ1 are associated with susceptibility to type 2 diabetes mellitus.
Nature Genetics , 40 , 1092-1097  (2008)
原著論文6
M. Enya, Y. Horikawa, E. Kuroda, et al.
Mutations in the small heterodimer partner gene increase morbidity risk in Japanese type 2 diabetes patients.
Human Mutation , 29 , 271-277  (2008)
原著論文7
Y. Horikawa, K. Miyake, K. Yasuda, et al.
Replication of genome-wide association studies of type 2 diabetes susceptibility in Japan.
Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism , 93 , 3136-3141  (2008)
原著論文8
H. Sato, Y. Horikawa, K. Iizuka, et al.
Large-scale analysis of glucocorticoid target genes in rat hypothalamus.
Journal of Neurochemistry , 106 , 805-814  (2008)
原著論文9
M. Zenibayashi, K. Miyake, Y. Horikawa, et al.
Lack of association of LRP5 and LRP6 polymorphisms with type 2 diabetes mellitus in the Japanese.
Endocrine Journal , 55 , 699-707  (2009)
原著論文10


公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-