抗精神病薬と抗うつ薬のファーマコジェネティックス

文献情報

文献番号
200907002A
報告書区分
総括
研究課題名
抗精神病薬と抗うつ薬のファーマコジェネティックス
課題番号
H19-ゲノム・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
功刀 浩(国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 稲田 俊也(財団法人神経研究所附属晴和病院)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 下田 和孝(獨協医科大学)
  • 尾関 祐二(獨協医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
29,973,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、精神疾患の病態に関与する可能性のある遺伝子や薬物代謝に関わる遺伝子の多型と抗精神病薬・抗うつ薬への薬物応答(治療反応性、重大な副作用)との関連を検討し、ゲノム情報を活用することにより効率的で薬害の少ないテーラーメード医療の実現につながる知見を得ることを目的とする。
研究方法
患者のDNA等試料収集を行い、抗うつ薬に対する治療反応性が明らかな患者のDNAサンプルを用いてゲノムワイド関連解析を行い、治療反応性と強く関連する遺伝子を同定した。また、うつ病の全ゲノム解析や候補遺伝子研究を行い、抗うつ薬の作用点の探索を行った。
パニック障害に対するパロキセチンによる治療反応性予測因子を検討した。
613人の抗うつ薬治療を受けている患者を対象に向精神薬による心電図上のQT延長のリスク要因を探索した。
遅発性ジスキネジアの発症脆弱性に関わっている遺伝子を探索した。
結果と考察
①患者・健常者のDNA等試料をおよそ200例収集した。
②抗うつ薬に対する治療反応性が明らかなうつ病患者のDNAサンプルを用いて37万SNPsチップを用いたゲノムワイド関連解析を行い、治療反応性と強く関連する7遺伝子を同定した。これは治療反応性予測キットなどの作成に有用な知見となる。また、うつ病の100万SNPsチップによる全ゲノム解析を行い、関連が強く示唆される領域に関するデータを得た。
③セロトニン2A受容体遺伝子多型、CLOCK遺伝子多型と抗うつ薬の反応性が関連していることを示唆する結果を得た。
④パニック障害では、パロキセチン血中濃度が高値、5HTTR L型を保有していることが負の相関因子として、正の相関因子として5-HT1A受容体遺伝子型C/C型が治療反応性と有意な相関がみられた。
⑤抗うつ薬治療を受けている患者におけるQT間隔延長のリスク要因として、女性、高齢、三環系抗うつ薬の服用、抗精神病薬の併用が、QT間隔と有意に関係していた。これは突然死予防に役立つ所見である。
⑥DPP6遺伝子が遅発性ジスキネジアの発症脆弱性に関わっている可能性を示唆する所見を得た。
結論
テーラーメード医療に資する研究成果、臨床応用に結び付き得る所見が多数得られた。本研究によって、今後、抗うつ薬や抗精神病薬によるテーラーメード医療が実現すれば、精神疾患患者の早期社会復帰の実現、自殺者の減少、医療費の削減など、国民の医療・福祉に大きく貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200907002B
報告書区分
総合
研究課題名
抗精神病薬と抗うつ薬のファーマコジェネティックス
課題番号
H19-ゲノム・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
功刀 浩(国立精神・神経センター 神経研究所 疾病研究第三部)
研究分担者(所属機関)
  • 稲田 俊也(財団法人神経研究所附属晴和病院)
  • 岩田 仲生(藤田保健衛生大学 医学部)
  • 下田 和孝(獨協医科大学)
  • 尾関 祐二(獨協医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(ヒトゲノムテーラーメード研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、精神疾患の病態に関与する可能性のある遺伝子や薬物代謝に関わる遺伝子の多型と抗精神病薬・抗うつ薬への薬物応答(治療反応性、重大な副作用)との関連を検討し、ゲノム情報を活用することにより効率的で薬害の少ないテーラーメード医療の実現につながる知見を得ることを目的とする。
研究方法
①うつ薬に対する治療反応性が明らかな気分障害患者を対象に37万SNPsチップや100万SNPsチップを用いた全ゲノム解析を行い、②さらに、薬物動態や薬力学的に重要な候補遺伝子についてタイピングを行った。③抗精神病薬リスペリドンによって治療されている統合失調症患者について10万SNPsチップによる全ゲノム解析を行い、リスペリドン投与マウスの遺伝子発現解析と並行して検討を行い、治療反応性を予測する遺伝子を同定した。④パロキセチンで治療されているパニック障害の治療反応性予測因子を探索した。⑤1500名の精神疾患患者を対象に、向精神薬投与と心電図上のQT間隔との関連を検討した。⑥抗精神病薬の重大な副作用である遅発性ジスキネジアのリスク遺伝子について全ゲノム解析により探索した。
結果と考察
①全ゲノム解析を行い、PDLIM5などの抗うつ薬反応性と関連のある遺伝子を多数見出したが、特に有望なもの7遺伝子を同定した。これは治療反応性予測キットなどの作成に有用な知見となる。また、うつ病のリスク遺伝子の候補を多数同定した。②CYP2D6、ABCG2、DISC1、GRM3などの遺伝子多型が抗うつ薬の治療反応性と有意に関連することを見出した。③リスペリドンへの治療反応性を予測する確度の高い遺伝子を14個同定した。④パニック障害では、パロキセチン血中濃度が高値、5HTT L/S遺伝子型を保有していることなどが、初期治療反応性が不良であることと関連していた。⑤女性、高齢、抗精神病薬の高用量使用、ハロペリドール注射、三環系抗うつ薬の内服などがQTc間隔の延長のリスクとなることを明らかにした。⑥GABRG3遺伝子とDPP6遺伝子が遅発性ジスキネジアの発症脆弱性に関わっている可能性を強く示唆する多面的なエビデンスを得た。
結論
抗うつ薬や抗精神病薬への治療反応性を規定する要因を多数明らかにした。これらは、効果的で薬害の少ないオーダーメイド医療実現のための貴重な知見となる。また、薬物の作用メカニズムを明らかにする上でも有用である。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200907002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
抗うつ薬や抗精神病薬への治療反応性を規定する遺伝子をSNPsチップにより網羅的に解析してデータベースを構築し、抗うつ薬への反応性を規定する遺伝子7個、抗精神病薬への反応性を規定する遺伝子14個、抗精神病薬の重大な副作用である遅発性ジスキネジアの発症リスクを高める遺伝子を見出した。学術的には、最先端の遺伝子解析手法による極めて貴重な知見である。向精神薬によるQTc延長に関して1500人の調査を行いそのリスク要因を解明した調査も世界最大級のものであり、優れた成果であるといえる。
臨床的観点からの成果
臨床的には、抗うつ薬や抗精神病薬の反応性、あるいはこれらの向精神薬による副作用を規定する遺伝子がわかれば、あらかじめ患者のゲノム情報を利用することによって、治療効果の予測や副作用出現の予測が可能となり、効率的で薬害の少ないテーラーメード医療が可能となるため、臨床的に極めて有意義な情報となる。また、QTc延長のリスク要因やパニック障害の初期治療反応性を予測する要因を明らかにした点も、臨床的に重要な知見である。
ガイドライン等の開発
現在のところ、患者のゲノム情報を活用することにより、効率的で薬害の少ないテイラーメード医療を実践することは、諸外国や我が国において、ガイドラインには殆ど含まれていない。しかし、本研究の知見を活用することによって、ゲノム情報を活用した薬の使い分けのガイドラインの作成に今後大きく貢献するであろう。また、QTc延長のリスク要因やパニック障害の初期治療反応性を予測する要因を明らかにした点も、薬物使用上のガイドライン作成に役立つ。
その他行政的観点からの成果
今後の医療行政の方向性として、患者のゲノム情報をチップカードなどに入れておき、医療機関において患者の遺伝特性に見合った薬物選択に活用すること(テーラーメード医療)が可能になることが求められている。本研究はそのためのデータ・ベースを構築するものであり、このような行政施策を進めるうえで必要不可欠な研究である。また、突然死と関連するQTc延長などのリスクと関連する薬剤を特定した点は、薬物行政施策上、極めて重要な知見である。
その他のインパクト
本研究の成果は、Biological Psychiatry, Human Molecular Genetics, Neuropsychopharmacologyなどのインパクトの高い英文雑誌に多数公表された。2008年9月19日の朝日新聞においてわれわれの遺伝子研究の成果が取り上げられた。今後、本研究で得られた知見をもとに、テーラーメード医療が実現すれば、それについても新聞・テレビなどのマスコミなどにも発表していく予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
67件
その他論文(和文)
23件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
58件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Izumi A, Iijima Y, Noguchi H et al
Genetic Variations of Human Neuropsin Gene and Psychiatric Disorders: Polymorphism Screening and Possible Association with Bipolar Disorder and Cognitive Functions
Neuropsychopharmacology , 33 , 3237-3245  (2008)
原著論文2
Mizuguchi T, Hashimoto R, Itokawa M et al
Microarray comparative genomic hybridization analysis of 59 patients with schizophrenia
J Hum Genet , 53 (10) , 914-919  (2008)
原著論文3
Ji X, Takahashi N, Saito S et al
Relationship between three serotonin receptor subtypes (HTR3A, HTR2A and HTR4) and treatment-resistant schizophrenia in the Japanese population
Neurosci Lett , 435 , 95-98  (2008)
原著論文4
Ikeda M, Hikita T, Taya S et al
Identification of YWHAE, a gene encoding 14-3-3epsilon, as a possible susceptibility gene for schizophrenia
Hum Mol Genet , 17 (20) , 3212-3222  (2008)
原著論文5
Ikeda M, Yamanouchi Y, Kinoshita Y et al
Variants of dopamine and serotonin candidate genes as predictors of response to risperidone treatment in first-episode schizophrenia
Pharmacogenomics , 9 (10) , 1437-1443  (2008)
原著論文6
Ikeda M, Takahashi N, Saito S, et al
Failure to replicate the association between NRG1 and schizophrenia using Japanese large sample
Schizophr Res , 101 , 1-8  (2008)
原著論文7
Masui T, Hashimoto R, Kusumi I, et al
A possible association between missense polymorphism of the breakpoint cluster region gene and lithium prophylaxis in bipolar disorder
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 32 (1) , 204-208  (2007)
原著論文8
Numata S, Ueno S, Iga J et al
TGFBR2 gene expression and genetic association with schizophrenia
J Psychiatr Res , 42 (6) , 425-432  (2008)
原著論文9
Kishi T, Ikeda M, Kitajima T et al
Genetic association analysis of tagging SNPs in alpha4 and beta2 subunits of neuronal nicotinic acetylcholine receptor genes (CHRNA4 and CHRNB2) with schizophrenia in the Japanese population
J Neural Transm , 115 (10) , 1457-1461  (2008)
原著論文10
Fujii T, Uchiyama H, Yamamoto N et al
Possible association of the semaphorin 3D gene (SEMA3D) with schizophrenia
J Psychiatr Res  (2010)
原著論文11
Ozeki Y, Fujii K, Kurimoto N et al
QTc prolongation and antipsychotic medications in a sample of 1017 patients with schizophrenia
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 34 (2) , 401-405  (2010)
原著論文12
Kishi T, Kitajima T, Ikeda M et al
Association study of clock gene (CLOCK) and schizophrenia and mood disorders in the Japanese population
Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci , 259 (5) , 293-297  (2009)
原著論文13
Kishi T, Moriwaki M, Kitajima T et al
Effect of aripiprazole, risperidone, and olanzapine on the acoustic startle response in Japanese chronic schizophrenia
Psychopharmacology , 209 (2) , 185-190  (2010)
原著論文14
Kishi T, Kitajima T, Ikeda M et al
CLOCK may predict the response to fluvoxamine treatment in Japanese major depressive disorder patients
Neuromolecular Med , 11 (2) , 53-57  (2009)
原著論文15
Ikeda M, Aleksic B, Kirov G et al
Copy number variation in schizophrenia in the Japanese population
Biol Psychiatry , 67 (3) , 283-286  (2010)
原著論文16
Ikeda M, Tomita Y, Mouri A et al
Identification of novel candidate genes for treatment response to risperidone and susceptibility for schizophrenia: integrated analysis among pharmacogenomics, mouse expression, and genetic case-control association approaches
Biol Psychiatry , 67 (3) , 263-269  (2010)
原著論文17
Kishi T, Yoshimura R, Kitajima T et al
HTR2A is Associated with SSRI Response in Major Depressive Disorder in a Japanese Cohort
Neuromolecular Med  (2009)
原著論文18
Kishi T, Yoshimura R, Okochi T, Fukuo Y et al
Association analysis of SIGMAR1 with major depressive disorder and SSRI response
Neuropharmacology  (2010)
原著論文19
Kishi T, Kitajima T, Ikeda M et al
Orphan nuclear receptor Rev-erb alpha gene (NR1D1) and fluvoxamine response in major depressive disorder in the Japanese population
Neuropsychobiology , 59 (4) , 234-238  (2009)
原著論文20
Masui T, Hashimoto R, Kusumi I et al
A possible association between missense polymorphism of the breakpoint cluster region gene and lithium prophylaxis in bipolar disorder
Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry , 32 (1) , 204-208  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-