文献情報
文献番号
202207018A
報告書区分
総括
研究課題名
出生前診断の提供等に係る体制の構築に関する研究
課題番号
20DA2003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小西 郁生(京都大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 山田 崇弘(北海道大学病院 臨床遺伝子診療部)
- 三宅 秀彦(お茶の水女子大学 基幹研究院)
- 西垣 昌和(国際医療保健大学大学院 医療福祉学研究科)
- 山田 重人(京都大学大学院 医学研究科)
- 関沢 明彦(昭和大学 医学部 産婦人科学講座)
- 奥山 虎之(埼玉医科大学 ゲノム医療科)
- 倉橋 浩樹(藤田医科大学 総合医科学研究所・分子遺伝学)
- 小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
- 佐々木 規子(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 左合 治彦(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター)
- 浜之上 はるか(横浜市立大学附属病院 遺伝子診療科)
- 増崎 英明(佐世保市総合医療センター)
- 三上 幹男(東海大学医学部)
- 山本 俊至(東京女子医科大学 医学部)
- 久具 宏司(東京都立墨東病院)
- 金井 誠(信州大学医学部附属病院)
- 小林 朋子(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 ゲノム医学普及啓発寄附研究部門)
- 佐々木 愛子(国立成育医療研究センター 周産期母性診療センター)
- 澤井 英明(兵庫医科大学 医学部)
- 鈴森 伸宏(名古屋市立大学 大学院医学研究科 産科婦人科)
- 中込 さと子(信州大学医学部保健学科)
- 福島 明宗(岩手医科大学 医学部 臨床遺伝学科)
- 福嶋 義光(信州大学 医学部)
- 蒔田 芳男(旭川医科大学 医学部 病院遺伝子診療カウンセリング室)
- 三浦 清徳(長崎大学 医学部・歯学部附属病院)
- 吉田 雅幸(国立大学法人東京医科歯科大学 統合研究機構)
- 浦野 真理(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター)
- 江川 真希子(東京医科歯科大学 血管代謝探索講座)
- 大磯 義一郎(浜松医科大学 医学部法学教室)
- 小門 穂(神戸薬科大学 薬学部)
- 小林 真紀(愛知大学 法学部)
- 斎藤 加代子(東京女子医科大学 医学部)
- 佐村 修(東京慈恵会医科大学 産科婦人科学講座)
- 竹内 千仙(東京慈恵会医科大学 遺伝診療部)
- 吉橋 博史(東京都立小児総合医療センター 臨床遺伝科)
- 渡部 沙織(東京大学 医科学研究所 公共政策研究分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,650,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 山田崇弘 京都大学(令和2年4月1日~令和4年10月31日) → 北海道大学(令和4年11月1日以降)
研究分担者 竹内千仙 東京都立北療育医療センター(令和2年4月1日~令和4年8月31日) → 東京慈恵会医科大学(令和4年9月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal Testing: NIPT)が平成25年度より臨床研究として開始されたことにより、出生前診断に関する遺伝カウンセリングの重要性に焦点が当たっている。しかし、出生前診断に関する遺伝カウンセリングの全てに臨床遺伝の専門家が対応するには限界があり、さらに本邦の産婦人科医は減少傾向にあるため、有効な人材活用に向けた教育体制の構築が必要である。一方で、出生前診断の受け手側である妊婦自身が、自律的な判断が出来るようなリテラシーの醸成を含めて、社会体制を整備することも、出生前診断のシステム構築を効率よく行う上で極めて重要な課題である。本研究班は、(1)出生前遺伝学的検査ネットワークの構築、(2) 遺伝カウンセリング研修プログラムの評価と改善、(3) NIPTを巡る海外事情の調査 を目的とした。
研究方法
研究班全体を第1〜第3分科会として、以下のテーマに分かれて研究を行った。第1分科会:出生前遺伝学的検査ネットワークの構築、第2分科会:遺伝カウンセリング研修プログラムの評価と改善、第3分科会:一般の妊婦及びその家族に対する出生前診断に関する適切な普及および啓発方法の検討
結果と考察
各分科会に分かれて研究を実施し、年2回の全体会議で方向性の統一を図った。主にオンラインで打ち合わせを行った。(1) 出生前遺伝学的検査ネットワークの構築において出生前遺伝学的検査の提供者、対象となる疾患の罹患者に対する医療提供者、そして遺伝学的検査や遺伝カウンセリングといった遺伝医療の提供者などのステークホルダーの協働が重要である。厚生労働省が主導して出生前検査の体制整備が進み、新しい制度のもとで検査が実施されるようになったが、そこで必要とされる妊婦への説明書である「NIPT 非侵襲性出生前遺伝学的検査」を完成させた。また、日本医学会に設置された「出生前検査認証制度等運営委員会」の情報提供ワーキンググループと連携して作成した産科医療機関で使用するリーフレット「妊娠がわかったみなさんへ」を完成させ、「出生前検査認証制度等運営委員会」のホームページ(https://jams-prenatal.jp)で公開した。 (2) 出生前診断の体制構築において、一般産婦人科における適切な一次対応が重要となる。本研究班では、その前身段階から、出生前診断の一次対応を担う医療者に対する教育資材の開発を行ってきた。今回、出生前検査認証制度等運営委員会の方針に基づくNIPT提供体制にあわせた、出生前診断に関する遺伝カウンセリング研修プログラムを策定した。遺伝カウンセリングの習得においては、単に正確で、わかりやすい説明ができるだけでなく、心理社会的な課題に気づき、自身の行動や考え方に対して内省的理解が求められる。したがって、我々が構築したような、講義とロールプレイを両輪とした研修方法が有効であると考えられる。今回の研修会において研修参加者の満足度は高かったが、1回の研修で全てが身に付くわけではなく、継続的な研修環境の整備、他職種に対する研修の設置など、今後の改善が必要と考えられた。(3) 各国の出生前検査関連ELSI対応体制を評価するためのQuality Indicator(QI)について、12の国と地域について調査を実施した。日本は、女性の就労率は低くはないものの、管理職・国会議員における女性の割合が著しく低いことに示されるように、ジェンダーギャップが大きく、女性の権利が軽視されうる社会基盤を是正することが急務である。出生前検査は、多くの国は学会や職能団体のガイドラインに基づいて実施されているが、一部の国では適応や質管理について立法化されている。立法はなされずとも、公的な保険が適用される国も少なくはない。日本においても、公的な基盤の整備が必要である。障害児・者の支援については、日本はすぐれた制度を有している。一方で、その制度がもれなく対象者に提供されているか、また、支援に関する情報が出生前検査を希望するカップル含む当事者に十分に提供されているかは不明であり、支援・情報の提供基盤の充実が求められる。
結論
結論として、(1) NIPTの実施方法の開始に合わせて、新しいシステムでの患者への説明書である「NIPT 非侵襲性出生前遺伝学的検査」および産科医療機関で使用するリーフレット「妊娠がわかったみなさんへ」を完成させた。(2) 出生前検査認証制度等運営委員会の活動開始に伴い、NIPTの実践にあわせた、出生前診断に関する遺伝カウンセリング研修プログラムを策定した。(3) 出生前検査における公的な基盤整備の必要性、また女性の権利が軽視されうる社会基盤の是正、障害児・者の支援に関する情報の提供基盤の充実が課題として挙げられた。
公開日・更新日
公開日
2023-08-03
更新日
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