文献情報
文献番号
202207015A
報告書区分
総括
研究課題名
不妊治療における情報提供の方策等の確立に向けた研究
課題番号
22DA1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
前田 恵理(北海道大学大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 大須賀 穣(東京大学大学院医学系研究科)
- 寺田 幸弘(秋田大学大学院医学系研究科)
- 辻村 晃(順天堂大学医学部附属浦安病院)
- 小門 穂(大阪大学大学院人文学研究科)
- 左 勝則(チャア スンチ)(自治医科大学 医学部)
- 永野 妙子(東邦大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
子どもを持ちたいという方々が安心して有効で安全な不妊治療を受けられるよう、令和4年度から不妊治療に対する医療保険の適用が拡大された。これに伴い、医療の標準化や質の向上に向けた取組の強化が求められている。特に、患者に対して開示すべき情報のあり方については、早急な検討の必要性が指摘されている。医療機関の情報開示は、保険適用に先行して特定治療支援事業における実施医療機関の指定要件として進められ、指定医療機関の人員配置、治療内容や件数、安全管理体制等については都道府県等を通じて公開されてきたが、患者にとって関心の高い治療成績等は任意項目で、開示は未だ限定的である。患者の安全・安心を真に確保するための情報開示のあり方について、様々な立場からの議論と検討が必要である。本研究では、不妊治療の情報提供に関する議論にあたっての基礎資料を収集するため、国内外の調査を行う。
研究方法
今年度は海外調査として、英国、スウェーデン、韓国を対象に情報開示の現状、開示・非開示に至るまでの背景や議論、効果、課題等について明らかにするため、文献調査および関係者へのインタビュー調査を行った。国内調査としては、不妊治療中の女性を対象に、医療機関選択に際して参考にした情報や必要だと考える情報について質問紙調査を実施するとともに、生殖補助医療(ART)実施医療機関を対象に、現在開示済の情報や開示可能と考える情報等に関する質問紙調査を行った。
結果と考察
英国では公共サービスの情報公開を進める動きを背景に、1999年からクリニック別の治療成績(成功率)の開示が開始された。当初は一覧表形式であり、治療成績の数字のみに注目が向けられていたが、開示方法の変更により、現在では患者、クリニック、社会から広く受け入れられていた。最近では医療の質の向上、患者のエンパワメント等、成績開示にはメリットがあると捉えられていた。開示成績の根拠となるHFEAのレジストリでは、前向き登録や電子カルテとの連携等、信頼性と妥当性を高める取組も徹底されていた。スウェーデンでも、2012年から体外受精レジストリであるQ-IVFの年次報告の中で、クリニック別の治療成績が公表されていた。Q-IVFのデータの妥当性は高く、透明性や情報開示による質の向上を重んじる風土もあるが、当初のクリニックからの反発は大きかった。時間をかけてクリニック、患者、社会がクリニック別の治療成績に対する理解を深め、情報開示の意義も浸透していったことがうかがわれた。韓国では、医療の質評価が保険診療の枠組みの中で制度化されており、難妊施術に関する医療の質評価も、他疾患と同じ制度の中で実施されていたが、アウトカム評価(妊娠率)については、一切非開示であった。非開示とした理由としては、患者の医療機関選択には役立つと考えられる一方で、地理的アクセスの良さにより、患者が妊娠率の高い医療機関に集中する恐れや、妊娠率を高めるために医療機関による患者選別や不必要な治療が生じる懸念等で、日本で懸念されている内容とも類似していた。
国内調査では、患者が医療機関選択に最も必要だと考える項目は、各医療機関における治療の成功率であった。成功率の開示を求める理由には、開示情報によって良質な医療サービスを選択したいという思いだけでなく、成績開示が安心や信頼につながることも挙げられていた。国内のART実施施設の調査からは、ART実施施設が治療情報の開示にある程度前向きであり、開示方法として日産婦が管理しているARTレジストリを第一に考えていることが明らかになった。ART登録データを情報源として用いる際の懸念事項も挙げられており、情報開示に際しては、症例の背景情報の収集や登録の効率化等のシステムの整備とともに、患者が治療成績を誤解しないための仕組みづくりが重要になってくると思われる。
国内調査では、患者が医療機関選択に最も必要だと考える項目は、各医療機関における治療の成功率であった。成功率の開示を求める理由には、開示情報によって良質な医療サービスを選択したいという思いだけでなく、成績開示が安心や信頼につながることも挙げられていた。国内のART実施施設の調査からは、ART実施施設が治療情報の開示にある程度前向きであり、開示方法として日産婦が管理しているARTレジストリを第一に考えていることが明らかになった。ART登録データを情報源として用いる際の懸念事項も挙げられており、情報開示に際しては、症例の背景情報の収集や登録の効率化等のシステムの整備とともに、患者が治療成績を誤解しないための仕組みづくりが重要になってくると思われる。
結論
来年度は米国、フランス、オーストラリア等での情報提供についても調査を行い、患者の安全・安心を真に確保するための情報開示のあり方について、様々な立場からの議論と検討を行う。
公開日・更新日
公開日
2024-03-08
更新日
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