母子健康手帳のグローバルな視点を加味した再評価と切れ目のない母子保健サービスに係る研究

文献情報

文献番号
202207002A
報告書区分
総括
研究課題名
母子健康手帳のグローバルな視点を加味した再評価と切れ目のない母子保健サービスに係る研究
課題番号
20DA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
中村 安秀(国立研究開発法人国立国際医療研究センター・国立看護大学校 看護学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,347,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、日本の母子健康手帳(以下、母子手帳)に対する研究と同時に、海外に広まった母子手帳をも課題対象とすることにより、母子手帳という日本発の画期的な媒体が果たす役割をグローバルな視点を加味して再評価する。
最終年度には、国内実態調査、歴史分析、海外実態調査、デジタル分析、多様性分析という視座の異なる5種類の調査分析を横断的に統合し、「だれひとり取り残されない」母子手帳のあり方を提言する。また、「第13回母子手帳国際会議」の場などを活用して、本研究の意義をWHOやユニセフなどの国際機関をはじめとするグローバル世界に発信する。
研究方法
便色カードの活用に関して、8自治体における母子手帳利活用状況に関する質問票並びにヒアリング調査を行った。また、低出生体重児支援の現状と今後の課題を明らかにするため、都道府県に対する質問紙調査および低出生体重児の保護者に対するWEB調査を実施した。
2022年8月の「第13回母子手帳国際会議(The 13th International Conference on MCH Handbook)」(カナダ・トロント大学)において本研究成果を発表するとともに、和文サマリー報告書作成おびエキスパートインタビューを実施した。また、介入研究のシステマティック・レビューのためのコクランハンドブックのガイドラインに従って、システマティック・レビューおよびメタアナリシスを実施した。また、成熟度別解析や乳幼児健診情報と学校健診情報の連接による、乳幼児期と学童期の肥満との関連等を検討した。
結果と考察
自治体における便色カード利活用調査では、便色カードの使用方法や記入の促しの機会は、新生児訪問時に最も多く行われており、母子手帳交付時や両親学級時で実施する自治体もあった。保護者への説明場面の面接や訪問に同席して先輩から後輩保健師等へのOJT(On the Job Training)によりなされていた。便色カードの活用促進のための自治体での取り組みには限界があり、産科・小児科領域の医療従事者からの繰り返しの説明と記入の促しも必要である。より具体的な取り組みも含め、厚生労働省へ提言を行った。
リトルベビーハンドブック(LBH)調査では、47都道府県のうち、調査結果の公表に40件の同意を得た(89.4%)。LBHを「すでに作成し、配布している」自治体が9件(22.5 %)、「今年度、作成を予定している」自治体が23件(57.5%)であった。作成のきっかけとしては、低出生体重児の保護者やサークルからの要望が多かった。保護者調査では、39都道府県の193名から回答を得た(96.5%)。LBHを使っている・使ったことがある人が22.8%であり、そのうち、97.7%の人が役に立ったと回答していた。LBHの良かった点として、先輩ママからのメッセージがあったこと、発育曲線や成長の記録が記入できたことがあげられていた。
海外の母子手帳では、母子手帳の有効性に関して以下のような共通点を認めた。母親と家族のための健康情報の蓄積と共有、医療提供者とのコミュニケーションを改善する手段、母親・父親の健康に関する知識を向上させるツール、電子化などによる他のプログラムとの連携および健康データを応用した個人健康増進、健康の脆弱者である妊婦、乳幼児、女性の権利の保護と連帯の促進によるエンパワーメントなど。
システマティック・レビューおよびメタアナリシスにおいて、介入群の女性は、妊婦健診(6回以上)を受診する確率が高く、出産時に医療従事者による介助を受ける割合が高く、早期母乳育児の実践は、介入群の方が有意に多かった。日本における文献レビューでは、5分類からなる72文献が抽出された。これらの文献レビューから、母子手帳記録の電子化、母子手帳情報の電子化、母子手帳の積極的活用の3点について提言を行った。
横断的統合研究においては、電子化された乳幼児健診情報、学校健診情報を用いた解析により、早熟児の肥満の過大評価や晩熟児の肥満の過小評価の可能性が示唆され、また乳幼児期の肥満が学童期の肥満に関連することを定量的に明らかにした。乳幼児健診情報や学校健診情報を電子化し、さらに連結することで、研究への利活用が可能となった。
結論
母子手帳が世界に広がる過程のなかで、日本も大きな学びの機会を得ることができた。世界最高水準の母子保健サービスを提供してきた日本の母子手帳が新たにグローバルな発想を取り込むことにより、新しい時代にふさわしい母子手帳を創り出し、持続可能な未来の発展につながる大胆な変革が生まれることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2024-03-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202207002B
報告書区分
総合
研究課題名
母子健康手帳のグローバルな視点を加味した再評価と切れ目のない母子保健サービスに係る研究
課題番号
20DA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
中村 安秀(国立研究開発法人国立国際医療研究センター・国立看護大学校 看護学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本の母子健康手帳(以下、母子手帳)に対する研究と同時に、海外に広まった母子手帳をも課題対象とすることにより、母子手帳という日本発の画期的な媒体が果たす役割をグローバルな視点を加味して再評価することである。
最終年度には、国内実態調査、歴史分析、海外実態調査、デジタル分析、多様性分析という視座の異なる5種類の調査分析を横断的に統合し、「だれひとり取り残されない」母子手帳のあり方を提言する。また、「母子手帳国際会議」の場などを活用して、本研究の意義をWHOやユニセフなどの国際機関をはじめとするグローバル世界に発信する。
研究方法
「歴史分析」介入研究のシステマティックレビューのためのコクランハンドブックのガイドラインに従って、システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。また、日本における文献レビューは、検索データベース「医中誌」にて、「母子健康手帳OR 親子健康手帳OR 母子手帳OR 親子手帳OR 父子手帳」を検索式として実施した。
「国内実態調査」保健センターにおける乳幼児健診の保護者を対象とした母子手帳の利活用に関する調査、保健センターおよび病産院のスタッフ(医師、助産師、看護師、保健師など)を対象とした母子手帳の活用と課題に関するインタビュー調査を実施した。また、母子手帳の記入率の低かった便色カードの活用に関して、8自治体における母子手帳利活用状況に関する質問票並びにヒアリング調査を行った。
「海外実態調査」2022年8月に開催されたハイブリッド形式による「第13回母子手帳国際会議」(カナダ)の和文サマリー報告書の作成、および国際母子手帳委員へのインタビューを通した各国の母子手帳比較を実施した。
「デジタル分析」デジタル版母子手帳の有用性、実現にあたっての問題点、導入にあたっての条件は何かなどについて調査・報告を目的として、小児科医、産婦人科医、公衆衛生などの有識者へのインタビューを行った。
「多様性分析」低出生体重児支援の現状と今後の課題を明らかにするため、全国47都道府県の母子保健担当部署に対して、質問紙調査を実施した。また、低出生体重児の保護者約200名を対象にリトルベビーハンドブック(LBH)に対する意見を聴取し今後のLBHの改善点と課題について分析するため、質問紙調査を実施した。
「横断的統合研究」一般社団法人健康・医療・教育情報評価推進機構(HCEI)が保有し、全国の自治体より収集され電子化処理された乳幼児健診情報、ならびに学校健診情報をリアルワールドデータ株式会社により提供を受け、成熟度別解析や乳幼児健診情報と学校健診情報の連接による、乳幼児期と学童期の肥満との関連等を検討した。
結果と考察
・母子保健に関するオールインワン情報:少子化の時代に、子どもを産み育てようと決意してくれた家庭に届く行政からの最初の贈り物が、母子手帳である。今後の行政の大切な役割は、多くの情報を提供することではなく、信頼できる最低限の情報をていねいに必要とする人々に届けることである。
・デジタルとアナログの両立:アナログとデジタルを併用することにより、多様なニーズに対応できる母子手帳への取り組みが各国ではじまっている。今後は、世界中で紙媒体とオンラインの母子手帳の共存が図られることになろう。
・個人情報保護と健康の権利:母子手帳は、母、新生児、および子どもの健康とウェルビーイングを向上させるためにのみ使用されるべきである。
・少数派への温かなまなざし:日本語と外国語が併記された「外国語版母子手帳」、低出生体重児のための「リトルベビーハンドブック」、多胎児をもつ保護者のための「ふたご手帖」、ダウン症児をもつ家庭のための「+Happy しあわせのたね」、視覚障害のある親子のための「点字版母子健康手帳」などが開発されている。また、母子手帳を活用し知的障害のある妊産への支援を行う「知的障害のある妊産婦さんへの対応ハンドブック」ややさしい日本語と多言語による「紙芝居型母子手帳交付シート」が作成されている。医療者は、母子手帳のサブブックと位置付けられるこれらの情報源を積極的に活用することが求められている。
・母子手帳は子どものもの:母子手帳は誰のものかということは重要な課題である。子どもが成人してからも予防接種データなどを活用することを考慮すれば、母子手帳は最終的には子どものものだという共通理解にたどりつく。その前提で、母子手帳を創り直すことが必要であろう。
結論
母子手帳が世界に広がる過程のなかで、日本も大きな学びの機会を得ることができた。世界最高水準の母子保健サービスを提供してきた日本の母子手帳が新たにグローバルな発想を取り込むことにより、新しい時代にふさわしい母子手帳を創り出し、持続可能な未来の発展につながる大胆な変革が生まれることを期待したい。

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202207002C

収支報告書

文献番号
202207002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,950,000円
(2)補助金確定額
6,950,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 615,141円
人件費・謝金 811,518円
旅費 1,651,738円
その他 2,268,603円
間接経費 1,603,000円
合計 6,950,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-03-28
更新日
-