安全に移植できる細胞を誘導するためのタンパク質導入法の開発

文献情報

文献番号
200906013A
報告書区分
総括
研究課題名
安全に移植できる細胞を誘導するためのタンパク質導入法の開発
課題番号
H20-再生・若手-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
升井 伸治(国立国際医療センター(研究所) 細胞組織再生医学研究部 形質転換ベクター開発研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般に細胞の性質は、核内の転写因子ネットワークが決定している。今後数年内に「~~細胞を作出できる転写因子セット」が次々と報告されるだろう。臨床応用への次の段階としては、遺伝子導入を経ない転写因子セット導入法でその細胞が作出可能なことを証明する必要がある。その最有力な手法はタンパク質導入法だが、従来法ではタンパク質の種類に依存して導入効率や活性が大きく異なることが障害となっている。本研究では簡便で確実なタンパク質導入システムを開発すべく、21年度は細胞内での転写因子機能向上法について検討した。
研究方法
細胞膜透過ドメインを、マウスES細胞の未分化性維持に必須の転写因子Sox2およびOct3/4と融合した。テトラサイクリン制御性Sox2ノックアウトES細胞、およびテトラサイクリン制御性Oct3/4ノックアウトES細胞の、未分化性をレスキューする活性として転写因子活性を計測した。
結果と考察
タンパク質導入の際によく用いられる細胞膜透過ドメインを切断するシステムを導入した。まず細胞膜透過ドメインが転写因子活性に対して引き起こす影響を解析するため、ES細胞で必須の働きをする転写因子Sox2を用いて、未分化性維持活性に対する影響を解析した。その結果、細胞膜透過ドメインをもったSox2はES細胞の未分化性を維持できないことがわかった。続いて、細胞内で細胞膜透過ドメインが切断されるしくみを導入したES細胞に、細胞膜透過ドメイン付きSox2を導入すると、未分化性を維持できることがわかった。同じ結果を、ES細胞の未分化性維持に必須な転写因子Oct3/4についても得た。これらの結果から、細胞膜透過ドメインは転写因子活性を大きく減じること、および細胞内でこのドメインを切断することにより、転写因子活性が回復することがわかった。
結論
21年度は、細胞膜透過の際に一般的に用いられる配列が、転写因子の活性を阻害すること、および細胞内においてタグを切断すると、転写活性が回復することを明らかとした。したがって、タグ融合転写因子を細胞へ添加し、細胞内でタグを切断することで、望みの転写因子をウイルス非依存的に導入し機能させることが可能であると考えられる。
安全な移植材料の調製可能証明は臨床への必須ステップである。本研究ではタンパク質導入法による転写因子導入一般法の基礎知見が得られた。ひいては安全な細胞の調整法につながり、再生医療実現化に貢献する。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200906013B
報告書区分
総合
研究課題名
安全に移植できる細胞を誘導するためのタンパク質導入法の開発
課題番号
H20-再生・若手-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
升井 伸治(国立国際医療センター(研究所) 細胞組織再生医学研究部 形質転換ベクター開発研究室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
一般に細胞の性質は、核内の転写因子ネットワークが決定している。今後数年内に「~~細胞を作出できる転写因子セット」が次々と報告されるだろう。臨床応用への次の段階としては、遺伝子導入を経ない転写因子セット導入法でその細胞が作出可能なことを証明する必要がある。その最有力な手法はタンパク質導入法だが、従来法ではタンパク質の種類に依存して導入効率や活性が大きく異なることが障害となっている。本研究では簡便で確実なタンパク質導入システムを開発すべく、20年度は、COS細胞を用いて分泌したタグ付きタンパク質の導入効率を計測した。21年度は、タグを切断する酵素の機能確認と、正常な転写活性のためにはタグ切断が必要であることの証明を行った。
研究方法
COS細胞(BMT10)はゼラチンコート皿上、DMEM + 10%血清にて培養し、リポフェクション法にて遺伝子導入を行った。細胞膜透過ドメインを、マウスES細胞の未分化性維持に必須の転写因子Sox2およびOct3/4と融合した。テトラサイクリン制御性Sox2ノックアウトES細胞、およびテトラサイクリン制御性Oct3/4ノックアウトES細胞の、未分化性をレスキューする活性として転写因子活性を計測した。
結果と考察
COS細胞にVP22を付加した転写因子の一過性発現によって培養液中に分泌させたが、導入効率は10%以下であった。機能アッセイ等に用いるには低いことから改良を試みたが、上昇させるのは困難であった。導入された細胞だけを薬剤選択、あるいはFACS選択が必要と考えられた。
細胞膜透過ドメインをもったSox2はES細胞の未分化性を維持できなかった。細胞内で細胞膜透過ドメインが切断されるしくみを導入したところ、細胞膜透過ドメイン付きSox2を導入すると、未分化性を維持できた。同じ結果を、ES細胞の未分化性維持に必須な転写因子Oct3/4についても得た。これらの結果から、細胞膜透過ドメインは転写因子活性を大きく減じること、および細胞内でこのドメインを切断することにより、転写因子活性が回復することがわかった。
結論
本知見は、任意の転写因子タンパク質を導入し、細胞内で再活性化できることを示す。これを用いて目的細胞が誘導可能であることがわかれば、他の研究者や製薬企業の流入も手伝って、内毒素除去などさらなる安全性を担保し臨床研究に進めるだろう。安全な移植材料の調製可能証明は臨床への必須ステップであるが、本研究の成果は、この「証明ステップ」を円滑に通過させ再生医療実現化に貢献すると期待できる。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200906013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
従来法ではタンパク質の種類に依存して導入効率や活性が大きく異なることが障害となっている。本研究で細胞内で細胞膜透過ドメインが切断されるしくみをES細胞に導入したところ、細胞膜透過ドメイン付きSox2を導入すると、未分化性を維持できた。同じ結果を、ES細胞の未分化性維持に必須な転写因子Oct3/4についても得た。これらの結果から、細胞膜透過ドメインは転写因子活性を大きく減じること、および細胞内でこのドメインを切断することにより、転写因子活性が回復することがわかった。
臨床的観点からの成果
本知見は、任意の転写因子タンパク質を導入し、細胞内で再活性化できることを示す。これを用いて目的細胞が誘導可能であることがわかれば、他の研究者や製薬企業の流入も手伝って、内毒素除去などさらなる安全性を担保し臨床研究に進めるだろう。安全な移植材料の調製可能証明は臨床への必須ステップであるが、本研究の成果は、この「証明ステップ」を円滑に通過させ再生医療実現化に貢献すると期待できる。
ガイドライン等の開発
膜透過ドメインを付加した転写因子による転写活性化の報告は、これまで国内外において多くあるのだが、どのシステムも任意の転写因子タンパク質をその活性化状態を保持したまま導入することはできていない。本研究では、膜透過ドメインが正常な転写活性の発揮を阻害しており、細胞内におけるタグの切断によって転写活性が回復することを明らかにできた。今後は論文を発表するなど成果普及に努め、多くの研究者にこの方式が採用されるようにする。
その他行政的観点からの成果
再生医療の材料としてヒトiPS細胞や間葉系幹細胞など多くの選択肢が整備されつつある。今後は効率の良い分化誘導法の開発が急務だが、転写因子を用いた分化転換法は核内の分化プログラムに直接作用するため、成長因子や細胞外マトリクスの刺激などで分化誘導する手法と比較して分化時間が短くて済む可能性が高い。したがってドナー細胞調製コストを下げる可能性を示すことができ、医療費の抑制につながる。
その他のインパクト
一般に、転写因子などの細胞内タンパク質の機能を解析する上で、タグを付加した融合タンパク質を解析するケースが多い。付加したタグの影響については問われない場合が多いが、本研究では影響の大きいケースが明らかとなった。他のタグを付加する場合においても慎重に影響を検討する必要があるといえる。他方、安全に細胞を誘導する別の手段として、ウイルスに依存しない分化転換法の基盤技術を開発し、特許を出願した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-