情報ネットワークを利用した高齢神経筋難病の症例データベースによる病態解析、治療法、ケア技術についての研究

文献情報

文献番号
199700580A
報告書区分
総括
研究課題名
情報ネットワークを利用した高齢神経筋難病の症例データベースによる病態解析、治療法、ケア技術についての研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福原 信義(国立療養所犀潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 島功二(国立療養所札幌南病院)
  • 春原経彦(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 難波玲子(国立療養所南岡山病院)
  • 藤下敏(国立療養所川棚病院)
  • 福永秀俊(国立療養所南九州病院)
  • 吉野英(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 安徳恭演(国立療養所筑後病院)
  • 中島孝(国立療養所犀潟病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
神経筋難病(脊髄小脳変性症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)に分類される特定疾患は原因不明なものが多く、治療法、ケア技術なども十分に解明されていない。これらの疾患は加齢に伴って発症するが、高齢になるにつれてさらに治療やケア法が難しくなる特徴がある。 これらの老化にともなった難病の患者のQOL向上を目指した医療、在宅療養のためには、医学データの情報だけでなく、日常生活やQOLなどの低下を社会医学的データとして十分に収集し解析することが必要である。そのためには、神経難病患者の病歴、症状、所見、検査データ、画像データなどの医学データを患者情報の保全を行いながら十分なデータのデータベース化を行うことが必要だが、医学データのみならず、地域の保健所、診療所から日常生活状況など在宅医療での社会医学データを収集することも必要である。国立病院など総合情報ネットワークシステム(以下HOSP net)は全国に張り巡らした唯一の医療専用の国立のイントラネット網であり、プライバシーなども含めた患者情報の情報保全上適したネットワークである。この既存のネットワークに神経難病データベースを構築することで、全国の国立病院療養所センターの神経難病を診療している専門医のデータを容易に集め解析することが可能となる。これにより、症例に対する検査、治療、在宅ケア技術などを相互に分析することが可能で、効率的で正確な診断治療法の確立、QOLの向上を目指したケア技術の確立、オーファンドラッグ開発や薬剤臨床試験の対象となる症例を明確化することことが可能である。本年度は初年度であり、まず、上記研究班組織にHOSP net端末を整備した。また、暗号化通信と暗号化データベースサーバを国立療養所犀潟病院内に設置して、イントラネット内であっても情報の保全が保てるか検討をおこなった。また、疾患としては遺伝子診断の情況と地域差、障害度などを比較検討するために、特定疾患の脊髄小脳変性症の10施設での調査を開始した。
研究方法
1.情報ネットワークシステムの構築 神経筋難病患者の医学・医療データ、および在宅医療データの収集と解析のために、国立療養所中央研究、国立療養所における神経筋難病のあり方に関する研究班(福原班)で過去3年にわたり作成検討してきた症例データベースをもとにさらに大規模な情報収集と一元管理できる情報システムを構築した。H9年3月から運用されている国立病院、療養所、ナショナルセンター、厚生省をむすぶ全国で唯一の医療専用の情報ネットワーク網であるHOSP netを利用しHOSP net用のサーバシステムを犀潟病院に設置した。各施設ごとに端末を設置し、各国立施設からHOSP netを介して情報を収集、交換可能にした。WindowsNTサーバ上にLotus noesを構築し、RSA方式の暗号化メールとデータベースの暗号化をおこないイントラネット内であってもプライバシー管理ができるデータ収集を開始した。プライバシーに関係しない解析データはHOSP netにより参加各施設で閲覧利用できるようにした。2.脊髄小脳変性症の遺伝子診断の確立初年度は神経筋難病の内、脊髄小脳変性症のデータを収集する目的で、遺伝子診断技術を確立した。現在、常染色体優性遺伝性を示す脊髄小脳変性症はSpinocerebellar ataxia 1(SCA1)、 SCA2, MachodoーJoseph病
、 SCA6,SCA7,DRPLA遺伝子診断可能とした。これで実際の常染色体優性遺伝性の約80%以上が遺伝子診断可能になった。これらの疾患について、当院の臨床検査科と協力してPCR法および蛍光DNA分析装置により異常なCAGrepeat数の確定をおこない、異常なCAG反復配列を認めた場合には遺伝子診断が可能になった。
結果と考察
結果=脊髄小脳変性症は現時点では常染色体優性遺伝病のものが多く、非遺伝性のものは多系統変性疾患(Multisystem Atrophy, Shy-Drager syndrome)などにかぎられると想定されている。実際の統計として当院での遺伝子診断の内訳は、図1のようにMachado-Josep病(SCA3)が67%をしめており一番多い。つぎにはDRPLAで16%であった。今回は成人例が中心であり小児例のDRPLAはいっていないため、人口あたりの実数はもう少し多い可能性がある。データはすべて当院での検査だが、新潟地区の在住の方にはSCA1,SCA2はみとめなかった。脊髄小脳変性症の種類は地域により極端に偏在していることが分かった。今後、10施設の詳細な地理的分析は本年度は終了していないが待たれている。
考察=HOSP netを利用することで、迅速に脊髄小脳変性症などの難病の遺伝子情報や症状の程度や特徴、介護度などを収集できる。HOSP netは厚生省と国立療養所、病院、ナショナルセンターのみからなるコンピュータネットワーク(イントラネット)であり、情報のセキュリティ管理はインターネットと比較して十分と考えられる。しかし、個人個人の遺伝子情報などは当事者以外は知る必要がなく、将来は地域の保健所、診療所からのデータもインターネットを介して収集も必要なことから、暗号化技術と相互認証技術が重要であると考えられ今回も試験的に利用を開始した。RSA方式はLotus notes上で実装されており簡便に利用可能な暗号化システム、相互認証システムである。セキュリティレベルは北米仕様より日本仕様の方がより低い設定となっている点が問題と考えられる。これはHOSP netのようなイントラネット上で利用する際にはファイアーウォールがあるため問題がないが、インターネット上で情報交換する際にはややセキュリティレベルが低下すると考えられる。情報の保全と同時に、得られた学術的または医療情報として一般に公開可能なデータについてはインターネット上で情報を提供し、他の医療福祉機関で有効に利用できるようにすることが重要と考えられた。また、初年度は約10施設を試験的に運用開始し脊髄小脳変性症のデータを収集分析を開始し始めたが、今後、全国規模の高齢神経筋難病のデータを集め解析することでQOL改善を目指したい。
結論
情報ネットワークを利用した多施設での難病疾患の情報収集は有効である。脊髄小脳変性症では遺伝子診断、症状、重症度など地域差が多いと想定されており今後も正確で迅速なデータベース化が必要である。遺伝子情報や難病情報などはプライバシー保護が必要だが、HOSP netはイントラネットという閉じられた情報ネットワークであり、基本的なセキュリティ管理がなされている。また、今回のように暗号化技術を利用することが望ましい。

公開日・更新日

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