高齢者閉塞性肺疾患における総合ケアのあり方に関する研究

文献情報

文献番号
199700579A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者閉塞性肺疾患における総合ケアのあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
木田 厚瑞(東京都老人医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎雄司(日本医科大学)
  • 石川朗(札幌医科大学)
  • 安部幹雄(日本大学)
  • 岩崎郁美(長崎県離島医療圏組合上対馬病院)
  • 岡村樹(都立駒込病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
8,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
閉塞性肺疾患は諸外国に比較して、より高齢者層に偏在しており、また多重疾患の増加が医療費の増額を生み出している。一方、このような患者群ではADLの低下は著しく、患者のQOL低下を来す原因となっている。また、医療費の増額を生み出す結果となっている。
本研究の目的は、高齢閉塞性疾患について、1)効率的な治療によりQOLをどのようにして向上させるか、2)医療コストの効率的な使い方、について検討するものである。これに対する研究方法として、1)病態の評価、2)治療としての包括的呼吸リハビリテーション、3)outcome study、に大別し、初年度は特に1)、2)について重点的に研究を進めた。
研究方法
1.高齢閉塞性疾患の病態
?高齢女性の肺機能検査について
高齢女性集団は職業的暴露歴等の影響が比較的除外できるという利点がある。そこで高齢女性を対象に肺機能および喫煙の影響を検討した。
?高齢閉塞性肺疾患における血清IgE測定の意義
気管支喘息(BA)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、両者の混合病態(COPD/BA)について血清IgE、肺機能、好酸球数の関係について検討した。
? 高齢閉塞性肺疾患における老年総合機能評価
BA、COPDおよびCOPD/BAについて安定期の老年総合機能評価(CGA)を実施し、肺機能との関連性を検討した。
2.包括的呼吸リハビリテーションの実施
禁煙教育、服薬指導、栄養指導、理学療法、運動療法などを総合的に実施する治療を包括的呼吸リハビリテーションと定義し、三施設(東京都老人医療センター、日本大学第1内科、上対馬病院)にて試行し、問題点を検討した。
また重症COPDに対して近年、適用されるようになってきた在宅人工呼吸法のケア・システムの基礎的研究を実施した。
結果と考察
1.高齢閉塞性疾患の病態
?高齢女性の肺機能
高齢女性(65歳以上)2,002例を対象とした。非喫煙者(NS群)941例、既喫煙者(ES群)168例、現喫煙者(CS群)128例。NS群ではVC、FEV1.0、MVVは加齢とともに減少(各p<0.01)。Oxygen Cost Diagram(OCD)(Cournand, 1954)は3群ともFEV1.0、MVVと相関(p<0.05)した。FEV1.0は喫煙歴のある症例では非喫煙例より低値を示した。
? 高齢閉塞性肺疾患における血清IgEの意義
閉塞性肺疾患患者 325人(男 196人, 女 129人、平均年齢 75.3歳)を対象。閉塞性肺疾患の内訳は気管支喘息(BA)111人、COPD 135人、COPD/BA 78人。現喫煙者は既・非喫煙者に比しIgEは増加が認められた(p<0.05)。女性は男性よりIgEが低値であった(p<0.05)。男女とも末梢血好酸球数の増加とともにIgEが有意に増加(p<0.05)。年齢とIgEの相関はなかった。疾患別では、男女ともCOPDはBAよりIgEが低い傾向がみられた。女性COPDは男性COPDに比べ有意にIgEが低値だった(p<0.01)。肺機能では1秒率が低い程IgEが低値となる傾向があった。
?高齢閉塞性肺疾患における老年総合機能評価
COPD 98例(男 78, 女 20)、COPD/BA 35例(男 20, 女 15)、BA 35例(男 6, 女 29)を対象。肺機能検査の指標として、特にFEV1.0、MVVの関係を検討した。CGAは、MMSE、BADL、IADLを実施した。平均値は年齢 男 77.0歳, 女 78.7歳。FEV1.0 男 0.996・, 女 0.944・。MMSE 男25.1点, 女23.9点。IADL 男21.5点, 女23.9点。BADL 男19.2点, 女18.3点。いずれも性差は認められなかった。全症例を対象とすると、FEV1.0はIADLと相関(p<0.002)、MVVもIADLと相関(p<0.001)。BADLとはいずれも相関しなかった。しかし、BA、COPD、COPD/BAの3群間の男女別にこれを検討するとCOPD群男のみがIADLとFEV1.0、MVVが相関(各々 p<0.03, p<0.02)。同じくFEV1.0%で比較すると女の方が高いIADLを呈する傾向がみられた。
2.包括的呼吸リハビリテーションの実施
?東京都老人医療センターでの試行
42例を対象。COPD 38例、BA 4例。入院による総合教育方式に依った(平均入院期間 25.7日)。FEV1.0 1.07、FEV1.0% 44.9、MMSE 26.3、CMI (・+・) 22.2%、BADL 19.9、IADL 23.7、実施後QOL scoreは約12%増加。患者判断では効果ありが83%、一方、スタッフ判断では58%と乖離があった。
?日本大学での試行
対象は、COPD患者33例(在宅酸素症例は12例)。平均年齢 65.5歳、平均FEV1.0
0.95・、平均FEV1.0% 41.4%、Body Mass Index(BMI)20.9。外来通院で行い、患者教育と運動療法を1回2時間、週2回、6週間継続した。呼吸リハビリ前後で、一般呼吸機能検査、10分間歩行距離(10MWD)検査、トレッドミルおよびエルゴメーター漸増運動負荷試験を施行。QOLはGuyattらの面接法(CRQ)を、呼吸困難感はMahlerらのBDIを用いて検討した。さらに、心理的側面の評価として東大式エゴグラム(TEG)、Profile of Mood State(POMS)、およびState-Trait Anxiety Inventory(STAI)を実施した。COPD患者において呼吸リハビリは運動耐容能やQOLの向上に有用であり、心理的側面では特に不安感の改善に有効であった。また、月1回の外来診療のみの観察でも、QOL特に息切れに関しては1年後まで有意な改善を継続できた。
? 上対馬病院での試行
離島対馬において試行した。対象は高齢者COPD(男12例、女5例)。病院-地域の中の行政(役場健康福祉課)が連携した形で実施。実施後、入院回数、救急受診がいずれも減少した。
日本医大グループは在宅人工呼吸法における基礎的問題点を検討した。
高齢者の閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息)では疾患の増悪に伴って、能力障害、機能障害、社会的不利、心理的障害をみとめるようになり、患者のQOLは低下し、治療に必要な医療費が増額する。治療およびケアという点からこれらが総合的に検討されなければならない。
本研究では高齢女性の閉塞性肺疾患の呼吸機能の経年的変化を解明した。その結果、本邦の高齢女性においてもFEV1.0の経年変化はSametら(1983年)にほぼ一致して低下することが判明した。また、FEV1.0はOxygen Cost Diagram(OCD)と極めて相関性が高いことが明らかになった。OCDは簡単な問診で実施できる方法であり、肺機能検査の実施が困難な場合でも閉塞性肺疾患のスクリーニングとして有用であると考えられる。
血清IgEが気管支喘息の重症度と関連し、また、治療における目安となるという報告が多い。高齢閉塞性肺疾患における検討では、喫煙者、男性で各々IgEが高値であり、また、気管支喘息では慢性閉塞性肺疾患よりも高い傾向にあったが、両者を明確に分けるものではなかった。
高齢閉塞性肺疾患では肺機能検査のうち、FEV1.0、MVVがIADLと良く相関した。また、IADLの低下はBADLの低下より著明であった。IADLの低下がQOL低下の直接的な影響因子である可能性が高い。従って治療の目安および評価法としてFEV1.0の改善があるかどうかが有用であり、またIADLを指標としてQOLを推定することができると考えられた。
包括的呼吸リハビリテーションはあらかじめマニュアルを作製し、東京都老人医療センター、上対馬病院ではそれに基づき実施したが、マニュアルを整備しておけば離島という状況下でも充分な効果をあげることができることが判明した。
結論
本研究により高齢者閉塞性肺疾患の病態に関する問題点の一部を明らかにした。今後の課題として、1)非侵襲的で再現性が高く、かつ全人的な評価となり、高齢者に対し幅広く利用しうるような呼吸器評価方法を確立していくこと、2)包括的呼吸リハビリテーションを実施していく際の具体的な問題点を明らかにすること、3)これを実施した時のoutcome study、入院回数、入院期間、および医療コストに関わる問題点の解明を行う計画である。

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