新型コロナウイルス感染症を踏まえた集中治療に関する医療提供体制を強靭化するための研究

文献情報

文献番号
202206014A
報告書区分
総括
研究課題名
新型コロナウイルス感染症を踏まえた集中治療に関する医療提供体制を強靭化するための研究
課題番号
22CA2014
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
土井 研人(国立大学法人東京大学 医学系研究科 救急・集中治療医学)
研究分担者(所属機関)
  • 西田 修(藤田保健衛生大学医学部 麻酔・侵襲制御医学講座)
  • 山蔭 道明(北海道公立大学法人 札幌医科大学 医学部 麻酔科学講座)
  • 坂本 哲也(帝京大学 医学部 救急医学講座)
  • 久志本 成樹(東北大学 大学院医学系研究科外科病態学講座救急医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
集中治療医療とは、呼吸、循環、消化器、腎臓、中枢神経系、血液凝固などの各臓器システムにおける重篤な機能不全に対して、様々なモニタリングと臓器サポート機器を駆使することで、臓器機能不全を回復させ重症患者の生命維持を行い、救命さらには社会復帰をさせることを目的とした医療である。きわめて重篤かつ致命的な病態に陥った重症患者に対しては、集中治療室(ICU)において集中治療医療を専門とした医師及び医療スタッフが診療にあたることになるが、我が国の臓器・診療科別に分業化された医療提供体制において、十分かつ適切な集中治療医療が提供されているかについては情報が乏しいことが問題である。
 集中治療医療の需要は重症患者の数と罹病期間により規定される。新型コロナウイルスパンデミックでは、いわゆる医療崩壊、すなわち集中治療医療のキャパシティーを超えて重症患者が押し寄せた場合には、救命率の急激な低下と命の選別が迫られる状態が世界中から報告された。我が国の集中治療医療の提供においても、感染症パンデミックなどの有事に際してハコ、ヒト、モノを弾力的に運用できる事前の取り決めが不十分であることが指摘されている(我が国の集中治療医療提供体制を強靭化するための提言:日本集中治療医学会ホームページ2021年9月13日公表)。
本研究では、DPC等のデータとアンケート調査により、我が国における集中治療に関する医療提供の現状を分析し、加えて新型コロナウイルス感染症パンデミックにより影響を受けた要素を抽出することを目的とした。
研究方法
集中治療医療の提供に必要な3つ要素、1)ハコとしてのICU病床の適切な数2)ヒトとしての集中治療医療に長けた医師、看護師等の医療者の必要数と配置、3)モノとしてのECMOや人工呼吸器などの高度生命維持装置の必要数と配置、について、わが国の状況を公的機関による統計調査や支払いデータベースなどを用いて分析を行う。
結果と考察
平時における集中治療提供体制に係る現状調査として、DPCデータをもとに真に集中治療が必要な患者数を算出し、我が国において約1500床の追加が必要であることを明らかとした。この結果をもとに集中治療を提供できる医師と看護師の必要数も算出した。次いで、感染症有事における集中治療医療提供体制にかかる調査として、有事においては特に都市部において陽性者が増加した感染ピークにおいて、真に集中治療が必要な患者がICU外で診療を受ける場合が増加していたことを明らかとした。加えて、新型コロナウイルス感染症診療のために新たに増床された病床数とそこに配置された看護師数を算出した。医師の業務については救急科と麻酔科医師の新型コロナウイルス感染症まん延における業務の変容をアンケート調査にて明らかとした。ECMOと人工呼吸器の使用状況についても調査を行い、ECMOにおいては感染ピーク時には約3分の1がコロナウイルス感染症患者のために施行されていたが、人工呼吸器の使用については全体の1割程度にとどまっていたことも明らかとなった。
結論
本研究により、現状の疾患別・各臓器別診療科単位で行われている医療統計調査では把握できない、重症患者に対する臓器横断的な診療の状況を収集することができた。平時において、本来であればICUにて治療を受けるべきであるもののICU以外の病床で治療を受けている状況も明らかとなった。これらのことから、高額な医療費が投入される集中治療医療の適切な供給計画の立案が可能となる。また、新型コロナウイルス感染症パンデミック前後のデータ比較により、今回の有事における我が国の集中治療の対応状況も明らかに出来た。次なるパンデミックに備えて、急激な重症患者の増加に対応できる集中治療医療体制を構築する際に、本研究で得られた知見が有効に活用できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2023-06-23
更新日
2023-11-24

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-23
更新日
2023-11-27

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202206014C

成果

専門的・学術的観点からの成果
集中治療医療の提供に必要な3つ要素、ハコとしてのICU病床の適切な数、ヒトとしての集中治療医療に長けた医師、看護師等の医療者の必要数と配置、モノとしてのECMOや人工呼吸器などの高度生命維持装置の必要数と配置、について、わが国の状況を公的機関による統計調査や支払いデータベースなどを用いて分析を行い現状を明らかとした。成果は日本集中治療医学会誌において提言として公表し、大きな反響があった。
臨床的観点からの成果
平時における集中治療提供体制に係る現状調査から、我が国において約1500床の追加が必要であること、次いで、感染症有事における調査として、陽性者が増加した感染ピークにおいて、真に集中治療が必要な患者がICU外で診療を受ける場合が増加していたことを明らかとした。これらの結果は関連学会とも共有し、有事における集中治療体制の強化を共通認識とすることが出来た。
ガイドライン等の開発
我が国の集中治療医療提供体制を強靭化するための提言(日本集中治療医学会雑誌, 29巻, 2022年5月)を作成した。
その他行政的観点からの成果
本研究により、平時において、本来であればICUにて治療を受けるべきであるもののICU以外の病床で治療を受けている状況が明らかとなり、高額な医療費が投入される集中治療医療の適切な供給計画の立案が可能となることが期待される。
その他のインパクト
第50回日本集中治療医学会において西田修が本研究に関連した講演を行い、2023.04.03 週刊医学界新聞(通常号):第3512号に、その内容が掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-23
更新日
2023-11-24

収支報告書

文献番号
202206014Z