離島の医療提供体制の構築に向けた調査研究

文献情報

文献番号
202206013A
報告書区分
総括
研究課題名
離島の医療提供体制の構築に向けた調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
22CA2013
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小谷 和彦(自治医科大学 地域医療学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 前田 隆浩(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 春山 早苗(自治医科大学 看護学部)
  • 佐藤 栄治(宇都宮大学 地域デザイン科学部)
  • 福田 英輝(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
2,080,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
離島医療について、離島振興対策等を踏まえたオンラインシステムの導入状況、現場の医師や住民の声を含めて概観することを目的にした。以下のテーマを掲げた:(1)離島におけるへき地診療所とへき地医療拠点病院の医療体制と診療に関する全国調査、(2)離島医療におけるオンライン診療に関する検討、(3)離島歯科医療提供体制に関する全国調査、(4)離島住民の医療への受け止めに関する研究、 (5)離島における本土医療機関へのアクセシビリティ評価に向けた基礎的分析。
研究方法
(1)~(4)は質問紙で調査した。(1)全国の離島にあるへき地診療所とへき地医療拠点病院を対象にした。調査票では医療従事者や診療の状況、救急医療、オンライン診療、離島医療の捉え方等を問うた。(2)離島医療に携わる医師を対象に、本土等の後方医療機関の専門医とオンライン診療をした場合に有用性を示すと考えられる疾病を調査した。(3)全国の離島の歯科医療機関(含民間施設)を対象に調査した。調査票では歯科診療状況、歯科診療の課題等について問うた。(4)全国の7つの離島において、住民を対象に調査した。調査票では受診時に困った経験、オンライン診療を含む遠隔医療の必要性、島の診療に対する満足度、希望する医療体制を問うた。(5)東京、中国・四国、九州、沖縄地域において、地理情報システムを用いてアクセシビリティを推定した。医療機関の有無等の基本情報を得て、本土または最近隣病院までの離島端部からの直線距離を計測した。
結果と考察
(1)1)へき地診療所:100施設(44.6%)から回答を得た。1施設あたりの常勤医師数は1人(中央値)、常勤看護師数は2人(中央値)であった。多くの施設が人材確保策を講じていた。救急医療では70施設(有効数=77、90.9%)が円滑(含どちらかというと円滑)であると回答した。オンライン診療は23施設(有効数=96、24.0%)で活用され、76施設がオンライン診療を有用(含どちらかというと有用)と考えていた。3割超がドローンを活用したいと回答した。目指す医療として診療に対する島民の満足度向上、長く勤務する医師の確保等が挙げられた。離島医療の魅力について患者との近接性、診療技術の修得、プロフェッショナリズムの涵養が挙げられた。2)へき地医療拠点病院:6施設(40.0%)から回答を得た。1施設あたりの常勤医師は20人(中央値)、常勤看護師は102人(中央値)であった。殆どの施設が人材確保策を講じていた。救急医療について4施設(有効数=4、100%)が円滑(含どちらかというと円滑)であると回答した。全施設が離島でのオンライン診療は有用(含どちらかというと有用)と考えていた。目指す医療と離島医療の魅力は、へき地診療所の回答と同様であった。(2)23名から回答を得た。専門医とのオンライン診療が有用な疾病カテゴリーは「精神系・心身医学系」、「神経系」、「内分泌・栄養・代謝系」の順に多かった。(3)146施設から回答を得た(回答率49.2%)。歯科診療所の開設者は79施設が「個人」で最多で、院長の平均年齢は58.1歳であった。継続的な離島歯科診療のための取り組みでは、離島勤務できる歯科衛生士と歯科医師の人材育成と確保等が挙げられた。(4)回収率は11.8%であった。59.0%に受診時に困った経験があり、その内訳では救急受診に関することが最多(51.0%)であった。79.2%がオンライン診療を含む遠隔医療が必要であると回答した。島の診療に対しては53.4%が満足(含どちらかといえば満足)と回答した。医療体制の希望では救急搬送の充実が最多(54.5%)を占めた。看取りの体制への希望もみられた。(5)病院は人口が多く、本土までの距離が短い離島に存在し、診療所は人口が少ない島に存在するが、本土までの距離に関して非常に離れている島にも在ることが見て取れた。
結論
離島ごとの個別性を考慮する必要性はあるが、全体として離島医療の構築に係る重要な知見を得た。(1)へき地診療所とへき地医療拠点病院において、医療従事者の確保、診療応援、救急医療の体制は充実の求められる案件である。オンライン診療やドローンの利活用への期待は大きい。離島医療の魅力に関して貴重な声が寄せられた。(2)専門医とのオンライン診療で有用性を示す疾病リストが得られた。(3)歯科診療所では院長一人の運営でその高齢化も伺われる。歯科衛生士と歯科医師の人材育成と確保が課題である。(4)住民のニーズとして救急医療体制の対策はなお検討を要する。オンライン診療を含めた遠隔医療も期待されている。同時に終末期医療のニーズもみられる。これらの結果は、住民の声を交えた離島医療づくりに活用し得る。(5)アクセシビリティ評価のために、現実に近い評価法の改良に向けたい。

公開日・更新日

公開日
2023-05-31
更新日
2023-06-22

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-05-31
更新日
2023-06-22

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202206013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
離島医療について、離島振興対策等の進展に沿ったオンラインシステムの導入状況、また現場の医師や住民の声を含めて研究した。特に、離島の医療体制と診療に関する全国の概況、離島医療でオンライン診療が有用になる疾病の抽出、離島歯科医療提供体制に関する全国の概況、離島住民の医療への受け止め、離島医療機関の本土医療機関へのアクセシビリティの描出等に関して、新知見を得た。これらは、わが国の離島医療の維持・向上に資する貴重な成果と言える。
臨床的観点からの成果
離島医療においてオンライン診療が有用性を発揮し得る疾病やシチュエーション(看護師との協働を含む)を整理したことは、今後の臨床現場に反映され得る成果である。また、人材確保と配置の重要性や救急医療のありようへの示唆等も広く臨床現場に還元し得る成果と思われる。
ガイドライン等の開発
今回の知見を含めて、人材の確保と診療体制(ネットワーク化を含む)の確保、離島医療におけるオンライン診療や救急医療のありようについて提言を試みる予定である。
その他行政的観点からの成果
離島医療機関の置かれている状況、オンライン診療への期待、医療機関の見方と住民のニーズ間の調整の必要性等の調査結果を踏まえての対応に向けては、離島や本土の医療機関、住民、行政機関が連携した大きな枠組みでの整備が欠かせない。行政的支援についてさらに検討を進めるべきと考えられる。また、この調査を経て、医療体制についてのいくつかの好事例を収集できた。今後、こうした一連の成果を都道府県が策定する医療計画に組み込むことも考えられる。
その他のインパクト
成果の一部を学会等で発表するとともに、論文で出版して情報発信に努めた。調査の報告書を刊行し、行政機関や医療機関からの紹介に対応することとする。また、必要にあわせて現場に赴いたりWebでヒアリングを実施したりして当研究班は活動を継続する。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Araki Y, Nakamura A, Yamauchi M, et al
The Use of Telemedicine and Drones in Rural Clinics on Remote Japanese Islands
Cures , 17 (2) , e79078-  (2025)
DOI 10.7759/cureus.79078

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
2025-06-04

収支報告書

文献番号
202206013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,704,000円
(2)補助金確定額
2,704,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 114,552円
人件費・謝金 740,699円
旅費 440,400円
その他 784,350円
間接経費 624,000円
合計 2,704,001円

備考

備考
その他の収入 1円

公開日・更新日

公開日
2024-03-29
更新日
-