文献情報
文献番号
202206006A
報告書区分
総括
研究課題名
世界の健康危機への備えと対応の強化における我が国の戦略的・効果的な介入に資する研究
課題番号
22CA2006
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
詫摩 佳代(東京都立大学 法学政治学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 横堀 雄太(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 国際医療協力局 研修課)
- 中山 一郎(北海道大学 大学院法学研究科)
- 鈴木 淳一(獨協大学 法学部)
- 西本 健太郎(東北大学 大学院法学研究科)
- 武見 綾子(東京大学先端科学技術センター グローバル合意形成政策分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,184,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現在、世界の健康危機への備えと対応を強化するためには、①疾病の国際的伝播を最大限防止する目的で制定された法的枠組である国際保健規則(IHR)を強化すること、②IHRで対応できない課題解決のために新たな法的枠組を策定すること、の2点が必要であるということが加盟国間の合意である。両プロセスでの論点として、感染症に関する情報提供と収集の促進、医薬品・医療用品の公平分配や技術移転及び知財の取扱い、病原体の共有義務等が想定される。本研究は、IHR強化とパンデミックに関する新規国際文書(通称:パンデミック条約)について適時の包括的な情報収集、技術的および法的観点からの分析を行い、我が国からもIHRについて具体的な部分改正の提案、IHR遵守を強化するための仕組みの提案、新規国際文書の要素および適切な法的文書の形式に関する提案を国際会議に提出し、国際保健分野、特に健康危機管理における日本のプレゼンスの確保と実質的な貢献を行うことを目的とする。
研究方法
国際政治、国際法、医学をそれぞれ専門とする研究代表者、研究分担者がそれぞれの専門を活かして感染症対応の国際法制度の歴史、現在提案されている新たな法枠組みの法的課題の分析、各国の立場、船舶や知的財産など個々のテーマに関する条文の分析に取り組み、具体的な法制度のあり方、今後の交渉の進め方、日本の立場について具体的な提言を行なった。
結果と考察
詫摩佳代は感染症の国際的な法制度が歴史的に国際環境の変容に伴って柔軟に変容してきたこと、とりわけ近年に関しては、人新世の新たな課題も浮上しているなか、法制度の抜本的な改正が求められること、他方、地政学的な分断の深まりを受け、国際合意が厳しさを極める中で、IHR改正・パンデミック条約成立実現に向けた努力と並行して、それ以外の取り組みを強化する必要もあると主張する。鈴木淳一は交渉の現状を分析し、2023年3月末現在で、①WHO中心として複数の国際文書の交渉が並走して行われる(交渉の並走 (parallel negotiation))だけではなく、②複数の交渉の間で同様の原則や概念が同時に共有されていることが特徴であると指摘する。そして、今後成立する複数の文書相互においては規範の断片化が回避され、両立性・一貫性・補完性を実現することが期待されると論じる。武見綾子は法制度改革に関する各国の立場を整理し、各国のインセンティブや思惑は国ごと、その立ち位置ごとに異なっており、少なくとも優先順位の面で今後も継続的に問題が生じる可能性があると指摘する。そして、新型コロナウイルス直後に指摘された問題意識に新たなグローバルヘルス・アーキテクチャの構造が適切に合致しているか、継続的な観察が必要であると論じる。研究分担者の中山一郎は、公衆衛生と知的財産権の緊張関係を前提に、COVID-19における問題の所在を明らかにするとともに、これまでの国際的な議論の動向を整理分析した。その上で、今後、パンデミック条約や国際保健規則改正の交渉において留意すべき、知的財産権に関する基本的考え方について検討した。西本健太郎は、本研究は、(1)外国船舶の入港拒否、(2)入港した外国船舶に対する措置、そして(3)船員の円滑な交替というCOVID-19が国際海運に対してもたらした3つの問題に着目し、COVID-19の教訓を踏まえた国際社会における対応の現状を評価することによって、IHR改正交渉のための検討に寄与することを目指した。全体として、なお課題が残る外国船舶の入港拒否と入港した外国船舶に対する措置の問題については、国際法規則の問題としては感染症対策に関する特別法としてのIHRによる解決に期待が寄せられる一方で、IHRをめぐる議論においては国家間の権限配分に関する問題は議論の俎上に上りにくいという構図の存在があると論じる。横堀雄太は、適時の包括的な情報収集、技術的および法的観点から分析する目的で、IHR改正作業部会(WGIHR)、パンデミック条約の政府間交渉会議(INB)における各国の発言の分析を行った。各論点について国家間、あるいは先進国と途上国で異なる立場が並行線を辿る中で、どのように合意点へ向けて各国が歩み寄っていけるかが今後の焦点と思われ、引き続きフォローしてゆく必要性を指摘している。
結論
本研究成果は、日本政府作成の文書「2030年SDGs目標年に向けての我が国のグローバルヘルス戦略」の内容を補強することにもつながり、国際的なインプリケーションも大きいと予測される。昨今、多国間協調を取り巻く環境が厳しさを増している中で、日本がパンデミック関連の国際的な法整備において主導的な役割を果たすことは、ポストコロナの国際秩序の安定、日本の国際的なリーダーシップの強化といった効果も伴うものと期待される。
公開日・更新日
公開日
2023-07-21
更新日
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