文献情報
文献番号
202206001A
報告書区分
総括
研究課題名
現在の脳死判定基準で脳死判定が困難な事例における脳死判定代替法の確立に向けた研究
課題番号
22CA2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
横田 裕行(日本体育大学 大学院保健医療学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 荒木 尚(埼玉医科大学 医学部)
- 黒田 泰弘(香川大学 医学部)
- 園生 雅弘(帝京大学 医学部)
- 種市 尋宙(富山大学学術研究部医学系小児科学 小児科学講座)
- 内藤 宏道(岡山大学病院 救命救急科)
- 横堀 將司(日本医科大学 大学院医学研究科救急医学分野)
- 小笠原 邦昭(学校法人岩手医科大学 医学部 脳神経外科学講座)
- 宮本 享(国立大学法人京都大学 附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
1,920,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
改正臓器移植法が施行されて13年になり、新型コロナウイルス感染拡大の中で脳死下臓器提供数は一時的に減少したが、全体的な傾向としては徐々に増加している。しかし、その数は年間100例に及ばず、欧米諸国に比較すると依然として極めて少ない。その理由は脳死下臓器提供が可能な施設である5類型と言われる医療施設側の体制整備の課題も存在するが、法的脳死判定自体の課題、すなわち眼球損傷、聴覚障害、頸髄損傷などで脳幹反射が評価できないために脳死下臓器提供ができない例が少なからず存在することも指摘されている。また、そのような場合であっても法的脳死判定が可能であれば、脳死下臓器提供数は増加するとの報告もある(平成14年度ヒトゲノム・再生医療等研究事業研究班報告)。
このような場合、海外では補助検査を利用して脳幹反射の代替を行うが、本邦ではそのような対応はとられていない。そこで本研究では、現在の脳死判定基準では脳死診断ができない、例えば眼球損傷、聴覚障害、頚髄損傷症例や無呼吸テストが施行できない体外式膜型人工肺(ECMO、Extra-Corporeal Membrane Oxygenation)装着症例でも脳死が確認でき、患者や家族の脳死下臓器提供への意思を反映できる代替的な手法を検討することを目的とした。すなわち、本研究は脳死下臓器提供への本人の生前意思や家族の意思を実現し、結果的に脳死下臓器提供が増加することに資するものである。
このような場合、海外では補助検査を利用して脳幹反射の代替を行うが、本邦ではそのような対応はとられていない。そこで本研究では、現在の脳死判定基準では脳死診断ができない、例えば眼球損傷、聴覚障害、頚髄損傷症例や無呼吸テストが施行できない体外式膜型人工肺(ECMO、Extra-Corporeal Membrane Oxygenation)装着症例でも脳死が確認でき、患者や家族の脳死下臓器提供への意思を反映できる代替的な手法を検討することを目的とした。すなわち、本研究は脳死下臓器提供への本人の生前意思や家族の意思を実現し、結果的に脳死下臓器提供が増加することに資するものである。
研究方法
本研究では①画像診断としての脳血流評価の検討、②電気生理学的な検討、➂ECMO装着例での無呼吸テストの検討、④小児例での検討を行うこととした。検討方法はこれらの課題に関して専門的な検討を行うため、それぞれの分野の専門である研究分担者と研究協力者で研究体制を組織して検討を行った。脳死判定における脳血流の補助的画像検査の選択について、脳死下臓器提供にかかわる5類型施設(大学附属病院長宛:82病院、日本救急医学会指導医指定施設:144施設、および救命救急センター:295施設、日本脳神経外科学会基幹施設又は連携施設:858施設、日本小児施設総合医療施設協議会会員施設:38施設)を対象にアンケートを行った。その結果、脳血流の停止を確認する画像検査に関してはCTAが最も選択されるべき検査法と評価され、次いでCTA+CTP、MRAであった。(ABR)と体性感覚誘発電位(SEP)の誘発電位に関しても日本救急医学会や日本脳神経外科学会の協力を得て、アンケ―と調査とABRとSEPが脳死判定の補助検査としての有用性、及びその位置づけに関する文献的考察を行った。また、小児における補助検査の位置づけに関しても文献的考察を行った。さらに、ECMO装着下における無呼吸の評価について検討した。
結果と考察
様々な理由で法的脳死判定の脳幹反射の評価ができない場合においても、脳血流の停止の確認、あるいは誘発電位であるABRやSEPで脳幹機能を評価することで、脳死判定が可能である。ただし、補助検査を行う前には通常の臨床検査を可能な限り行うことが前提である。脳血流の停止を確認する画像検査はCTAが最も選択されるべき検査法と評価され、次いでCTA+CTP、MRAであった。しかしながら、脳死とされ得うる病態である対象患者は人工呼吸器が装着され、昇圧薬等の投与量調整のために様々な医療機器が装着されていることを想定すると高磁場の環境で検査するMRAでの評価は適切ではないと考えられた。ABRとSEPが脳死判定の補助検査として有用であることが示された。SEP、ABRの一方、ないし両者の脳幹成分が保たれている場合は、いずれかの脳幹反射が観察不能であっても、誘発電位を記録すれば脳幹機能残存を見逃すことはなく、誘発電位が脳幹反射観察不能の場合の脳幹機能検出の代替法として位置付けられると結論した。なお、ABRのみでは、延髄が中枢である咳反射、咽頭反射残存例でABR脳幹成分が消失している場合があり、SEPの両者の消失を確認することが必要である。また、小児の脳血流や補助検査の位置付けに関しても成人同様であることが示された。ECMO装着下においても自発呼吸消失の確認(無呼吸テスト)を行うことが可能で、その手順や方法について検討した。
結論
様々な理由で法的脳死判定の脳幹反射の評価ができない場合においても可能な限り法的脳死判定項目を行うことを前提として、脳血流の停止の確認、あるいは誘発電位であるABRやSEPで脳幹機能を評価することで、脳死判定が可能であると結論した。また、小児の脳血流や補助検査の位置付けに関しても成人同様であることが示された。ECMO装着下においても自発呼吸消失の確認(無呼吸テスト)を行うことが可能で、その手順や方法について検討した。
公開日・更新日
公開日
2023-12-21
更新日
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