文献情報
文献番号
202203004A
報告書区分
総括
研究課題名
医療安全の確保に向けた手術動画の記録および解析におけるAI活用の有用性の実証
課題番号
20AC1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
梶田 大樹(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 斎藤 英雄(慶應義塾大学 理工学部情報工学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
15,384,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生労働行政の課題として、安全・安心な医療の提供が挙げられる。手術に関しては、第三者の事後検証が実施できるように、術中の映像を残し、調査の対象に含められることが望ましい。特に医療安全の確保を目的に、常に発生しうる医療事故に備える場合、手術の全件録画・全録画が望ましいとされるが、実際の現場には多くの課題がある。
ICTインフラの面では、内視鏡や顕微鏡が使用されない限り、手術動画の録画・保存のために必要かつ利便性の高い機器は開発されていないという問題がある。特に、開腹手術に限らず、外科医が直視下に行う手術(open surgery)においては、手術室のスタッフがわざわざカメラを細かく調整する必要があるうえ、術中にはカメラと術野の間に外科医の頭や体が入り込むため、術野の撮影は困難であり、全録画など不可能であった。
本研究の研究代表者・研究分担者らは、この課題を解決するために、AMED 事業を通じて「マルチカメラ搭載型無影灯」を開発し、スタッフが撮影を意識せずとも、open surgeryの全録画が可能であることを実証した。
本研究の目的は、マルチカメラ搭載型無影灯によるAIを活用した手術の全自動録画(手術全録画AI)およびAIによる手術映像の解析が、医療の質や安全の向上に有用であるとするエビデンスを確立することである。
ICTインフラの面では、内視鏡や顕微鏡が使用されない限り、手術動画の録画・保存のために必要かつ利便性の高い機器は開発されていないという問題がある。特に、開腹手術に限らず、外科医が直視下に行う手術(open surgery)においては、手術室のスタッフがわざわざカメラを細かく調整する必要があるうえ、術中にはカメラと術野の間に外科医の頭や体が入り込むため、術野の撮影は困難であり、全録画など不可能であった。
本研究の研究代表者・研究分担者らは、この課題を解決するために、AMED 事業を通じて「マルチカメラ搭載型無影灯」を開発し、スタッフが撮影を意識せずとも、open surgeryの全録画が可能であることを実証した。
本研究の目的は、マルチカメラ搭載型無影灯によるAIを活用した手術の全自動録画(手術全録画AI)およびAIによる手術映像の解析が、医療の質や安全の向上に有用であるとするエビデンスを確立することである。
研究方法
令和4年度には、手術映像データ収集、手術映像解析AIの開発、手術映像解析AIの有用性の実証研究に取り組んだ。
手術映像データ収集では、マルチカメラ搭載型無影灯やメガネ型アイトラッカー、ルーペ設置型の術野カメラを使用して、手術の撮影を実施した。
手術映像解析AIの開発では、術具の識別AIの開発、手術工程判別AIの開発に取り組んだ。
手術映像解析AIの有用性の実証研究では、令和2年度から令和4年度に開発した手術映像解析AIについて、ユーザーテストを行った。
手術映像データ収集では、マルチカメラ搭載型無影灯やメガネ型アイトラッカー、ルーペ設置型の術野カメラを使用して、手術の撮影を実施した。
手術映像解析AIの開発では、術具の識別AIの開発、手術工程判別AIの開発に取り組んだ。
手術映像解析AIの有用性の実証研究では、令和2年度から令和4年度に開発した手術映像解析AIについて、ユーザーテストを行った。
結果と考察
手術映像データ収集では、令和4年度に74件の手術の撮影を実施し、令和2年度以前の手術も含め、動画を研究に利用可能な手術の総数を214件とした。
手術映像解析AIの開発では、術具の識別AIの開発において、バリデーションデータで51.3%、テストデータで29.7%の値が得られた。データセット内で登場頻度が小さい稀な術具の精度が伸びないために、全体では3割に満たない精度にとどまった。
手術工程判別AIの開発では、15本の動画を12本のトレーニングデータと3本のテストデータに分割し学習したところ、既存手法(TeCNO)では63.3%の精度が得られ、提案手法では77.6%の精度が得られた。
手術映像解析AIの有用性の実証研究では、「このシステムを実際に使ってみたい」という質問について12人の医療スタッフから平均4.5の回答が得られた。
Open surgeryでは内視鏡手術やロボット手術と比べ多種多様の術具が登場するため、術具の識別のタスクの難易度が非常に大きいことが確認された。今後は、稀な術具や変形する術具に対する検出の精度を向上させることが課題として挙げられる。手術工程の判別のタスクにおいては、既存の手術工程を推定するモデルは内視鏡手術を対象としたものであり、open surgeryの手術工程の推定では高い精度が得られないことが確認された。そこで我々は一般の行動分類タスクに特化した Transformer ベースのモデルであるASFormerを用いることで高い精度を得ることに成功した。今後は判別結果を利用して医療安全の向上に寄与するような仕組みを組み立てることについて検討していきたい。
手術映像解析AIの開発では、術具の識別AIの開発において、バリデーションデータで51.3%、テストデータで29.7%の値が得られた。データセット内で登場頻度が小さい稀な術具の精度が伸びないために、全体では3割に満たない精度にとどまった。
手術工程判別AIの開発では、15本の動画を12本のトレーニングデータと3本のテストデータに分割し学習したところ、既存手法(TeCNO)では63.3%の精度が得られ、提案手法では77.6%の精度が得られた。
手術映像解析AIの有用性の実証研究では、「このシステムを実際に使ってみたい」という質問について12人の医療スタッフから平均4.5の回答が得られた。
Open surgeryでは内視鏡手術やロボット手術と比べ多種多様の術具が登場するため、術具の識別のタスクの難易度が非常に大きいことが確認された。今後は、稀な術具や変形する術具に対する検出の精度を向上させることが課題として挙げられる。手術工程の判別のタスクにおいては、既存の手術工程を推定するモデルは内視鏡手術を対象としたものであり、open surgeryの手術工程の推定では高い精度が得られないことが確認された。そこで我々は一般の行動分類タスクに特化した Transformer ベースのモデルであるASFormerを用いることで高い精度を得ることに成功した。今後は判別結果を利用して医療安全の向上に寄与するような仕組みを組み立てることについて検討していきたい。
結論
本研究を通じてopen surgeryの手術動画を対象とするAI開発の礎を築いた。そもそもopen surgeryは撮影が困難でデータが集められないため、AI開発の報告はほとんどない。本研究グループでは、世界で唯一であるopen surgeryの多視点全録画データの活用が可能であり、引き続き世界を先導するAI開発に邁進していきたい。
公開日・更新日
公開日
2023-06-13
更新日
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