環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
200904006A
報告書区分
総括
研究課題名
環境中の疾病要因の検索とその作用機構の解明に関する研究
課題番号
H21-国医・指定-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
中釜 斉(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 早期がん研究プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 若林 敬二(独立行政法人 国立がん研究センター 研究所 がん予防基礎研究プロジェクト)
  • 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
  • 渡辺 徹志(京都薬科大学 公衆衛生学教室)
  • 島 正之(兵庫医科大学 公衆衛生学教室)
  • 高野 裕久(国立環境研究所 環境健康研究領域)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
14,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
環境中に存在する変異原や発がん物質について、新規の物質を明らかにすると共に、これらの環境中発がん要因によるがん発生の分子機構を解明することを目的とする。
研究方法
新規発がん物質の探索に関して、内因性では、ラット十二指腸液逆流モデルで胆汁酸由来DNA付加体の定量を、糖尿病モデル反応系で新規物質の探索を行なった。外因性では、地域性腎症の原因物質を遺伝子傷害性から解析した。大気汚染物質の健康影響では、全国で大気粉塵を採取して抽出物の遺伝毒性及び成分を調べ、また、健常人に及ぼす影響を肺機能の点から解析した。ナノマテリアルは、LPSとの単独及び併用でマウスに経気道暴露し、肺炎症及び血中サイトカイン等を解析した。がんの発生・成立に関わる遺伝的要因では、ラット大腸発がんモデルでの高内臓脂肪・発がん感受性系統における、肝臓・大腸腺管の脂肪組織性サイトカインの遺伝子や特定の細胞内シグナル関連蛋白質の発現を解析した。大腸発がん性の異なるヘテロサイクリックアミンを投与したラット大腸腺管でmicroRNA(miRNA)発現を網羅的に解析した。
結果と考察
胆汁酸ニトロソ抱合体のDNA付加体をラットモデルから検出し、内因性発がん要因である可能性を示した。糖尿病モデル反応系からリスク原因となりうる新規変異原物質を単離した。また、地域性腎症の原因物質として自生植物由来の物質を特定した。大気粉塵の主要な変異原物質は燃焼機関由来であり、黄砂により日本に影響する可能性を示した。また、アレルギー素因がある健常人では、大気汚染物質の肺機能への影響が示された。ナノマテリアルは、感染症に関連する肺炎症を増悪する可能性が示された。生活習慣病等の生体側因子の一つである高内臓脂肪等と関連して、ラット大腸発がんモデルで発がん促進的に作用するシグナル経路の候補を見出し、がん発生の初期に関わりうる発がん物質特異的に変動する候補miRNAを選定した。
結論
新規の内因性・外因性発がん物質を同定し、大気粉塵の影響が広範に及ぶ可能性や、日本やアジアにおいてもリスクが危惧されている大気汚染物質やナノマテリアルの影響がアレルギーや感染症等の生体側因子により変化する可能性を見出した。肥満などの生活習慣病の発がんへの影響や、発がんの初期段階にmiRNAが関与する可能性を示した。今後は、これらの知見の、発がん物質のリスク評価やがんの予防、大気汚染の健康影響への予防など日本やアジア諸国のがん等の疾病予防対策などへの活用を目指す。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200904006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新規の発がん物質として、内因性では胆汁酸由来のDNA付加体を生体内から検出し、アジアで急増する糖尿病の生体モデル反応から新規物質を見出した。外因性では自生植物由来の物質を特定した。日本やアジアにおいてもリスクが危惧される大気粉塵の影響が広範に及ぶ可能性や、健常人でもアレルギー素因などの生体側因子により大気汚染物質が影響する可能性を示した。ナノマテリアルが肺炎症等の感染症を憎悪する可能性を見出した。発がん分子機構に関して、肥満の発がんへの影響や、初期段階にmicroRNAが関与する可能性を示した。
臨床的観点からの成果
日米やアジア諸国で増加する糖尿病や肥満など生活習慣病により、内因性の新規発がん物質が生成される可能性や、発がん促進的に作用する候補シグナル経路を見出し、生活習慣病と発がんの関連を示した。日米やアジアで需要が増大するナノマテリアルの暴露が肺炎症を憎悪することは、アジアに蔓延する感染症においてナノマテリアル暴露が影響する可能性を示唆し、ナノマテリアルの健康影響評価の重要性を示した。
ガイドライン等の開発
遺伝子傷害性の解析から自生植物由来のアリストロキア酸(AA)をバルカン腎症の原因物質であること特定した本研究や他の研究者の報告と合わせて、AAは、「IARC発がん性リスク一覧」で、Group 2Aから1にアップグレードされた。
また、ナノマテリアル暴露によるマウス肺炎症の憎悪効果は、ナノマテリアルのリスク評価の基礎的データへ、発癌物質特異的に変動するmicroRNAは、新規の発癌物質判定法の開発に応用できる可能性があり、新たなガイドラインの開発へ応用可能な研究成果である。

その他行政的観点からの成果
日中韓の環境での協力優先10分野に関する行動計画には、大気汚染対策や黄砂対策などが含まれている。大気粉塵の分布状況の解析は、燃焼物質特に黄砂由来の大気粉塵抽出物が変異原性の主たる原因である可能性を示し、黄砂の日本への影響を考える上での、基礎的データとなる。大気粉塵の影響は広範に及ぶことを示しており、日中韓以外の他のアジア地域の大気汚染対策にも参考になる。また、健常人でもアレルギー素因の有無により大気汚染物質の肺機能への影響が変化する可能性を示し、大気汚染対策で生体側因子を考慮する必要性を示した。
その他のインパクト
研究代表者中釜 斉が、第26回国立がんセンター中央病院市民公開講演会「がんについて」(2009年7月4日開催)において「がんを知り、がんに挑む -研究の場から-」の演題で、及び第3次対がん総合戦略研究事業市民公開講演会「がん撲滅に向けた新たな挑戦?これからのがん研究の若き担い手へのメッセージ?」(2010年2月27日開催)で「PARPの発見からがん治療薬までの経緯と今後の展開」の演題で、環境中の発がん要因によるがん発生の分子機構の解明やその応用に関する講演を行なった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
市民公開講座での講演

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okamoto K, Taya Y, Nakagama H.
Mdmx enhences p53 ubiquitination by altering the substrate preference of the Mdm2 ubiquitin ligase.
FEBS Lett , 583 , 2710-2714  (2009)
原著論文2
Endo H, Hosono K, Nakagama H, et al.
Involvement of JNK pathway in the promotion of the early stage of colorectal carcinogenesis under high-fat dietary conditions.
Gut , 58 , 1637-1643  (2009)
原著論文3
Ohtsubo C, Shiokawa D, Nakagama H, et al.
Cytoplasmic tethering is involved in synergistic inhibition of p53 by Mdmx and Mdm2.
Cancer Sci , 100 , 1291-1299  (2009)
原著論文4
Sugiyama M, Takahashi H, Nakagama H, et al.
A Adiponectin inhibits colorectal cancer cell growth through the AMPK/mTOR pathway.
Int J Oncol , 34 , 339-344  (2009)
原著論文5
Takahashi H, Takayama T,Nakagama H, et al.
Association of visceral fat accumulation and plasma adiponectin with rectal dysplastic aberrant crypt foci in a clinical population.
Cancer Sci , 100 , 29-32  (2009)
原著論文6
Yamamoto M, Nakano T, Wakabayashi K, et al.
Molecular cloning of apoptosis-inducing Pierisin-like proteins, from two species of white butterfly, Pieris melete and Aporia crataegi.
Comp. Biochem. Physiol. B Biochem. Mol. Biol. , 154 , 326-333  (2009)
原著論文7
Yamaji T, Iwasaki M, Wakabayashi K, et al.
Visceral fat volume and the prevalence of colorectal adenoma.
Am. J. Epidmiol. , 170 , 1502-1511  (2009)
原著論文8
Wakabayashi K, Totsuka Y, Hada N, et al.
Chemical confirmation of the structure of a mutagenic aminophenylnorharman, 9-(4'-aminophenyl)-9H-pyrido[3,4-b]indole: An authentic synthesis of 9-(4'-nitrophenyl)-9H-pyrido[3,4-b]indole as its relay compound.
Genes Environ. , 31 , 87-96  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-05
更新日
-