グローバル化する細菌性下痢症を征圧するための多角的研究

文献情報

文献番号
200904001A
報告書区分
総括
研究課題名
グローバル化する細菌性下痢症を征圧するための多角的研究
課題番号
H21-国医・指定-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
西渕 光昭(京都大学 東南アジア研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 江崎 孝行(岐阜大学大学院)
  • 飯田 哲也(大阪大学 微生物病研究所)
  • 甲斐 明美(東京都健康安全研究センター 微生物部)
  • 山本 達男(新潟大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 渡辺 治雄(国立感染症研究所)
  • 山崎 伸二(大阪府立大学大学院)
  • 藤井 潤(九州大学大学院医学研究院)
  • 野田 公俊(千葉大学大学院医学研究院)
  • 倉園 久生(帯広畜産大学畜産衛生学研究部門)
  • 大澤 朗(神戸大学大学院農学研究科)
  • 神谷 茂(杏林大学医学部感染症学)
  • 林 哲也(宮崎大学)
  • 辻 孝雄(藤田保健衛生大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題推進研究(国際医学協力研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
14,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究においては、グローバル化かつ多様化しつつある主要な細菌性下痢症の現状を掌握し、効果的な治療法・予防法の確立に資するために、重要な腸管感染症原因細菌について、それぞれのエキスパートが、現在最も必要と考えられる問題点に焦点を絞って研究を展開することを目的とした。
研究方法
それぞれの研究内容に適した手法(分子遺伝学、分子疫学、細胞化学、免疫学、環境生態学、生理学、病理学など)を用いて、研究が遂行された。病原性細菌はそれぞれのセイフティーレベルに合致した実験施設で取り扱われ、菌の移動や分与は規則に従って行われた。動物実験は、動物に不要な苦痛を与えないように配慮し、それぞれの研究者の所属する機関の倫理規定を遵守した。人体に由来するサンプルを取り扱う場合は、所属機関の倫理委員会の承認を得て、規定に従って実験を実施した。
結果と考察
コレラ菌については、“新型”菌株の検出法と分子疫学およびワクチン開発、腸管出血性大腸菌では菌の検出法・病原性・治療と臨床診断、カンピロバクターでは分子疫学と病原性、赤痢菌では病原性、サルモネラ菌では新たな毒素、Providencia alcalifaciensでは病原性、ヘリコバクター・ピロリでは生態学と病原性、腸炎ビブリオでは世界的に流行している新型クローンの疫学、および下痢症原因細菌全般を対象にした網羅的検査法などについて新たな学術的知見が得られ、実用的な技術開発も行われた。これらの成果は、学会発表や論文発表を通して世界を対象に発信され、また一部については特許申請が行われた。
腸管感染症をグローバルな視点から見て、重要な問題に取り組んで様々な成果が得られた。感染症の診断のための細菌の同定はゲノムレベルでのオートメーション化の方向へ向かっている。腸内細菌グループでは、病原性メカニズムでまだ全体像がつかめておらず研究の奥深さが示唆された。疫学は間違いなく分子遺伝学レベルで展開している。カンピロバクターは世界的にも国内でも非常に重要な感染症であるが、情報が乏しいので今後の重要課題である。
結論
総じて研究計画に沿って研究が進展し、良い成果が得られている。今後もこれらの研究が、必要に応じて軌道修正(発展途上国でのニーズへ対応する国際共同研究も含む)を受けながら、展開していけば理想的であろう。

公開日・更新日

公開日
2010-06-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200904001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
研究分担者(林)は、腸管出血性大腸菌O157のゲノム多様性の原理、腸管出血性大腸菌の平行進化のメカニズムを明らかにした。これらは、病原菌の進化・多様化の解明に広く通用する概念であるという観点から極めて重要な国際的研究であり、腸管出血性大腸菌の新規疫学ツールの開発、新しい菌株検出・分離法の開発、さらに感染予防や治療に関する研究開発の情報基盤として国内外で広く利用されることが期待される。
臨床的観点からの成果
腸管出血性大腸菌O157感染症による急性脳症には今まで治療法がないとされていたが、研究分担者(藤井)は、本研究でステロイドパルス療法が有効であることをウサギのモデルで証明した。またO157感染症の急性脳症の診断にはMRI, T2Wよりも、enhanced MRI検査法の法が鋭敏であることを明らかにした。これらの研究成果は、O157感染症の急性脳症の診断法および治療法に新たな道筋をつけた。
ガイドライン等の開発
研究分担者(藤井)は、岡崎市長からの依頼を受け、牛の生食を提供している飲食店経営者に細菌性食中毒に関する講演を行い、子供や高齢者、免疫の低下した人には、生レバーなどの牛の生食を提供する際、リスク表示をメニューに提示することを提言した。この提言は岡崎市保健所の行政指導に取り入れられた。さらに、この岡崎市保健所の取り組みは、東海・北陸7県10市食品衛生主管課長会議で議題になったほか、全国食品衛生主管課長連絡協議会からの厚生労働省への要望事項にも盛り込まれるよう要請された。
その他行政的観点からの成果
研究代表者のグループは、中国から我が国に輸入されたハマグリおよび中国山東省青島市で市販されているハマグリから腸炎ビブリオO3:K6血清型パンデミック菌株をほぼ同時期に分離できた。DNAフィンガープリント解析の結果、両分離株が非常に近似していることが明らかになり、二枚貝の輸出入がパンデミック菌株の重要な国際伝播経路であることが証明できた。結果は厚労省の担当者に連絡し、今年1月に北京で開催された中国CDC主催の国際フォーラムで行った招待講演において、事前の同意を得て中国側にも公表し注意を喚起した。
その他のインパクト
研究分担者(江崎)は、腸管感染症病原体10種類を一度に高感度で迅速かつ簡便に検出するシステムを開発し国際特許を出願した。研究代表者は、塩素やアルコールをベースにしない食品用殺菌剤を開発し、国内特許出願中である。研究分担者(野田)は、全国の小学校および高校等(合計35ヶ所)で、細菌学の最新の知識をわかりやすく解説する無料出張講演を実施した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
51件
その他論文(和文)
33件
その他論文(英文等)
19件
学会発表(国内学会)
99件
学会発表(国際学会等)
42件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mitobe J,et al.
Involvement of RNA-binding protein Hfq in the osmotic-response regulation of invE gene expression in Shigella sonnei.
BMC Microbiol. , 9 (110)  (2009)
原著論文2
Tokunaga, A., Yamaguchi, H., Morita et al.(in pres).
Novel PCR-based genotyping method, using genomic variability between repetitive sequences of toxigenic Vibrio cholerae O1 El Tor and O139.
Mol. Cell. Probes. , 24 (2) , 99-103  (2010)
原著論文3
Fujii. J., Kinoshita Y, Matsukawa. A. Et al.
S.. Successful steroid pulse therapy for brain lesion caused by Shiga toxin 2 in rabbit.
Microb Pathog , 46 (4) , 179-184  (2009)
原著論文4
Yamazaki, W., Nakaguchi, Y., Nishibuchi, M., et al.
Development of a loop-mediated isothermal amplification assay for sensitive and rapid detection of the tdh and trh genes in Vibrio parahaemolyticus and related Vibrio species.
Appl. Environ. Microbiol. , 76 (3) , 820-828  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-06-05
更新日
-