文献情報
文献番号
202201004A
報告書区分
総括
研究課題名
レセプトデータ等を用いた、長寿化を踏まえた医療費の構造の変化に影響を及ぼす要因分析等のための研究(政策変更を「自然実験」とする弾力性の推計に係る実証研究)
課題番号
22AA1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
野口 晴子(早稲田大学 政治経済学術院)
研究分担者(所属機関)
- 山縣 然太朗(国立大学法人 山梨大学 大学院総合研究部 医学域 社会医学講座)
- 朝日 透(早稲田大学 理工学術院)
- 山名 早人(早稲田大学 理工学術院)
- 川村 顕(早稲田大学 人間科学学術院)
- 牛 冰(ギュウ ヒョウ)(公立大学法人大阪 大阪府立大学 経済学研究科)
- 遠山 祐太(早稲田大学 政治経済学部)
- 富 蓉(フ ヨウ)(早稲田大学 商学部)
- 及川 雅斗(早稲田大学 高等研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
10,666,000円
研究者交替、所属機関変更
該当無し.
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では,以下の2つを研究課題として設定する.
【課題1】2022年10月における,75歳以上の後期高齢者を対象とした患者の窓口負担額の変化を「外生ショック」とし,後期高齢者の医療需要の価格弾力性の推定を行う.
【課題2】2021年11月以降における各月における都道府県別のCOVID-19の感染状況のばらつき・変動の違いを「外生ショック」とした感染症拡大による患者の受診行動の変化(受診抑制・所得弾力性)の推定を行う.
【課題1】2022年10月における,75歳以上の後期高齢者を対象とした患者の窓口負担額の変化を「外生ショック」とし,後期高齢者の医療需要の価格弾力性の推定を行う.
【課題2】2021年11月以降における各月における都道府県別のCOVID-19の感染状況のばらつき・変動の違いを「外生ショック」とした感染症拡大による患者の受診行動の変化(受診抑制・所得弾力性)の推定を行う.
研究方法
2022年度では,まず,【課題1】と【課題2】に係る先行研究(計48本)のレビューを行った.先行研究で得られた知見に基づき,【課題1】については,当該制度変更を準実験的環境として,「所得課税情報等に応じた医療費情報」(厚生労働省保健局調査課)に回帰不連続デザイン(regression discontinuity design:以下,RDD)を応用し,医療需要の価格弾力性の推定を行う.同じく,【課題2】についても,「所得課税情報等に応じた医療費情報」(暫定版:2021年11月-2022年8月,北海道)に,北海道内の各14総合振興局・振興局で人口1万人当たりの感染者数を月次集計したデータを突合し,記述的手法による分析を行う.
結果と考察
【課題1】では,医科外来診療において医療費が3.8%減少し,需要の価格弾力性は0.038と算出された.また,RDDにevent studyモデルを組み合わせた分析からは,窓口負担割合が上昇する直前に,医療費額が上昇する「駆け込み需要」を示唆する結果が得られた.さらに,窓口負担割合が上昇した2022年10月以降の推定値を用いて価格弾力性を計算すると,弾力性は0.024-0.072の範囲で推定された.
【課題2】について,全標本を対象とした分析では,第6波(2022年1-2月)において,受診率が大幅に下落し,受診抑制が発生することが明らかになった.同様の傾向は,入院・外来・歯科・調剤の全てで観察され,医療支出と診療実日数についても同様の結果が得られた.また、入院と歯科受診では,感染が一旦収束する6月に受診率が大幅に増加する現象が観察された.この結果は,第6波の感染収束まで受診を延期していた可能性を示唆するものかもしれない.層別分析では,第1に,受診抑制は,必ずしも,居住地域近隣の感染状況にのみ依存して発生するわけではなく,他の地域の感染状況によって発生する可能性がある.第2に,受診率をみる限り,受診行動には所得勾配が介在せず,異なる所得水準での受診行動のパターンに違いはない.入院・外来の受診者のみを対象にすると,非課税対象者に比べ,課税対象者の方が,わずかながら,医療支出が高く,診療実日数が長い傾向があるものの,受診率の結果から,日本における皆保険制度の下,コロナ禍でも,概ね,医療サービスに対するアクセスの公正性が担保されていたといえるだろう.傷病による層別分析からは,一部の傷病で,第6波,第7波(2022年7-8月)ともに入院受診率が減少傾向を示すと同時に,6月に大幅な受診率の増加が発生したことから,感染収束まで入院受診を延期していた可能性が示唆され,これらの傷病を基礎疾患として抱える後期高齢者は重症化リスクを怖れ,パンデミックに対し一貫して敏感な反応を示したのかもしれない.最後に,傷病によっては,入院と外来とで,パンデミック下において,逆の動向を示したことから,感染拡大による病床数の逼迫等,医療供給体制の制約条件に影響を受け,入院受診から外来受診へのシフトが発生した可能性が示唆される.
【課題2】について,全標本を対象とした分析では,第6波(2022年1-2月)において,受診率が大幅に下落し,受診抑制が発生することが明らかになった.同様の傾向は,入院・外来・歯科・調剤の全てで観察され,医療支出と診療実日数についても同様の結果が得られた.また、入院と歯科受診では,感染が一旦収束する6月に受診率が大幅に増加する現象が観察された.この結果は,第6波の感染収束まで受診を延期していた可能性を示唆するものかもしれない.層別分析では,第1に,受診抑制は,必ずしも,居住地域近隣の感染状況にのみ依存して発生するわけではなく,他の地域の感染状況によって発生する可能性がある.第2に,受診率をみる限り,受診行動には所得勾配が介在せず,異なる所得水準での受診行動のパターンに違いはない.入院・外来の受診者のみを対象にすると,非課税対象者に比べ,課税対象者の方が,わずかながら,医療支出が高く,診療実日数が長い傾向があるものの,受診率の結果から,日本における皆保険制度の下,コロナ禍でも,概ね,医療サービスに対するアクセスの公正性が担保されていたといえるだろう.傷病による層別分析からは,一部の傷病で,第6波,第7波(2022年7-8月)ともに入院受診率が減少傾向を示すと同時に,6月に大幅な受診率の増加が発生したことから,感染収束まで入院受診を延期していた可能性が示唆され,これらの傷病を基礎疾患として抱える後期高齢者は重症化リスクを怖れ,パンデミックに対し一貫して敏感な反応を示したのかもしれない.最後に,傷病によっては,入院と外来とで,パンデミック下において,逆の動向を示したことから,感染拡大による病床数の逼迫等,医療供給体制の制約条件に影響を受け,入院受診から外来受診へのシフトが発生した可能性が示唆される.
結論
【課題1】について,医療サービスの価格弾力性は,医療政策の決定において,重要なパラメタであり,個人の属性ごとに異なる可能性がある.居住地域や傷病ごとに価格弾力性を推定し,その弾力性の幅を提示することにより,効率的な政策運営を手助けするための重要な知見になるだろう.【課題2】では,今後,全国を対象として,各二次医療圏における医療供給体制のデータを突合し,月次ベースでの医療サービス(COVID-19,及び,COVID-19以外の傷病)に対する需要を解析すれば,供給体制の逼迫が患者の受診行動とアウトカムに与える影響を検証することが可能となる.そうした分析を行うことで,将来の感染症対策や,有事における医療供給体制の整備に資する基礎資料が得られるだろう.
公開日・更新日
公開日
2023-06-27
更新日
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