老年者の在宅医療に関する研究

文献情報

文献番号
199700574A
報告書区分
総括
研究課題名
老年者の在宅医療に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 智(ライフケアシステム代表幹事)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤智(ライフケアシステム代表幹事)
  • 阿部志郎(横須賀キリスト教社会館館長)
  • 加藤恒夫(かとう内科並木通り病院理事長・医師)
  • 紀伊国献三(国際医療福祉大学医療福祉学部教授)
  • 辻彼南雄(ライフケアシステム老年医学部門メディカルディレクター)
  • 池ヶ谷紀子(武蔵野赤十字訪問看護ステーション所長)
  • 堀越由紀子(北里大学病院総合相談部係長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界の医療は古今東西を問わず在宅医療に支えられてきたが、日本のみが異なった発展をしてきた。とくに、昭和40年頃から医療全体が病院中心に傾き、在宅医療がないがしろにされた。日本は昭和50年以降、急速に高齢化社会になり、老人保健法設定を始めとして在宅ケアが政策として取り上げ始められた。しかし、在宅ケア、在宅医療の「本質と実践」の深い考察がなく、表面的な現象に対応することに追われた。例えば日本の「老年病学」の教科書をみても、在宅医療の章はなく、とくにその総論・本質論の論説はない。ここに、在宅医療・在宅福祉などに関る研究者が、それぞれの実践を通して「在宅医療の総論」を研究し、国際的な広い視野から考察することが研究の目的である。
研究方法
老年者の在宅医療の総論を研究することが目的であるから、各研究者の立場で、それぞれの実践を踏まえて意見を述べ、討論することを研究の主たる方法とした。その討論に有識者を交え、論議を深めた。また、具体的には、在宅医療実践母体ライフケアシステムの老年者に面接、アンケート調査を行い、「在宅医療を支えるコミュニティー」の在り方の研究を行った。東京以外の地方(横須賀、岡山など)、アメリカの状況なども討論の中に含めて研究をおこなった。
結果と考察
結果=老年者の在宅医療は、それぞれが生活する地域社会(コミュニティー)を基盤として営まれるのが最も自然で、効率的であり、永続性がある。東京で17年の経験のあるライフケアシステム、横須賀・田浦地区、岡山市などの実践から、「老年者の生と死の総合的ケア」は「コミュニティーを基盤とすべきである」という結論になった。また、これらの実践は「ティームケア」で行われるべきであり、それに関る人材(特に医師、看護婦、ケースワーカーなど)の教育が重要であることが再認識された。
考察=日本の医療はすべての国民が平等に、相当程度の医療を経済的な不安が少なく病院でうけられる点では世界的視野からみても優れている。しかし、在宅医療に関しては先進国はもとより開発途上国よりも遅れている面がある。(佐藤研究者が南インドの病院勤務の経験からもいえることである)それは、基本的に「医療は非収益事業であり、コミュニティーが支え合うものである」ということが日本以外の諸国では社会の中に、歴史的に定着しているからである。日本の様に、患者からの医療収入のみで病院、クリニックの経営をせねばならない国は、世界中日本以外にない。このことは日本の中で意外に気付かれていない。日本の収益性を中心にした健康保険制度の大きな欠点が、この「老年者の在宅医療」を日本中に拡充しなければならないときに表面化してきた。いまこそ、コミュニティーに支えられて発展した先駆的な活動に学び、正しい新しい方向性を見出して行かねばならない。
結論
1.老年者の在宅医療はコミュニティーに基盤をおき、生命倫理に根ざし、そして、互いに支えあう「互酬制度」が必要である。2.老年者の「生と死」を周囲の人々(医療者、福祉関係者、地域の人々などのティーム)で「共に担いあう」システムの拡充を急がねばならない。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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研究報告書(紙媒体)