医療ネグレクトにおける医療・福祉・司法が連携した対応のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200901016A
報告書区分
総括
研究課題名
医療ネグレクトにおける医療・福祉・司法が連携した対応のあり方に関する研究
課題番号
H20-政策・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
宮本 信也(筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 拓代(富田林保健所)
  • 野見山 哲生(信州大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
7,606,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成21年度も引き続き、1.医療ネグレクトの実態と課題の整理と対応手引きの作成、2.全戸訪問事業と育児支援家庭訪問事業推進のための支援プログラムの開発を目的とした。
研究方法
2つの目的に合わせ、実態調査の追加や調査結果の詳細分析を行い、手引き作成と平成20年度に作成したマニュアルの改訂を行った。
結果と考察
1.医療ネグレクト:全国の小児医療機関に生命・身体に重大な影響のある事例に関する追加調査を行った。回答された事例では難治・不治疾患が多く、医療ネグレクトが生命倫理の問題を含んでいる実態が明らかとなった。平成20年度の調査で医療ネグレクトに関する考え方が多様である現状が判明した結果を踏まえ、厚生労働省通知に即して医療ネグレクトの操作的定義を定め、その定義を元にした対応手引きを作成した。操作的定義は、『医療ネグレクトとは、以下の全てを満たす状況で、る医療行為に保護者が同意しない状態をいう。1)子どもが医療行為を必要とする状態にある。2)その医療行為をしない場合、子どもの生命・身体・精神に重大な被害が生じる可能性が高い(重大な被害とは、死亡、身体的後遺症、自傷、他害を意味する)。3)その医療行為の有効性と成功率の高さがその時点の医療水準で認められている。4)(該当する場合)子どもの状態に対して、保護者が要望する治療方法・対処方法の有効性が保障されていない。5)通常であれば理解できる方法と内容で子どもの状態と医療行為について保護者に説明がされている。』というものである。
2.家庭訪問事業:家庭訪問を受けた母親に訪問事業に対する意見を質問紙により尋ねた。回答母親の90%以上が家庭訪問を肯定的に受け止めていたが、子育て支援を必要とする回答は約6割であった。訪問時と10ヶ月健診時のうつ尺度得点を比較し、高得点の母親への支援のあり方を検討する必要性を指摘した。母親のニーズを適切にとらえて支援を考えることが重要と思われた。平成20年度に作成した訪問事業のためのマニュアルを用いた研修を実施し、参加者の意見も参考にマニュアルの改訂を行った。
結論
厚生労働省通知に即した形で医療ネグレクトの操作的定義を定め、その定義に基づいた医療ネグレクトへの対応の手引きを作成した。
家庭訪問事業は母親に肯定的に受け止められているが、育児支援のニーズとは必ずしも一致していない実情を明らかとした。さらに、平成20年度作成の訪問事業マニュアルの改訂を行った。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200901016B
報告書区分
総合
研究課題名
医療ネグレクトにおける医療・福祉・司法が連携した対応のあり方に関する研究
課題番号
H20-政策・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
宮本 信也(筑波大学大学院 人間総合科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 拓代(富田林保健所)
  • 野見山 哲生(信州大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、1.医療ネグレクトの実態と課題を整理し対応に関する手引きを作成すること、2.虐待予防としての生後4か月までの全戸訪問事業と育児支援家庭訪問事業を効果的に実施するための支援プログラムを開発することの2つである。
研究方法
2つの目的に合わせた実態調査、外国での実践報告、文献等から問題点の整理を行い、手引きやチェックリストなどを作成、一部は試行して有用性の検討を行った。
結果と考察
1.医療ネグレクト:実態調査では、回答小児医療機関の約40%、回答児童相談所の約35%が医療ネグレクトを経験していた。医療ネグレクト事例は、生命の危険のある重症例だけでなく、風邪や軽度の疾患の放置など多彩であった。小児科医、児童相談所職員とも、医療ネグレクトを子どもの健康状態が脅かされる状態の放置と広く受け止めていることがうかがわれた。医療ネグレクトに関する法的論点を、現在のわが国の法制度を踏まえて検討し、子どもの自己決定能力の判断、医療行為に関する親権濫用の判断などの6つの論点に整理した。また、「親権濫用」と判断される可能性の高い条件を、医療行為の成功率、未治療時の子どもの不利益などの5点に整理した。2年間の研究結果を踏まえ、医療ネグレクトの操作的定義を作成し、その定義に即した対応手引きを作成した。
2.家庭訪問事業:米国のプログラムとわが国で有効な訪問事業を行っている自治体の取り組みを分析し、要支援家庭を発見するためのチェックリスト、家庭訪問員及び訪問員支援員の両者のための2種類の養成プログラム、訪問事業推進のためのマニュアル、子育て支援シートを作成した。子育て支援シート以外は実際に試行し、一定の有用性を確認することができた。
結論
わが国の医療・福祉の4割前後の機関が、毎年、医療ネグレクトを経験している実態が明らかとなった。医療ネグレクトのとらえ方は多様であり、支援の目的の沿った視点から分類を検討する必要があると思われた。医療ネグレクトに関する操作的定義を定め、対応のための手引きを作成した。
訪問事業において要支援家庭を簡便に把握できるチェックリスト、訪問事業スタッフのための養成プログラム、訪問事業推進のための実施マニュアル、子育て支援シートを作成し、試行によりそれぞれが一定の有用性があることを示すことができた。

公開日・更新日

公開日
2010-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200901016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
医療ネグレクトがわが国においても少なくない現状を明らかにできたことで、医療ネグレクトへの対応体制を構築することの必要性を裏付ける根拠を示すことができた。医療ネグレクトの法的論点を整理するとともに、ヘルスケア・ネグレクトという概念を提唱したことは、医療ネグレクトの概念を検討するための方向性を示し得たと思われる。母親のうつ尺度得点が育児経過中に大きく変化することを示したことは、育児中の母親のうつ状態を検討する上で参考となる知見を示したと思われる。
臨床的観点からの成果
厚生労働省通知に即した医療ネグレクトの操作的定義を定め、医療ネグレクトへの対応手引きを作成したことにより、緊急の介入を必要とする医療ネグレクトの判断と対応を容易にすることができたと思われる。家庭訪問時に要支援家庭を発見するためのチェックリスト、訪問事業スタッフの養成プログラム、訪問事業マニュアルを作成し、それらの有用性をある程度示したことは、各自治体の訪問事業を推進する際に参考となるものを提供できたと思われる。
ガイドライン等の開発
本研究では、2つのガイドラインを作成した。一つは医療ネグレクトへの対応手引きであり、他の一つは乳児家庭全戸訪問事業及び養育支援訪問事業推進のための手引き(訪問事業手引き)である。医療ネグレクトへの対応手引きは、わが国で初めてのものであり、医療ネグレクトの操作的定義、判断、対応の実際を、医療と児童相談所の2つの視点から具体的に解説している。訪問事業手引きは、わが国の育児状況、訪問時のアセスメント、支援の実際などを解説している。どちらの手引きも現場で大いに役立つものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
医療ネグレクトへの対応手引きは、厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長名による通知「医療ネグレクトにより児童の生命・身体に重大な影響がある場合の対応について」(雇児総発第0331004号)に即した対象を想定して作成された。この手引きにより、医療ネグレクトに対する厚生労働省の方針が各地域で実施されやすくなることが期待できる。同様に、訪問事業手引きも、訪問事業ガイドラインの解説版のように作られており、同事業の推進に貢献できると考えている。
その他のインパクト
医療ネグレクトが決して少なくない現状を明らかにしたことで、一般の人たちのこの問題への関心が高くなることが推測される。研究途中、NHKから取材を受けニュースで報道された(平成22年1月4日)。また、朝日新聞からも取材を受けたが、新聞報道は報告書が出てからということで現時点では報道はされていない。このように医療ネグレクトに対する社会全体の意識が高まることにより、この問題への対策がさらに推進されることが期待される。

発表件数

原著論文(和文)
8件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
28件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
柳川敏彦、宮本信也、山本恒雄、磯谷文明
医療ネグレクト
小児科 , 51 (2) , 477-485  (2010)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
-