文献情報
文献番号
200901015A
報告書区分
総括
研究課題名
子ども虐待問題と被虐待児童の自立過程における複合的困難の構造と社会的支援のあり方に関する実証的研究
課題番号
H20-政策・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
松本 伊智朗(札幌学院大学 人文学部)
研究分担者(所属機関)
- 岩田 美香(法政大学現代福祉学部)
- 栗山 隆(北星学園大学社会福祉学部)
- 小西 祐馬(長崎大学教育学部)
- 品川 ひろみ(札幌国際大学短期大学部)
- 田中 康雄(北海道大学大学院教育学研究院)
- 戸田 まり(北海道教育大学教育学部 札幌校)
- 藤原 里佐(北星学園大学短期大学部)
- 澤田 いずみ(札幌医科大学保健医療学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
1,806,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
子ども虐待問題は、家族における生活の不安定と貧困、養育者の心身の疾病や障害、家族関係上の葛藤、子どもの健康と発達上の困難、社会的孤立と排除、社会資源や公的支援へのアクセスの困難などが、複合的に連鎖しするなかで生起し、あるいは深刻化する。被虐待児の回復と社会的自立の困難も、被虐待体験による負因のみならず、こうした家族の不利を基底に持つ。本研究は、こうした複合的な諸困難の構造を明らかにすることを通して、総合的な社会的支援のあり方を検討することを目的とする。
研究方法
調査対象は平成15年度に北海道内すべての児童相談所(札幌市児童相談所および道立8児童相談所)において虐待相談として受理したもののうち、当該児童の受理時の年齢が5歳、10歳、14歳、15歳のもの129例すべてである。研究班メンバーが各児童相談所を訪問し、児童票より必要事項を調査・転記し、個人情報保護が可能な形に整理しえた119例が分析対象である。
結果と考察
分析の結果、貧困と社会的孤立が大きな背景として確認された。また大多数の家族に、子どもの障害、養育者の障害やメンタルヘルスの問題などの不利と困難が重複していた。経済的困窮、家族変動、夫婦間暴力、子どもの障害、養育者の疾病と障害、社会的孤立が重なり合い、複合的な不利が形成される中で、子育ての困難が子ども虐待問題として表面化すると仮説的に考えられる。また「虐待以前・虐待以外」の問題が、こうした不利と困難を背景とした時間の経過の中で「虐待」に転化・深刻化していく事例が少なからず確認できる。貧困とは現実の生活過程においては、可能性の制限と対応能力の低下、不利と困難の連鎖・蓄積の過程である。したがって虐待家族に対するソーシャルワーク的介入は、この連鎖を切る機能を持つ必要がある。
結論
児童虐待に対する政策的対応は、広く生活基盤の安定と個々の不利と困難を緩和するための政策を含まなければならない。これは予防的措置でもあると同時に、介入後の支援の基盤でもある。特に、①所得保障と生活基盤の安定、すなわち直接的な貧困対策、②DV防止と被害者支援、③障害児の療育と支援、④不登校(園)・いじめ対策等、子どもを排除しない保育所や学校体制、⑤地域での精神保健と精神医療、⑥知的障害等の脆弱性を抱えた親への支援、⑨被虐待児の後期中等教育の保障と社会的自立の支援、⑩施設入所や終結の際のアセスメントと評価、等の充実が不可欠であり、これらを前提に児童相談所における介入とソーシャルワーク、地域を基盤にした連携と支援が有効に機能しうる。
公開日・更新日
公開日
2010-09-21
更新日
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