磁界の生体への影響とその機構の解明

文献情報

文献番号
200840041A
報告書区分
総括
研究課題名
磁界の生体への影響とその機構の解明
課題番号
H20-健危・一般-008
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
久保田 俊一郎(東京大学 大学院総合文化研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鹿児島誠一(東京大学 大学院総合文化研究科 )
  • 奥野誠(東京大学 大学院総合文化研究科 )
  • 村越隆之(東京大学 大学院総合文化研究科 )
  • 深津晋(東京大学 大学院総合文化研究科 )
  • 梅景 正(東京大学環境安全本部)
  • 牛山明(国立保健医療科学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
18,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働行政の課題として、低周波磁界(送電線,家電など)および高周波のマイクロ波(携帯電話)曝露のヒトへの健康影響(発癌性、生殖能・脳への影響)が挙げられる。本研究は、低周波、中間周波、高周波磁界曝露による発癌性、脳神経系への影響、生殖系への影響を明らかにするため、実験的研究を行ない、その機序も含めて解明すること、および、磁界の健康影響に関する文献調査・メタアナリシスを目的とする。
研究方法
文献調査・メタアナリシスおよび実験的研究である。前者は、2006年以降に発表された査読付き論文を電磁界の周波数を限定せずに文献の収集を行い、その研究動向に関してレビューを行った。後者は、強い磁界強度(50Hz, 80mT)から生活環境レベル (50Hz, μTレベル)の磁界強度について、細胞レベル(神経系などの培養細胞増殖能)および動物レベル(脳・生殖能)で実験を計画し、20年度は、強い磁界強度について実験を進めた。動物レベルでは、ラットを低周波磁界に1日2時間―4時間,3日間曝露させ、大脳辺縁系機能に対する影響を、シナプス解析で電気生理学的に検討した。成長期のオスマウスの精子形成に対する作用を見るため、離乳後精子が出現するまでの3週間、低周波磁界に1時間/日、曝露させた。
結果と考察
文献調査の結果、影響がある、と結論している文献でも、実際は統計的な有意差を確認できない場合や、電磁界の曝露の推定方法や分類に疑問のあるものが多く、信頼性に乏しいものが多かった。現時点では生活空間の電磁界強度が健康リスクを発生するという明確な根拠はみられないと考えられる。
 低周波磁界曝露は、神経系の細胞の増殖を促進、抑制、不変の3つの反応を示した。動物レベルでは、ラットで、グルタミン酸を伝達物質とする興奮性シナプス伝達が低下する傾向が見られた。この現象はシナプス前終末からの伝達物質放出低下の可能性を示唆する。成長期のマウスの精子形成に対する影響は見られなかった。 

結論
文献調査の結果、現時点では生活空間の電磁界強度が健康リスクを発生するという明確な根拠はみられない。低周波磁界曝露は、細胞の増殖を促進、抑制の影響を示し、動物レベルでは、シナプス前終末からの伝達物質放出低下の可能性を示唆したが、結論を出すには、実験数を増やして、再現性を確認する必要がある。成長期のマウス精子形成への影響は見られなかったが、結論を出すには、実験数を増やして、再現性を確認する必要がある。また、生活環境レベル (50Hz, μTレベル)の磁界強度の影響も含めて評価し、結論を出す必要がある。

公開日・更新日

公開日
2009-05-14
更新日
-