沖縄の海洋性気候及び海水の健康増進効果に関する研究

文献情報

文献番号
199700565A
報告書区分
総括
研究課題名
沖縄の海洋性気候及び海水の健康増進効果に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
出口 宝(琉球大学医学部第一外科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯倉洋治(昭和大学医学部小児科)
  • 奥山真紀子(埼玉県立大宮小児保健センター)
  • 岸田綱太郎(ルイ・パスツール医学研究センター)
  • 小宮一郎(琉球大学医学部第二内科)
  • 仲宗根正(沖縄県立名護保健所)
  • 藤田晢也(ルイ・パスツール医学研究センター)
  • 松岡洋一(琉球大学法文学部)
  • 柳敏晴(国立鹿屋体育大学体育学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成8年度長寿科学総合研究事業「沖縄の海洋性気候及び海水の健康増進効果に関する研究」において、沖縄が長寿であることの背景の環境因子の一つとして海洋性気候と海水に注目して、それらが健康増進に与える効果を検討した。5つ研究を行ない、各種パラメーター(精神心理、睡眠、ストレス、内分泌、免疫機能)を用いて得られた成績を分析した結果、医科学的根拠に基づいて健康回復・増進効果が示唆され、さらに一部の疾患(重症アレルギー児)に対する治療の有効性がしめされた。そこで、本年度はさらにその効果の医科学的根拠を探究するとともに(研究1)、応用の検討(研究2,3)を行ない、健康増進・保養プログラムとしての有用性の検討を行なった。
研究方法
1.海洋療法の生体に対する影響の医科学的検討・海洋療法施設(タラサ志摩:三重県鳥羽市)において、被検者14名(成人)を対象に、一人5回の海洋療法プログラム(5日間)を実施し(表1.)、各種パラメーターを評価・検討した(表2.)。2.海洋利用型健康増進短期プログラム(水中運動の適用)の検討・健常者におよび能卒中後遺症や膝関節症を有する人を対象に、海辺のホテルに宿泊し水中運動を含むリラクセーションプログラム(参加者20名、対照30名)およびリハビリテーションプログラム(参加者12名)を実施、心理学的検討からその適用を検討した。3.海洋利用型治療プログラム(重症アレルギー児ドルフィンキャンプ)の検討・アトピー性皮膚炎・気管支喘息児24名を対象に一週間の海水浴にドルフィンセラピーを組み合わせたキャンプを行ない、心理学面および免疫学的にその効果および有用性を検討した。
結果と考察
1.海洋療法の生体に対する影響の医科学的検討・ 心理学的には、海洋療法後の日常生活におよぼす影響を検討した結果、生活に張りが出て、エネルギーが増加し、安定感の増加が認められ、睡眠の質の向上が認められた。また、自己効力感の高まり、自信の回復、ストレスに対する対処行動の改善が認められた。内分泌学的には、海洋療法によりACTH、コルチゾールのCRHに対する反応性が増加する傾向が認められた。ストレス等にてdown-regulateされた視床下部-下垂体-副腎系の反応性が海洋療法により回復する可能性が示唆された。免疫学的にはK562細胞に対するlysisをflowcytometerならびに共焦点顕微鏡による測定法で観察した結果、リンパ球のNK活性の上昇が認められ、INF-α、IL-12刺激時には、さらに著しく上昇した。INF-α刺激によるリンパ球の細胞内Ca2+の応答性は個人差が認められた。また、これらの効果は短時間~3日間よりも5日間の方が大きかった。また、51Cr遊離法によるNK活性、INF-α産生能、INF-γ産生能、抹消血のT,NK,NKT細胞数の検討では、最終日に行なった海洋療法前後では上昇および増加が認められたが、海洋療法に行く前と終了日で比較するとこれらは低下する傾向が認められた。NK細胞のマーカーであるCD3-CD56+細胞,NKT細胞のマーカーであるCD3+CD56- 細胞の細胞数には有意差は認められなかった。2.海洋利用型健康増進短期プログラム(水中運動の適用)の検討・健常者に対するリラクゼーション、能卒中後遺症や膝関節床を有する人へのリハビリテーションのいずれのプログラムもPOMS(Profile of Mood States)の「緊張」「怒り」「情緒混乱」の項目で有意な低下を示した。3.海洋利用型治療プログラム(重症アレルギー児ドル
フィンキャンプ)の検討・皮膚症状は著明に改善し、血清ECP(Eosinophilic Cationic Protein)濃度は一定の傾向を示さず、サイトカインの血清濃度はIL-8およびTNF-αで減少を認め、MIP-1αは変化は認められなかった。心理面では、海水浴時の皮膚の痛みを感じたのは、従来の海水浴キャンプでは96%であったのに対しドルフィンサキャンプでは22%であった。またキャンプが楽しかったと答えたのは従来の海水浴キャンプでは29%であったのに対しドルフィンサキャンプでは100%であった。
若年者から高齢者まで様々なストレスに暴露されることの多い近年では、数多くの心身の疾患がそれらに起因すると考えられている。一方で、薬剤や高度医療が主役であった今までの在り方を疑問視する声が聞かれるようになり、健康保養・増進に関心が高まってきている。これらに対応するべく健康保養・増進のための手法に関する研究が必要とされ、本研究班では海洋型プログラムに対する医科学的検討をおこなってきた。そして、今回は平成8年度の研究をさらに進めた結果、海洋療法には生理的な側面から支持された心理的な好効果が認められ、内分泌学的にストレス等により低下した視床下部-下垂体-副腎経の反応性の回復がみられ、ウィルス・癌などの異物細胞が体内に出現したときの生体防御系である免疫機能を上昇することが認められた。そして、これら一連の結果にはpsyco-neuro-endocrine-immunomodultioの関与が考えられた。疾病の発症とその進行と免疫機能との関連について多くの報告がされている。本研究の結果より「夏に海に行けば冬に風邪をひきにくくなる」との言い伝えは、免疫学的側面から支持されるであろう。以上より、人間が生来保有している疾病に対する治癒能力や防御力を引き出すための手法として、海洋療法に代表される海洋性気候および海水を活用した海洋型プログラムは年齢を問わずに有用であると考えられた。また、今回試みた治療プラムでも従来にみられなかった効果が認められ好成績を得たことより、薬剤や高度医療に依存しない新しい治療目的の活用法として有望であり、さらに詳細な研究をさ進めることが必要であると考えられた。今後は、・海洋性気候や海水の有する各々の要素や活用手技毎の影響とプログラムの組み合わせの検討、・その効果の持続期間の検討、・精神心理面と免疫機能とそのメカニズムに関するさらなる研究、・健常者に加えて心身の様々な疾患を有する患者を対照とした研究が必要と考えられる。そして・安全により効果的にプログラムが実施出来る環境の整備に関する研究が重要な課題になると考えられる。
結論
海洋性気候および海水の生体に対する影響を医科学的検討し、精神・心理学、内分泌、免疫学的に好影響を及ぼすことを示した。とくに、これらを積極的に活用する手法である海洋療法においては健康増進効果に対する医科学的根拠の一部を得た。また、疫学調査研究においてもその関連を認めた。さらに、一部の疾患に対する治療の有効性を示した。以上より、健康増進・保養プログラムの開発に海洋性気候および海水を活用することは有用であるとの結論を得た。

公開日・更新日

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