化学物質による神経伝達物質受容体を介した精神毒性発現機序の解明および行動評価方法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200839025A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質による神経伝達物質受容体を介した精神毒性発現機序の解明および行動評価方法の開発に関する研究
課題番号
H20-化学・一般-011
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 俊隆(名城大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 山田 清文(名古屋大学大学院医学系研究科・附属病院薬剤部)
  • 野田幸裕(名城大学 薬学部)
  • 永井 拓(名古屋大学大学院医学系研究科)
  • 間宮 隆吉(名城大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
25,478,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳神経系の発達がダイナミックに起こる周産期の胎児や新生児は化学物質に対して脆弱である。特に、神経情報伝達の基盤となる受容体はこの時期に形成されるため化学物質に対する危険性が最も高いと考えられる。したがって、神経伝達異常を引き起こす化学物質が子供の精神発達へ悪影響を及ぼすことは明白であるが、その詳細なメカニズムは不明であり、化学物質による行動評価系も確立されていない。本研究では神経精神発達障害の発現機序を神経薬理学的、行動薬理学的見地から解明し、障害を検出して評価できる簡便な方法を確立する。
研究方法
本年度はグルタミン酸受容体拮抗薬および異常免疫応答を惹起する化合物を、周産期に暴露して精神機能への影響を検討した。妊娠マウスへ胎生6.5日目より出生までグルタミン酸受容体拮抗薬 [フェンシクリジン (PCP)、MK-801]を投与し、仔マウスの成長時期に応じて行動試験を行った。周産期免疫異常はは生後2日目から5日間、マウスに合成2本鎖RNAアナログである[polyriboinosinic-polyribocytidilic acid (PolyI:C)]を投与して作製した。PolyI:C処置マウスが10週齢に達した後、行動試験を行った。PolyI:Cを新生仔期に投与し、成長したマウスの脳内におけるタンパク発現変化を二次元電気泳動によって解析した。
結果と考察
PCP投与群では、意欲の低下、認知記憶障害、短期記憶障害、及び情報処理機能障害が認められた。この一連の行動異常はグルタミン酸受容体作動薬であるD-セリンの投与により緩解した。さらに、PCP投与群の前頭皮質においてNMDA受容体のNR1サブユニットのリン酸化レベルが減少していたことから、グルタミン酸作動性神経系の機能が障害されている可能性がある。また、MK-801を投与したマウスでも不安様行動及び社会性行動、認知記憶において障害が観察された。一方、PolyI:C処置マウスは不安様行動の増加、社会性行動や学習記憶、感覚情報処理機能の障害、及び海馬におけるグルタミン酸遊離の異常を示した。PolyI:C投与群において、海馬で生理機能が明らかとなっていないタンパクの発現が有意に変化したことから、PolyI:Cによって惹起される精神発達異常およびグルタミン酸作動性神経系の機能異常にこのタンパクが関与している可能性が示唆された。
結論
グルタミン酸受容体拮抗作用または異常免疫惹起作用を有する化学物質に、母親が周産期に暴露されると、子供の精神発達を障害する可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-