ナノマテリアルの健康影響の評価手法に関する総合研究

文献情報

文献番号
200839022A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルの健康影響の評価手法に関する総合研究
課題番号
H20-化学・一般-008
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
武田 健(東京理科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
  • 田畑 真佐子(東京理科大学 薬学部)
  • 二瓶 好正(東京理科大学 理工学部)
  • 矢島 博文(東京理科大学 理学部)
  • 菅又 昌雄(栃木臨床病理研究所)
  • 井原 智美(栃木臨床病理研究所)
  • 押尾 茂(奥羽大学 薬学部)
  • 盛口 敬一(愛知学院大学 歯学部)
  • 中村 伸(京都大学 霊長類研究所)
  • 光永 総子(京都大学 霊長類研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成20(2008)年度
研究終了予定年度
平成22(2010)年度
研究費
47,954,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本プロジェクトではナノマテリアルを妊娠期曝露後、母獣、出生した子における体内挙動を長期間にわたって把握するとともに、生体影響評価手法を病理学的に、また、薬理学的、物理化学的、分子生物学的解析手段をもちいて確立する。げっ歯類の他に胎盤特性(構造および薬物透過性)や化学物質応答性がヒトと高い共通性を持つ霊長類への影響を比較検討し、ヒトへの外挿可能な健康影響評価手法を確立する。
研究方法
組織内ナノマテリアルの検出・同定は、TEM、STEM、FE-SEM、X線スペクトロ測定装置を用いて解析した。妊娠マウス・ラットにナノマテリアル(酸化チタン等)を投与後出生した仔の脳神経系への影響について、行動薬理学的試験、脳内モノアミン類の測定および脳内遺伝子発現変動の解析を行った。また、雄性生殖系への影響について評価した。
サルを用いた研究:アカゲザルを交配し、10頭の妊娠ザルを得た。Tween-60/PBSでDEPおよびCBの懸濁液を調整後、超音波処理で均一化し、背中部の皮内に投与した。自然分娩で得た新生仔から、血液、主要組織を採取した。組織化学的観察には固定組織試料を、分子細胞生物学的検討には生組織断片の液体窒素凍結試料を用意した。
結果と考察
ナノマテリアルである酸化チタンを皮下投与した妊娠マウスからの出生仔について、6週齢時に精巣組織に酸化チタン粒子が検出・同定された。曝露群の精巣組織ではセルトリ細胞の減少やミトコンドリアの損傷、1日精子産生数の有意な低下が認められた。脳組織では、嗅球、大脳皮質、海馬などの部位に酸化チタン粒子が検出・同定された。曝露群の組織で嗅球僧帽細胞のカスパーゼ-3(アポトーシスのマーカー)の発現が亢進していることが明らかとなった。
サルモデルの系では、PCR産物の高感度検出条件を確立し、100種以上の機能遺伝子について、定量的発現解析を可能にした。脳(海馬)、褐色脂肪組織、リンパ節、生殖組織などで興味深い遺伝子発現イベントが見られた。
結論
我々が得た結果は、ナノマテリアルが妊娠中の動物体内に入ると、母から仔に移行し、未発達な脳血液関門、精巣血液関門などを通過し、周辺の細胞に影響を及ぼすこと、生まれてから成長する過程で様々な症状として現れること、それらは時として重大な疾患の発症、増悪につながる恐れがあることを示唆している。ナノマテリアルは脆弱性集団の妊娠期母獣に強く影響を及ぼし、産仔が強く影響を受ける。以上の結果は予防法、治療法を考える上で貴重な情報と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2009-06-11
更新日
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