難分解性有機汚染物質(POPs)の胎児期暴露に関する研究

文献情報

文献番号
200839005A
報告書区分
総括
研究課題名
難分解性有機汚染物質(POPs)の胎児期暴露に関する研究
課題番号
H18-化学・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 洋(東北大学大学院 医学系研究科・環境保健医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 細川 徹(東北大学大学院 教育学研究科 発達障害学分野)
  • 岡村 州博(東北大学大学院 医学系研究科 周産期医学分野)
  • 村田 勝敬(秋田大学 医学部 環境保健学分野)
  • 福土 審(東北大学大学院 医学系研究科 行動医学分野)
  • 斎藤 善則(宮城県保健環境センター 環境化学部)
  • 仲井 邦彦(東北大学大学院 医学系研究科 環境保健医学分野)
  • 黒川 修行(東北大学大学院 医学系研究科 環境保健医学分野)
  • 奈良 隆寛(宮城県立こども病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
42,217,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
海外の先行研究から、PCB、有機塩素系農薬などの残留性有機汚染物質(POPs)およびメチル水銀などの重金属の周産期曝露が出生児の成長と発達に影響することが報告されている。これらの化学物質の周産期曝露に起因した健康影響を明らかにするため、出生児の成長と発達、特に認知行動面の発達を追跡する前向きコホート調査を実施した。
研究方法
前年度に引続き生後66ヶ月および84ヶ月調査を実施した。66ヶ月では、子どもの社会生活能力の測定を目的とした質問紙調査を実施し、84ヶ月調査では、知能検査、語彙検査、注意集中力維持検査、脳波測定(聴性脳幹誘発電位、事象関連電位)、心拍変動など総合的な調査を実施した。また、42ヶ月の調査で得られた知能検査(K-ABC)の指標と曝露指標(臍帯血PCBおよび母親毛髪総水銀)との関連性について、共変量を考慮して重回帰分析による再解析を行った。
結果と考察
66ヶ月の調査ではこれまでに492家族に質問紙を送付し385件の回収を得た(回収率78.9%)。84ヶ月の調査では、これまでに187家族に案内状を送付し、155件で調査を実施した(実施率82.9%)。順調に進行したと考えられた。
K-ABCの再解析の結果については、臍帯血PCBと認知処理尺度との間に負の関連性が認められ、PCB曝露に関連した知能の低下が示唆された。ただし、習得度尺度との間には関連性は見られず、また母親毛髪総水銀は K-ABCとの間に関連性は観察されなかった。曝露指標として、出生後曝露の影響を明らかにするため、母乳中POPsの化学分析を進めており、いずれ胎児期曝露の影響と比較する計画である。
結論
66ヶ月および84ヶ月の調査を継続し、出席率などは順調に推移した。生後42ヶ月のK-ABCと曝露指標との関連性をあらためて解析し、母親毛髪総水銀との間に有意な関連性は認められなかったものの、臍帯血総PCBについては、K-ABCの認知処理尺度で負の関連性が認められ、胎児期PCB曝露の負の影響が示唆された。化学物質曝露の影響は、子どもの成長とともに顕在化したり消失することがあると考えられ、授乳に伴う出生後の曝露影響を含め、生後84ヶ月における総合的な追跡調査を待って健康リスクの最終的な判断を行うことが重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
200839005B
報告書区分
総合
研究課題名
難分解性有機汚染物質(POPs)の胎児期暴露に関する研究
課題番号
H18-化学・一般-005
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
佐藤 洋(東北大学大学院 医学系研究科・環境保健医学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 細川 徹(東北大学大学院 教育学研究科 発達障害学分野)
  • 岡村 州博(東北大学大学院 医学系研究科 周産期医学分野)
  • 村田 勝敬(秋田大学 医学部 環境保健学分野)
  • 福土 審(東北大学大学院 医学系研究科 行動医学分野)
  • 斎藤 善則(宮城県保健環境センター 環境化学部)
  • 仲井 邦彦(東北大学大学院 医学系研究科 環境保健医学分野)
  • 黒川 修行(東北大学大学院 医学系研究科 環境保健医学分野)
  • 奈良 隆寛(宮城県立こども病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
海外の先行研究から、PCB、有機塩素系農薬などの残留性有機汚染物質(POPs)およびメチル水銀などの重金属の周産期曝露が出生児の成長と発達に影響することが報告されている。これらの化学物質の周産期曝露に起因した健康影響を明らかにするため、出生児の成長と発達、特に認知行動面の発達を追跡する前向きコホート調査を実施した。
研究方法
出生コホート調査について、生後42から84ヶ月に渡る追跡調査を実施した。42ヶ月では知能検査(K-ABC)を、66ヶ月では、子どもの社会生活能力の測定を目的とした質問紙調査を、そして84ヶ月では、知能検査、語彙検査、注意集中力維持検査、脳波測定(聴性脳幹誘発電位、事象関連電位)、心拍変動など総合的な調査を実施した。統計解析については、生後7ヶ月および18ヶ月で実施した発達検査、および42ヶ月調査の知能検査について、臍帯血PCBおよび母親毛髪総水銀との関連性について、共変量を考慮して重回帰分析による解析を行った。
結果と考察
42ヶ月の調査を全員で終了した。66ヶ月調査では492家族に質問紙を送付し385件を回収(回収率78.9%)、84ヶ月調査では、187家族に案内状を送付し、155件で調査を実施した(実施率82.9%)。順調に進行したと考えられた。
7ヶ月の発達検査で得られた発達指数および42ヶ月のK-ABCで得られた認知処理尺度の指標について、臍帯血PCBとの間に有意な関連性が認められ、PCB曝露に関連した負の影響が示唆された。ただし、18ヶ月の発達検査では負の影響はなく実施年齢で一貫した結果ではなく、また42ヶ月でもK-ABCの習得度尺度との間には関連性はなかった。また母親毛髪総水銀は発達指標との間に関連性は認められなかった。曝露指標として、出生後曝露の影響を明らかにするため、母乳中POPsの化学分析を進めており、いずれ胎児期曝露の影響と比較する計画である。
結論
84ヶ月までの出生コホート調査を継続し、出席率などから順調に推移したと考えられた。生後7、18および42ヶ月の発達指標と、曝露指標との関連性を解析し、胎児期PCB曝露の負の影響が示唆された。化学物質曝露の影響は、子どもの成長とともに顕在化したり消失することがあると考えられ、授乳に伴う出生後の曝露影響を含め、生後84ヶ月における総合的な追跡調査を待って健康リスクの最終的な判断を行うことが重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2009-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200839005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
残留性有機汚染物質(POPs)による周産期曝露について、海外における先行研究の多くで、子どもの成長と発達の遅れや偏りが報告されている。本調査の結果は、わが国でもPOPs曝露の健康影響が懸念されることを示していると考えられるものの、曝露レベルは漸減傾向にあり、また知見については一貫性に欠ける部位分があり、子どもの成長をまって詳細調査を実施し、検証することが必要と考えられた。
臨床的観点からの成果
42ヶ月の調査から、臍帯血総PCBと児のIQとの間に負の関連性があることが示され、重回帰分析から臍帯血濃度が10倍となると、児のIQは6.75点低下した。IQは平均100標準偏差15の正規分布をとるが、知的障害はIQで-2SDの70点より下とされ、全集団中の頻度は2.3%となる。IQが6.75点低下した場合、この知的障害の発生頻度は6.1%、およそ2.7倍と推定された。PCB曝露のリスクの解明が必要と考えられた。
ガイドライン等の開発
審議会などで参考となった事例はない。
その他行政的観点からの成果
審議会などで参考となったり、行政施策に反映された事例はない。
その他のインパクト
特にない。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
PCBやダイオキシンの解析結果など、主に曝露評価を中心に、いくつかの原著を発表した。
その他論文(和文)
3件
魚摂取のリスクとベネフィットを中心に、残留性有機汚染物質やメチル水銀に関する総説的な記事を発表した。
その他論文(英文等)
3件
臍帯血などの残留性有機汚染物質に関する総説、コホート調査結果の概要などを英文総説として発表した。
学会発表(国内学会)
33件
日本衛生学会、環境化学討論会、日本栄養・食糧学会、日本特殊教育学会などを中心に研究成果を発表した。
学会発表(国際学会等)
23件
国際ダイオキシン会議などを中心に研究成果を発表した。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Suzuki K, Nakai K, Hosokawa T, et al.
Association of maternal smoking during pregnancy and infant neurobehavioral status.
Psychol Reports , 99 , 97-106  (2006)
原著論文2
Nakamura T, Nakai K, Suzuki K, et al.
Concentrations of dioxins and PCBs in cord blood in Japanese children from the Tohoku Study of Child Development.
Organohalogen Compounds , 68 , 1631-1634  (2006)
原著論文3
Suzuki K, Nakai K, Nakamura T, et al.
Effects of perinatal exposure to environmentally persistent organic pollutants and heavy metals on neurobehavioral development in Japanese children: PCBs exposure and neonatal neurobehavioral status.
Organohalogen Compounds , 68 , 1201-1204  (2006)
原著論文4
Suzuki K, Nakai K, Nakamura T, et al.
Associations of neonatal neurobehavioral status with cord blood PCB, maternal hair mercury and maternal fish intake, in the Tohoku Study of Child Development.
Organohalogen Compounds , 69 , 2102-2105  (2007)
原著論文5
Nakai K, Nakamura T, Suzuki K, et al.
The biological monitoring program of persistent organic pollutions in Japan: 1. Concentrations of organochlorine pesticides in breast milk, cord blood and maternal blood.
Organohalogen Compounds , 69 , 1953-1956  (2007)
原著論文6
Nakamura T, Nakai K, Suzuki K, et al.
The biological monitoring program of persistent organic pollutions in Japan: 2. Concentrations of dioxins and polychlorinated biphenyls in breast milk, cord blood and maternal blood.
Organohalogen Compounds , 69 , 1957-1960  (2007)
原著論文7
Nakamura T, Nakai K, Matsumura T, et al.
Determination of dioxins and polychlorinated biphenyls in breast milk, maternal blood and cord blood from residents of Tohoku, Japan.
Sci Total Environ , 394 , 39-51  (2008)
原著論文8
Ohba T, Kurokawa N, Nakai K, et al.
Permanent waving does not change mercury concentration in the proximal segment of hair close to scalp.
Tohoku J Exp Med , 21 , 69-78  (2008)
原著論文9
Kurokawa N, Nakai K, Suzuki K, et al.
Relationship between child birth weight and concentration of polychlorinated biphenyls (PCBs) of the mother in Japan. -Tohoku Study of Child Development (TSCD)-.
Organohalogen Compounds , 70 , 2256-2259  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-