本邦における重症熱中症の実態把握に向けた研究

文献情報

文献番号
202127028A
報告書区分
総括
研究課題名
本邦における重症熱中症の実態把握に向けた研究
課題番号
21LA2004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
三宅 康史(帝京大学 医学部 救急医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 中原 慎二(帝京大学医学部 救急医学講座)
  • 神田 潤(帝京大学 医学部)
  • 一杉 正仁(国立大学法人 滋賀医科大学 医学部社会医学講座法医学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,923,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
熱中症には重症化に至る要因や因子が存在する。熱中症の実態調査、市民の意識調査と効果的な啓発法についての検討、近年の夏季の天候と熱中症搬送者数の解析、病理解剖所見から熱中症死亡例の病態解析、コロナ禍での新利用における安全性の検討等の臨床研究を行い、実態を把握し重症化予防のための効果的な啓発、治療法を総合的に見出すことを目的とした。
研究方法
①匿名レセプト情報を使った本邦における熱中症の実態調査:各年6〜9月の匿名レセプトデータにおいて熱中症関連の傷病名が付された受診者を対象に解析を行った。
②市民に対する熱中症予防の啓発に関する調査:2021年夏季の前後(7月上旬、9月下旬)に熱中症予防行動の実践について市民へのアンケートを行い、質問の途中で啓発動画を視聴した群とそうでない群で予防意識の変化を調査した。
③近年の夏季の天候と熱中症搬送者の特徴についての調査:消防庁発表の7~8月熱中症搬送者総数(速報)と、環境省「熱中症予防情報サイト」での6都市(東京・新潟・名古屋・大阪・広島・福岡)のWBGT値、および2021年の東京オリンピック開催時期の開催地の気象データにつき分析した。
④病理解剖所見から熱中症死亡に至る重症例の病態の解析:研究分担者の所属部門において熱中症または熱中症疑いと診断された解剖事例につき、臓器の肉眼および顕微鏡所見、検体検査所見および病歴を確認し、診断根拠を検証した。
⑤コロナ禍での熱中症診療における安全性に関する検討:蒸散冷却法におけるエアロゾルの発生と飛沫飛散状況に関する実験を行った。静穏な室内にて体表面温度を40℃に維持した人体模型に蒸散冷却法を行い、微粒子可視化システムにより5μm以上の飛沫またエアロゾル発生を測定した。
結果と考察
①匿名レセプト情報を使った本邦における熱中症の実態調査:各年6〜9月における熱中症関連の傷病名が付された受診者数は2010年以降、例年30万人台であったが、2018年には60万人近くが医療機関受診あるいは救急搬送された。とくに70歳以上では入院率、死亡率とも増加の程度が大きかった。10日毎の受診者数を累計すると、外来受診、入院ともに7月上旬から増加し始め下旬でピークとなり、8月中旬には減少傾向となるが下旬に再度増加する傾向があった。
②市民に対する熱中症予防の啓発に関する調査:熱中症予防行動のうち、知られていても実践されていないのが汗をかいた後の塩分補給、晴天外出時の日傘や帽子の使用、さらには熱中症アラートへの対応、高齢者への声掛け、居場所の温度計・湿度計の使用であり、知られていなかったのが暑熱順化の準備、屋外作業の初期段階での注意などであった。啓発動画を視聴した群でとくに意識変化に大きな差がでたのは、居場所の温度計・湿度計の使用と高齢者への声掛けで、熱中症アラートへの対応、屋外作業の初期段階での注意がそれに続いた。いずれの行動についても、実践できた割合は動画視聴群で高かった。
③近年の夏季の天候と熱中症搬送者の特徴についての調査:6都市平均でWBGTが31℃以上となる日が5日間以上継続した期間が存在すると、搬送者や重症者が大きく増加し、継続する暑さ、7月など早い時期に暑くなる場合には十分な啓発活動が必要と考えられた。近年の夏の特徴として寒暖の変動が大きい場合が増えており、梅雨明け後に気温が一旦下がり暑熱順化が失われ、その後暑さが戻ることで搬送が増加する傾向があった。2021年に開催された東京五輪期間中の暑熱環境では、オリンピック期間の特に後半でWBGTが高めとなり、内陸部や札幌では厳しい暑さとなった。またパラリンピック期間では前半は暑かった。無観客開催や一部競技時間の変更などにより、熱中症による搬送者急増などの報道はなかった。
④病理解剖所見から熱中症死亡に至る重症例の病態の解析:研究分担者の所属部門において当該解剖事例は10年間で8例あった。診断の最も有力な根拠はいずれも検視時の高体温で、肉眼的所見、検査所見などでの変化はみられなかった。熱中症およびそれによる死亡の病態では器質的変化を伴わず、臨床症状を評価できない死体の診断は困難であると考えられた。
⑤コロナ禍での熱中症診療における安全性に関する検討:体表面温度40℃の人体模型への蒸散冷却法の実施によるエアロゾルの発生はみられなかった。
結論
今後の熱中症予防策への活用に向け、匿名レセプト情報等による患者数の変動から、気象状況の類似した2018年と2020年、2019年と2021年の比較検討を通じて、コロナ禍によるマスク使用、外出制限、換気などの影響を調べることが可能になる。また予防啓発に関しては動画による熱中症予防啓発・重症化予防が有効であり、認識の低い予防策については世代に応じて様々なメディアを利用した啓発が必要である。

公開日・更新日

公開日
2022-10-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202127028C

収支報告書

文献番号
202127028Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,999,000円
(2)補助金確定額
8,999,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,157,710円
人件費・謝金 771,189円
旅費 32,380円
その他 4,961,721円
間接経費 2,076,000円
合計 8,999,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-12-14
更新日
-