文献情報
文献番号
202127020A
報告書区分
総括
研究課題名
地域保健における保健所に求められる役割の明確化に向けた研究
課題番号
21LA1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
尾島 俊之(浜松医科大学 医学部 健康社会医学講座)
研究分担者(所属機関)
- 内田 勝彦(大分県東部保健所)
- 福永 一郎(高知県安芸福祉保健所)
- 大木元 繁(徳島県三好保健所)
- 白井 千香(大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学教室)
- 永井 仁美(大阪府茨木林保健所)
- 佐伯 圭吾(奈良県立医科大学 医学部 疫学・予防医学講座)
- 宮園 将哉(大阪府健康医療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」及び「地域健康危機管理ガイドライン」の見直しに資するべく、地域保健における新たな課題に十分に対応するために保健所に求められる役割について課題の整理をすることを今年度の目的とした。
研究方法
「マスメデイアと保健所等との連携、リスクコミュニケーション」、「医療と保健所の連携及び役割分担」、「新型コロナ対応等における情報通信技術の活用」の3つのテーマについて、それぞれフォーカスグループディスカッションを行うとともに、全国保健所長会健康危機管理に関する委員会との意見交換会を行った。既存統計資料として、厚生労働省による地域保健・健康増進事業報告等の分析を行った。そして、研究代表者と研究分担者等で構成するWebによる研究班会議をほぼ毎月開催して検討を行った。
結果と考察
(1) マスメディアと保健所等との連携、リスクコミュニケーションについては、誰に、何を、どのように伝えるか、信頼を得るために本気で伝えるには何をするべきかという方法論の確立が必要である。また、保健・医療部門だけではなく部門横断的に広報を進めるとともに、対話型など新たな形のコミュニケーションに対応できる窓口や部門を設置するなど、新しい組織体制整備が重要である。(2) 保健所と地域医療との連携及び役割分担については、保健所が地域医療や地域医療の公衆衛生機能と連携し役割分担すること、公衆衛生行政人材の確保・育成においては、医療などの他分野との差別化や相互乗り入れを検討すること、また地域医療関係者と平時から情報交換すること、地域医療関係者の公衆衛生機能を充実強化するためにそのような活動への報酬を検討することなどが重要である。(3) 新型コロナ対応等における情報通信技術(ICT)の活用については、活用する者にとって負担が少なく使いやすいという利便性と、活用することによるメリット、インセンティブがあることが重要である。一方で、セキュリティ対策は重要である。また、DX(Digital Transformation)の本質は単にICTを導入することではなく仕事のプロセス、情報の流れをリデザインすることが重要である。(4) 健康危機管理に関する現状と今後については、個別の危機事象単位ではなく平時からオールハザードを想定すること、国が決めることと地方に任せることを整理し、現場と方針や対応の乖離を少なくすることなどが重要である。提言としては、①保健所と所管内の自治体や都道府県とのコミュニケーション、②指揮命令系統における保健所長の役割を明確化、③リスク管理の目安の設定と広域での情報共有、④地方衛生研究所の法的整備が挙げられる。(5) 保健所における調査研究機能についての課題については、科学的根拠に基づく地域保健対策の立案や履行には調査研究は重要であり、地域データを分析して関係者に提供することの必要性、即ち保健所における調査研究の必要性の理解を促すことが重要である。また、ハード・ソフト・支援体制等のインフラの整備や調査研究ができる人材の育成を進めることが重要である。(6) 総合的な保健医療福祉システムについては、全国の保健所を対象にしたアンケート調査データの追加分析から、健康格差を意識した活動の実施とナッジ理論の活用に関連がみられた。各保健所がアンテナを高くして住民の健康増進に役立つ取組を積極的に実施していくことが重要である。また、保健所法改正等が議論されていた平成4年度から令和元年度までの推移を観察したところ、平成9年度の地域保健法全面施行を境に保健所数と保健所医師数が急減しており、保健所の機能強化を図る必要がある。(7) 既存統計資料等の分析からは、人口10万人あたり常勤保健師数と、精神保健福祉相談訪問指導延人員、また、難病相談訪問指導延人員と有意な正の関連が見られた。保健師数の充実が精神保健福祉や難病の事業の充実に関連することが示唆された。(8) 新型コロナウイルス感染症対応等に関する情報交換からは、2021年度は春の第4波、夏の第5波、2022年冬の第6波を経験した。大阪で対応の逼迫をまず経験し、時期がずれながら他の地域でも業務が逼迫する状況となった。感染症対応について、在宅療養、入院調整、宿泊療養、ワクチン接種、また保健師の新規採用の取組や苦労等が共有された。
結論
フォーカスグループディスカッションや前年度までの研究班での検討も踏まえ、研究班会議により、地域保健指針等を見直す際に検討すべき課題の暫定版が整理された。人材確保・人材育成、情報通信技術の活用・調査研究機能、リスクコミュニケーション、医療と保健の連携、健康危機管理体制、組織体制等の課題が抽出された。
公開日・更新日
公開日
2022-10-03
更新日
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