市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上のための教育教材及びその活用マニュアルの作成と検証

文献情報

文献番号
202127009A
報告書区分
総括
研究課題名
市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上のための教育教材及びその活用マニュアルの作成と検証
課題番号
20LA1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
春山 早苗(自治医科大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 安齋 由貴子(宮城大学看護学部)
  • 牛尾 裕子(山口大学 大学院医学研究科)
  • 奥田 博子(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
  • 島田 裕子(自治医科大学看護学部)
  • 江角 伸吾(自治医科大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
3,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上のための教育教材及びその活用マニュアルを作成・検証することである。本研究では、特に市町村保健師の課題とされているフェーズ0(初動体制の確立)からフェーズ2(応急対策期-避難所対策が中心)までの災害時保健活動遂行能力(受援を含む)に焦点を当てている。2年目の今年度は、前年度に検討した教育教材を活用した教育方法を検証し、その検証結果を踏まえ教育方法を精錬した。また、市町村や保健所が教育教材を効果的に活用して教育研修を企画・実施できるためのマニュアルを作成・検証した。
研究方法
教育方法は、市町村保健師等を対象とした、WEB研修、市町村単位での集合研修、既存の演習教材(避難所HUG)を活用した集合研修とした。それぞれ4か所、1か所、1か所で、本研究班が作成したeラーニング教材や演習教材を活用した研修を実施し、プロセス評価及びアウトカム評価を行った。また、作成した教育教材活用マニュアルについて、研修を実施した都道府県・保健所・市町村の研修担当等の保健師への意見聴取により検証した。
結果と考察
自己学習のためのeラーニングのアカウント登録は30都道府県に及び、この1年間で約3倍に増加した。都道府県別アカウント数の差には、研修における活用との関連が推察され、研修における活用によって、研修参加者の研修に臨む準備状況をつくり、研修の目的・目標の到達度を高めることや、自治体等が主体的に実施することに寄与することが示唆された。課題はセキュリティ対策のためにeラーニングに接続できない市町村への対応であった。
本研究で実施した3タイプの研修プログラム及び演習教材はアウトカム評価の結果、市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上に一定の成果をもたらしていた。この理由として、災害時保健活動遂行に関わる知識等を得られたことや、演習によって災害時の状況や保健活動のイメージ化が図られ、求められるパフォーマンスが見えてきたこと並びに課題の明確化やその解決のための取り組みの具体化につながったことが考えられる。研修を受講しても実践の機会がないために不確実な感覚が残ることや1回の研修で自信を高めることは難しいことから、自己の課題に研修後も取り組んでいけるようフォローアップや継続した研修が必要である。
プロセス評価の結果から、災害時保健活動に関する研修、特に演習では、研修参加者の保健師経験年数が様々であったり、災害対応経験がある保健師もいれば、ない保健師もいたりする可能性がある中で、いかに災害時の保健活動をイメージできるかが、ポイントとなることが示唆された。本研究班が作成した演習教材によって、そのイメージ化が図れたと評価した研修参加者もいたが、少数ながらイメージ化が図れず演習課題に取り組むことが難しかったという評価もあった。イメージ化促進のために、動画を活用した演習教材の作成が今後の課題である。
本研究班で作成した演習教材及びその活用マニュアルは、市町村や保健所等が主体的・自立的に研修を企画・実施・評価することを支持することが示唆された。一方でマニュアルを活用しても主体的・自立的な研修の企画・実施が困難な課題には、WEB研修の場合はWEB会議システム等の研修に必要な操作やトラブル対応への精通等、既存の演習教材活用研修の場合は教材購入の予算確保や様々な物品等の準備を要すること等があった。また、最も大きな課題と考えられたことは、災害対応経験がない場合や研修企画側にそのような保健師がいない場合、演習における状況設定を主体的・自立的に考えること及び演習後の講評や助言が難しいということであった。補完方法としてeラーニング教材の活用が考えられるが、状況設定を考えていくこと等には不十分であり、支援する存在が必要である。支援者として、当該都道府県内の災害対応経験のある保健師や地元看護系大学の教員等が挙げられる。また、本研究班が作成したマニュアルも活用して、都道府県本庁等の研修担当者が、当該都道府県内の保健所や市町村の研修担当者を対象に“研修の企画・実施のための研修”を開催することも考えられる。
結論
本研究班で作成した教育教材及び教育方法は市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上に一定の成果をもたらしていた。また、教材活用マニュアルは、自治体が主体的・自立的に研修を企画・実施することを支持することが示唆された。課題は、よりイメージ化を促すための動画を活用した教材作成や、災害対応経験のない自治体の場合にはマニュアルのみで研修を主体的に実施することは難しく、支援者が必要なこと等であった。

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202127009B
報告書区分
総合
研究課題名
市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上のための教育教材及びその活用マニュアルの作成と検証
課題番号
20LA1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
春山 早苗(自治医科大学 看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 安齋 由貴子(宮城大学看護学部)
  • 牛尾 裕子(山口大学 大学院医学研究科)
  • 奥田 博子(国立保健医療科学院 健康危機管理研究部)
  • 島田 裕子(自治医科大学看護学部)
  • 江角 伸吾(自治医科大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
フェーズ0からフェーズ2に焦点を当て、市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上のための教育教材及び教育方法を検討すること、そして、市町村や保健所等が教育教材を効果的に活用して教育研修を企画・実施できるためのマニュアルを作成・検証することを目的とした。また、新型コロナウイルス感染症対策における保健師の応援派遣及び受援の手引きを作成した。
研究方法
1年目にeラーニング及び演習教材の作成並びに教育方法の検討を行い、2年目に検証、その結果を踏まえ教育方法を精錬した。教育方法は、市町村保健師等を対象にWEB研修、市町村単位の集合研修、既存の演習教材(避難所HUG)を活用した集合研修とした。本研究班が作成した教材を活用した研修を実施し、プロセス評価及びアウトカム評価をした。また、市町村や保健所が教育教材を効果的に活用して教育研修を企画・実施できるためのマニュアルを作成し保健師への意見聴取により検証した。
「新型コロナウイルス感染症対策における応援派遣及び受援のための手引き」案を作成し、令和2年度に1県の市区型保健所1カ所及び県型保健所2カ所の受援に際し、活用し検証した。
結果と考察
自己学習のためのeラーニングのアカウント登録は30都道府県に及び、この1年間で約3倍に増加した。都道府県別アカウント数の差には、研修における活用との関連が推察され、研修の事前課題等として活用することにより研修に臨む準備状況をつくり、研修目標の到達度を高めることや、自治体等の主体的な実施への寄与が示唆された。課題はセキュリティ対策のためにeラーニングに接続できない市町村への対応であった。
本研究で実施した3タイプの研修プログラム及び演習教材はアウトカム評価の結果、市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上に一定の成果をもたらしていた。この理由として、災害時保健活動遂行に関わる知識等を得られたことや、演習によって災害時の状況や保健活動のイメージ化が図られ、求められるパフォーマンスが見えてきたこと並びに課題の明確化やその解決のための取り組みの具体化につながったことが考えられる。研修を受講しても実践の機会がないために不確実な感覚が残ることや1回の研修で自信を高めることは難しいことから、自己の課題に研修後も取り組んでいけるようフォローアップや継続した研修が必要である。
プロセス評価の結果から、災害時保健活動に関する研修、特に演習では、研修参加者の災害対応を含む経験が様々となる可能性がある中で、いかに災害時の保健活動をイメージできるかが、ポイントとなることが示唆された。イメージ化促進のために、動画を活用した演習教材の作成が今後の課題である。
本研究班で作成した演習教材及びその活用マニュアルは、市町村や保健所等が主体的・自立的に研修を企画・実施・評価することを支持することが示唆された。一方で課題には、WEB研修の場合はWEB会議システム等の研修に必要な操作やトラブル対応への精通等、既存の演習教材活用研修の場合は教材購入の予算確保や様々な物品等の準備を要すること等があった。また、最も大きな課題と考えられたことは、災害対応経験がない場合や研修企画側にそのような保健師がいない場合、演習における状況設定を主体的・自立的に考えること及び演習後の講評や助言が難しいということであった。補完方法としてeラーニング教材の活用が考えられるが、状況設定を考えていくこと等には不十分であり、支援する存在が必要である。支援者として、当該都道府県内の災害対応経験のある保健師や地元看護系大学の教員等が挙げられる。また、本研究班が作成したマニュアルも活用して、研修担当者を対象に“研修の企画・実施のための研修”を開催することも考えられる。
「新型コロナウイルス感染症対策における応援派遣及び受援のための手引き」については、検証の結果、受援の目的の明確化、受援の円滑な開始及び受援側の受援体制整備に関わる負担感の軽減等、一定の有用性及び実行可能性が確認できた。課題は、受援または人的資源投入の目的に応じた応援者への依頼業務の例示の必要性等であった。
結論
本研究班で作成した教育教材及び教育方法は市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上に一定の成果をもたらしていた。また、教材活用マニュアルは、自治体が主体的・自立的に研修を企画・実施することを支持することが示唆された。課題は、よりイメージ化を促すための動画を活用した教材作成や、災害対応経験のない自治体の場合にはマニュアルのみで研修を主体的に実施することは難しく、支援者が必要なこと等であった。
「新型コロナウイルス感染症対策における応援派遣及び受援のための手引き」については令和2年度の検証の結果、一定の有用性及び実行可能性が確認できた。

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-10-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202127009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で検討した教育教材を含む教育方法を、市町村保健師を対象としたWEB研修、市町村単位での集合研修、既存の演習教材と組み合わせた集合研修の3タイプの研修で検証した結果、“実務保健師の災害時コンピテンシー等”の研修前後の自己評価比較や研修後のアンケートから、災害時保健活動遂行能力の向上に一定の成果をもたらすことが確認できた。また「新型コロナウイルス感染症対策における応援派遣及び受援のための手引き」は受援の円滑な開始及び受援体制の整備に関わる負担感の軽減等、有用性及び実行可能性を確認できた。
臨床的観点からの成果
本研究で作成したeラーニング教材は、アカウントが30都道府県で作成され、アカウント数は1年前の約3倍の381となり、市町村保健師等の自己学習や研修の事前課題としての活用により研修目標の到達度を高めることや自治体等の主体的な研修実施への寄与が示唆された。また、「市町村保健師の災害時保健活動遂行能力向上に係る教育教材活用のためのマニュアル」は、研修担当保健師等への意見から市町村や保健所等が主体的・自立的に研修を企画・実施・評価するために有用であることが示唆された。
ガイドライン等の開発
1年目に「新型コロナウイルス感染症対策における応援派遣及び受援のための手引き」を作成した。これは令和2年9月15日より厚生労働省のホームページに掲載されている。
また、本手引きを参考に、厚生労働省において「新型コロナウイルス感染症対策における応援派遣及び受援に関するガイドライン」(令和2年9月25日、健健発0925第1号/健感発0925第1号/総財調第25号)が策定された。
2年目に「市町村保健師の災害時保健活動遂行能力の向上に係る教育教材活用のためのマニュアル」を作成した。
その他行政的観点からの成果
厚生労働省が創設した新型コロナウイルス感染症等に係る対応人材バンク(令和3年3月にIHEATへ改称)登録者向けeラーニング教材として、「新型コロナウイルス感染症対策における応援派遣及び受援のための手引き」に基づき“受援側の準備・留意点”を作成し活用されている。また、その中で本手引きを参考資料として提示している。同教材は、日本公衆衛生協会が厚生労働省から委託され実施している「健康危機緊急時対応体制整備事業」における行政支援リーダー研修の教材としても活用されている。
その他のインパクト
「市町村保健師の災害時保健活動遂行能力向上のためのトレーニング教材」というホームページ を作成し、アカウントを作成すれば、本研究で作成したeラーニング教材の視聴、COVID-19対策における応援派遣及び受援の手引き、教育教材活用のためのマニュアルのダウンロード等ができるようにした。このホームページは、1年目に都道府県庁研修担当保健師等を対象とした説明会及び2年目の同対象への教育教材活用のためのマニュアルの郵送時に周知した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
安齋由貴子、春山早苗.(2020).国内外の災害時保健活動に関する教育研修方法に関する文献レビュー.第10回日本公衆衛生看護学会学術集会プログラム・講演集、115.
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
手引き1件(厚生労働省のガイドラインにつながった)、マニュアル1件
その他成果(普及・啓発活動)
8件
講演7件、ホームページ1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
202127009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,500,000円
(2)補助金確定額
4,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,369,879円
人件費・謝金 610,330円
旅費 22,318円
その他 1,597,473円
間接経費 900,000円
合計 4,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-10-26
更新日
-