文献情報
文献番号
202126018A
報告書区分
総括
研究課題名
In silico予測手法の高度化とNew Approach Methodologyの活用に基づく化学物質の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤構築に関する研究
課題番号
21KD2005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
山田 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
- 杉山 圭一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
- 古濱 彩子(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
- 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所)
- 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
- 松本 真理子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
- 安部 賀央里(鈴木 賀央里)(名古屋市立大学 大学院薬学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
25,253,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現在、数多くの化学物質が健康リスク評価未実施のまま流通しており、それら化学物質のリスクの評価と管理は世界的な課題となっている。リスク評価の迅速化へ向けて、in silico予測手法には、高品質のデータセットの使用、モデルの予測精度の更なる向上、予測結果の信頼性を評価する方法等が求められている。また、ヒト健康リスク評価に資するNew Approach Methodology (NAM)は、in vivo毒性の予測の信頼性を向上させると期待されているが、NAMデータを活用した健康リスク評価の行政的受け入れは未だ限られており、事例研究によって、その信頼性や規制上のニーズを満たすことに貢献できるかを概念実証することが求められる。そこで本研究では、Ames変異原性を対象としたQSARの高度化と、in vivo毒性を対象としたNAMの活用に基づく化学物質の統合的ヒト健康リスク評価系の基盤整備を行う。
研究方法
Ames QSARについては、高信頼性のデータセットを開発するため、12140物質の労働安全衛生法安衛法(安衛法)試験結果の再評価を行った。さらに、新しい試験データの充実が求められる化合物群に注目してAmes変異原性試験を実施した。反復投与毒性のリードアクロスについては、ジクロロニトロベンゼンを対象に、代謝予測の信頼性を評価し、毒性に関連する代謝の類似性に基づいてカテゴリーアプローチを適用した。生殖発生毒性については、先行研究で開発した発達毒性に関連するヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)結合阻害の有害性発現経路(AOP)を用いて、三つのケーススタディ研究を実施した。In vitro–in vivo外挿(IVIVE)用の生理学的動力学(PBK)モデルの基盤整備では、海外の先行研究の調査と予測モデルの再現、パラメータ値の推定ツールの精度を検討した。皮膚感作モデルでは、マウス局所リンパ節試験結果であるLLNA EC3値およびヒト皮膚感作性に対して、信頼性の高いデータセットを利用して機械学習モデルの改良を行った。
結果と考察
Ames QSARについては、安衛法試験結果のデータベース精密化を完了させるとともに、Ames陽性の懸念が高いが既存データベースでは陰性の報告に偏っている芳香族N-ニトロソ6化合物の実試験を完了させた。さらに、第2回国際共同研究プロジェクトの参加チームから得られた結果の概要を解析し予測結果の傾向(低感度、高特異度)の考察を行った。代謝予測に基づく反復投与毒性リードアクロスモデルの高度化については、評価対象物質の類似物質の実測代謝を予測できるかを確認することにより、対象物質について信頼性の高い代謝予測、それに基づくグループ化およびリードアクロスが可能であることを実証した。この手法は、健康リスク評価への実装へ向けて実用的なアプローチとなりうると考えられる。AOPに基づく生殖発生毒性の予測系構築では、HDAC結合阻害のAOPを用いてケーススタディを行った。その結果、アッセイ結果を生体内の反応経路に関連付けることができるデータモデルでAOPの枠組みを拡張し、さらなるデータおよび知識をレビューすることにより、AOPを健康リスク評価の改善に使用できる3つのシナリオを検証できた。PBKモデル構築のための基盤整備については、IVIVEに使用するPBKモデルおよびそれらのモデルパラメータ値の予測精度を評価し、その結果、IVIVEの試行への適用は可能と判断された。機械学習による皮膚感作性の予測モデル構築については、既存の文献情報からLLNA EC3値を予測する高性能なin silicoモデルを開発した。さらに、ヒトの皮膚感作性予測モデルにおいて、化学物質の構造情報のみから、感作性の有無を精度良く判別する機械学習モデルが構築できた。
結論
化学物質のヒト健康リスク評価の重要な毒性エンドポイントであるAmes変異原性、反復投与毒性、生殖発生毒性、皮膚感作性を対象に、それぞれに適したin silico予測手法の高度化とNAMの活用に基づく統合的ヒト健康リスク評価系の確立へ向けた研究を遂行した。その一環として信頼性の高いデータセットの収集・整備および試験結果の再評価によるデータベースの精密化を図っている。さらに、既存予測モデルの評価・改良およびNAMを活用した新しいモデルの構築と評価へ向けた事例研究を実施し、適用範囲の拡大へ向けた基盤を整備している。5つの分担研究は、着実に結果を積み重ねており、本研究は順調に推移している。
公開日・更新日
公開日
2022-07-13
更新日
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