文献情報
文献番号
202126013A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質誘導性の甲状腺機能低下症における次世代影響評価に関する総合研究
課題番号
21KD1004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
中西 剛(岐阜薬科大学 薬学部)
研究分担者(所属機関)
- 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 田熊 一敞(大阪大学 大学院 歯学研究科 薬理学教室)
- 松丸 大輔(岐阜薬科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
23,406,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、ヒトでは妊娠期の甲状腺機能低下が児の脳発達に悪影響を与えることが疫学調査により明らかとなった。このような背景を踏まえ、化学物質の毒性評価を行う各関連ガイドライン試験法においても、甲状腺ホルモン関連指標の検討が追加された。しかしこれら関連指標の変動と化学物質の児動物における毒性学的意義、特に発達神経毒性(DNT)については不明な点が数多く取り残されている。化学物質曝露により誘導される妊娠期の甲状腺機能関連指標の変動をリスク評価に生かすためには、DNT評価等の次世代影響を効果的に進めるための新たな技術を導入し、母体の甲状腺機能関連指標の変動と毒性との関係を明確にすることで、学術的基盤を堅固なものにする必要がある。
今年度は、甲状腺機能低下によって誘導されるDNT評価を効果的に進めるために、神経細胞の分化状態を非侵襲的にトレースできることが期待されるSyn-RepマウスのDNT研究における有用性を検証するとともに、Syn-Repマウスを用いて妊娠期に甲状腺機能低下を誘導した際の次世代影響について検討を試みた。また得られたデータを効果的に化学物質リスク管理に繋げるためには、甲状腺機能低下の影響をin vitroで評価できるアッセイ系を構築することが重要である。そこで今年度は、甲状腺機能低下モデルのヒトiPS細胞の作製を行い、DNT陽性対照物質を曝露した際の影響を検証することで、甲状腺機能低下モデル細胞としての有用性を検討した。
今年度は、甲状腺機能低下によって誘導されるDNT評価を効果的に進めるために、神経細胞の分化状態を非侵襲的にトレースできることが期待されるSyn-RepマウスのDNT研究における有用性を検証するとともに、Syn-Repマウスを用いて妊娠期に甲状腺機能低下を誘導した際の次世代影響について検討を試みた。また得られたデータを効果的に化学物質リスク管理に繋げるためには、甲状腺機能低下の影響をin vitroで評価できるアッセイ系を構築することが重要である。そこで今年度は、甲状腺機能低下モデルのヒトiPS細胞の作製を行い、DNT陽性対照物質を曝露した際の影響を検証することで、甲状腺機能低下モデル細胞としての有用性を検討した。
研究方法
SynRepマウスの各臓器におけるレポーター分子(Luc2)の発現は、臓器をホモジナイズして得られた遠心上清を用いて、in vitroルシフェラーゼアッセイにより評価した。
In vivoイメージング解析は、D-Luciferin溶液を腹腔内投与後、IVIS(住商ファーマ)を用いて測定することで行った。
DNT研究におけるSyn-Repマウスの有用性の検証は、バルプロ酸(VPA)500mg/kgを妊娠12.5日に腹腔内投与することで行った。その後の児動物の脳について、in vivoイメージング解析とNissl染色法による組織形態学的解析を行った。また胎生期にVPAに曝露した児動物を対象に、自発行動試験や社会性相互作用試験等の各種行動試験を行った。
抗甲状腺薬を用いた妊娠期甲状腺機能低下の誘導は、妊娠6日からプロピルチオウラシル(PTU)を混餌投与することで行い、その後の児動物の脳について、in vivoイメージング解析を行った。
ヒトiPS細胞における甲状腺ホルモン受容体(THR)αのノックダウンはshRNAを搭載したレンチウイルスベクターを感染させることで行った。作製した細胞について神経細胞分化に与える各種化学物質の影響を検討した。
In vivoイメージング解析は、D-Luciferin溶液を腹腔内投与後、IVIS(住商ファーマ)を用いて測定することで行った。
DNT研究におけるSyn-Repマウスの有用性の検証は、バルプロ酸(VPA)500mg/kgを妊娠12.5日に腹腔内投与することで行った。その後の児動物の脳について、in vivoイメージング解析とNissl染色法による組織形態学的解析を行った。また胎生期にVPAに曝露した児動物を対象に、自発行動試験や社会性相互作用試験等の各種行動試験を行った。
抗甲状腺薬を用いた妊娠期甲状腺機能低下の誘導は、妊娠6日からプロピルチオウラシル(PTU)を混餌投与することで行い、その後の児動物の脳について、in vivoイメージング解析を行った。
ヒトiPS細胞における甲状腺ホルモン受容体(THR)αのノックダウンはshRNAを搭載したレンチウイルスベクターを感染させることで行った。作製した細胞について神経細胞分化に与える各種化学物質の影響を検討した。
結果と考察
今年度は以下のことを明かにした。
Syn-Repマウスのレポーター分子は、脳の高次機能に関わる部位に存在する神経細胞特異的に発現していた。またその発現プロファイルは出生前から発現し始め、出生後4日~1週間でピークを迎えた後に急激に減少し、離乳期以降は低いレベルで定常状態となった。さらにこのレポーター分子の発現はin vivoイメージングにより定量的に検出することが可能であった。以上から、Syn-Repマウスのレポーター分子をトレースすることで、非侵襲的に神経細胞の分化状態を検証できる可能性が示された。
DNT陽性対照物質であるVPAを用い、DNTが誘導される条件で妊娠期のSyn-Repマウスに投与したところ、児動物脳のレポーター分子の発現量が有意に低下した。またレポーター分子の発現量は成熟期脳の神経細胞数とパラレルであったことから、レポーター分子をin vivoイメージングでトレースすることで非侵襲的にDNTを評価できる可能性が示された。
マウスにおける妊娠期甲状腺機能低下にはラットで有効性が確認されているPTUの混餌投与系が望ましい可能性が示唆された。またPTUを妊娠期のSyn-Repマウスに投与して妊娠期甲状腺機能低下を誘導したところ、児動物脳においてレポーター分子の発現上昇が認められ、ヒトで報告されている児のIQ低下を反映したものである可能性が示唆された。
THRαをノックダウンしたヒトiPS細胞は、甲状腺機能低下時における化学物質のDNTを評価できる有効なモデルとなる可能性が示唆された。
Syn-Repマウスのレポーター分子は、脳の高次機能に関わる部位に存在する神経細胞特異的に発現していた。またその発現プロファイルは出生前から発現し始め、出生後4日~1週間でピークを迎えた後に急激に減少し、離乳期以降は低いレベルで定常状態となった。さらにこのレポーター分子の発現はin vivoイメージングにより定量的に検出することが可能であった。以上から、Syn-Repマウスのレポーター分子をトレースすることで、非侵襲的に神経細胞の分化状態を検証できる可能性が示された。
DNT陽性対照物質であるVPAを用い、DNTが誘導される条件で妊娠期のSyn-Repマウスに投与したところ、児動物脳のレポーター分子の発現量が有意に低下した。またレポーター分子の発現量は成熟期脳の神経細胞数とパラレルであったことから、レポーター分子をin vivoイメージングでトレースすることで非侵襲的にDNTを評価できる可能性が示された。
マウスにおける妊娠期甲状腺機能低下にはラットで有効性が確認されているPTUの混餌投与系が望ましい可能性が示唆された。またPTUを妊娠期のSyn-Repマウスに投与して妊娠期甲状腺機能低下を誘導したところ、児動物脳においてレポーター分子の発現上昇が認められ、ヒトで報告されている児のIQ低下を反映したものである可能性が示唆された。
THRαをノックダウンしたヒトiPS細胞は、甲状腺機能低下時における化学物質のDNTを評価できる有効なモデルとなる可能性が示唆された。
結論
Syn-RepマウスおよびヒトiPS細胞を用いたin vitro系を組む合わせることで、妊娠期の甲状腺機能低下時やDNT陽性対照物質による脳神経系構築への影響評価やメカニズム解明を効果的に行うことができる可能性が示された。
公開日・更新日
公開日
2022-07-13
更新日
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