文献情報
文献番号
202126012A
報告書区分
総括
研究課題名
甲状腺に対する化学物質の影響を評価する手法の研究
課題番号
21KD1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
豊田 武士(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター・病理部)
研究分担者(所属機関)
- 小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
- 石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
- 赤根 弘敏(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
13,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
内分泌攪乱物質のヒト健康への影響は広く検討されているが、化学物質による抗甲状腺作用の評価方法については、いまだコンセンサスが得られていない。本研究では、国際機関および諸外国等における、甲状腺ホルモン攪乱化学物質の判定に利用可能な評価手法ならびに評価実績の情報収集を実施するとともに、ラット組織を用いた病理組織学的・免疫組織化学的検索による、化学物質の甲状腺影響のin vivo評価法確立を目指す。
研究方法
6週齢のSDラット(各群雌雄5匹;日本チャールス・リバー)に対し、甲状腺ホルモン動態への影響が想定される計4物質(PTU・MMI・NaPB・NCD)を複数用量で28日間反復経口投与した。各種内分泌器官の臓器重量および血清ホルモン値を測定し、甲状腺・下垂体等について、病理組織学的・免疫組織化学的・分子生物学的検索を実施した。これらの中から、最も鋭敏あるいは毒性学的意義(機序の特定に有用等)を有するパラメータの組み合わせを検索し、化学物質の甲状腺影響のin vivo評価法確立を目指す。また、甲状腺機能阻害物質投与時の遺伝子発現変動を検討するため、PTU・MMIを投与したラット甲状腺および下垂体を用いて、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を実施した。さらに、研究期間を通じて、諸外国・国際機関における甲状腺機能評価に関する情報を収集した。
結果と考察
甲状腺ペルオキシダーゼ阻害剤(PTU・MMI)は、用量依存的な血清T3・T4低下およびTSH増加を引き起こした。一方、病理組織学的検査での甲状腺濾胞上皮肥大および免疫組織化学的検索での甲状腺のT4発現低下は、血清T3・T4・TSH値の有意な変動を伴わない、より低い用量から認められた。また、甲状腺重量および下垂体前葉におけるTSH陽性面積率の増加が、血清T4値の減少と同用量で認められ、これらの指標も抗甲状腺作用の評価に有用と考えられた。さらに、甲状腺・下垂体における網羅的遺伝子発現解析により、新規マーカー候補が多数見出された。欧州毒性学会および米国毒性学会においては、引き続き甲状腺ホルモンの神経発達への影響が話題とされ、化学物質の長期曝露による甲状腺発がんに対する懸念のみならず、母体における甲状腺機能低下が短期間であっても子供の神経発達に影響を及ぼす可能性が注目されていた。
結論
令和3年度の研究結果から、甲状腺の病理組織学的検索およびT4免疫染色が、甲状腺ペルオキシダーゼ阻害剤による抗甲状腺作用の早期検出において鋭敏な指標となり得ることが示唆された。甲状腺・下垂体を用いた網羅的遺伝子発現解析の結果から、多数の新規バイオマーカー候補が見出された。今後、肝臓における甲状腺ホルモン代謝促進等、他の機序に基づく甲状腺機能阻害物質についても検討を継続する予定である。国際学会・機関からの情報収集では、甲状腺機能の調節には多くの因子が関与していることから、遺伝子発現変動を含めた機序解明にはさらなる検討が必要とされていた。また、甲状腺機能撹乱を簡便に評価する方法とともに、神経発達毒性に対する影響をも検討可能な方法が求められていた。
公開日・更新日
公開日
2022-07-13
更新日
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