化学物質のインビトロ神経毒性評価法の開発

文献情報

文献番号
202126003A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質のインビトロ神経毒性評価法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
19KD1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 潤(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
  • 吉田 祥子(豊橋技術科学大学工学部)
  • 吉成 浩一(静岡県立大学 薬学部)
  • 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
19,445,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、発達神経毒性(DNT)は妊娠動物を用いて評価を行っている(OECD 426)。しかし、発達期の曝露と遅発性の神経毒性の関連は明確ではないため、化学物質のDNTを評価する新たな代替法試験の開発が期待される。DNT試験は多数の動物やコストがかかるため、発達過程を模倣できるヒトiPS細胞の利用が期待される。そこで本研究では、主にインビトロとインシリコによる神経毒性評価法の開発を行うとともに、OECDのガイダンス案に協力する。
研究方法
神経系の機能毒性として、iPS細胞由来神経細胞のネットワーク評価を行った。ヒトiPS神経はNeucyte社を用いて、多点電極アレイシステム (Axion BioSystems)に播種した。多点電極アレイシステムによりネットワーク機能を評価した。また、インシリコは分子記述子を利用して化学物質のクラスタリング解析を実施した。さらに、動物データが不足している化合物はin vivo評価を進めた。
結果と考察
OECDのDNT専門家会議で用いている化学物質リストから化学物質を選定し、ヒトiPS神経の神経活動を多点電極アレイシステムで記録して神経毒性の評価を行った。その結果、AcetamipridとCloathinidin(ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト)、AldicarbとCarbaryl(アセチルコリンエステラーゼ阻害)、Fipronil、Dieldrin、Lindane(GABAA受容体アンタゴニスト)、Cypermethrin、Permethrin、Deltamthrin(Naチャネルのopener)は、作用機序ごとに分類できることを明らかにした。
次に、発達神経毒性をリードアクロス手法により予測する手法の構築に向けた条件検討の結果、近傍物質の定義に利用する物質間距離に閾値を設け、また近傍物質数を制限することで、リードアクロス手法による発達神経毒性の評価精度が高くなることが示唆された。
また、in vivo毒性評価を進め、28日反復投与毒性評価の枠組みでDNTが検出できることを示した。
結論
ヒトiPS細胞由来神経細胞のネットワーク活動を多点電極アレイスステムにより記録することにより、DNTが懸念される化合物の評価を行い、作用点に基づいて分類することができ、一定の予測性が得られることが示唆された。また、リードアクロス手法を用いた発達神経毒性予測手法の確立に有用な基礎的知見を得ることができ、精度の高い毒性試験データベースを整備することができた。これらの結果を利用することで、tiered approachによるDNT評価手法の開発がさらに進展することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-04-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-04-28
更新日
2024-05-16

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202126003B
報告書区分
総合
研究課題名
化学物質のインビトロ神経毒性評価法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
19KD1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
  • 斎藤 潤(京都大学 iPS細胞研究所)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
  • 吉田 祥子(豊橋技術科学大学工学部)
  • 吉成 浩一(静岡県立大学薬学部)
  • 鈴木 郁郎(東北工業大学 工学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
小田原あおい氏(若手育成枠。当時、東北工業大学)が企業に就職のため、2年目からは彼女の指導教官である鈴木郁郎先生に変更となった。なお、分担研究者の変更は厚生労働省に相談し、承認済である。

研究報告書(概要版)

研究目的
これまでSystematic Literature Reviewの結果等から、特定の化学物質への胎児期の暴露量と出生児の知能指数の低下との相関関係が報告されていることなどを踏まえて、化学物質の発達神経毒性を正確に評価することは極めて重要な課題である。しかし、現行の神経毒性ガイドライン(OECD TG426)は多くの動物と費用を必要とするため、簡易かつ迅速に検出することができるin vitro試験系の開発の必要性が強く認識されてきている。そこで本研究で我々は、ヒトiPS細胞技術を活用し、インビトロ、インシリコ、インビボの観点からそれぞれ神経毒性評価を行った。
研究方法
ヒトiPS細胞株253G1は、TeSR-E8培地(Stem Cell Technologies)を用いてフィーダーフリー条件で培養した。コーティング剤にはES細胞用のマトリゲル(BD Biosciences)を用いた。ヒトiPS細胞由来神経細胞はNeucyte社を用いた。ヒトiPS細胞から分化させた中枢のGlutamatergic neuronとGABAergic neuronとヒトアストロサイトを7:3:3.5の割合で混合しMEA plateに播種した。多点電極アレイシステムにより、ネットワーク機能を評価した。インシリコは分子記述子を利用して化学物質のクラスタリング解析を実施した。胎児期および発達期のラットに、OECDのDNT専門家会議で用いている化学物質リストの中から化学物質を選定し、単回あるいは反復で投与し、出生動物の神経回路に及ぼす影響、および成長に及ぼす影響を細胞生物学的に検討した。神経毒性の評価を行った。その結果、AcetamipridとCloathinidin(ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト)、AldicarbとCarbaryl(アセチルコリンエステラーゼ阻害)、Fipronil、Dieldrin、Lindane(GABAA受容体アンタゴニスト)、Cypermethrin、Permethrin、Deltamthrin(Naチャネルのopener)は、作用機序ごとに分類できることを明らかにした。また、分子記述子を利用して化学物質のクラスタリング解析を実施した結果、陽性物質及び陰性物質が高い割合で集まるグループを得ることに成功した。化学構造の類似度は高いが、DNTに関しては一致度が低いグループも存在したため、今後、in vitro試験により検証する予定である。さらに、in vivo毒性評価を進め、28日反復投与毒性評価の枠組みでDNTが検出できることを示した。
結果と考察
ヒトiPS細胞はミトコンドリアにより神経分化が誘導されることから、DNTが懸念される化学物質のミトコンドリア毒性を調べた結果、多くの化合物で毒性が検出できることが示唆された。また、ヒトiPS細胞由来神経細胞のネットワーク活動を多点電極アレイ(MEA)システムで記録して神経毒性の評価を行った。その結果、AcetamipridとCloathinidin(ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニスト)、AldicarbとCarbaryl(アセチルコリンエステラーゼ阻害)、Fipronil、Dieldrin、Lindane(GABAA受容体アンタゴニスト)、Cypermethrin、Permethrin、Deltamthrin(Naチャネルのopener)は、作用機序ごとに分類できることを明らかにした。また、分子記述子を利用して化学物質のクラスタリング解析を実施した結果、陽性物質及び陰性物質が高い割合で集まるグループを得ることに成功した。化学構造の類似度は高いが、DNTに関しては一致度が低いグループも存在したため、今後、in vitro試験により検証する予定である。さらに、in vivo毒性評価を進め、28日反復投与毒性評価の枠組みでDNTが検出できることを示した。
結論
ヒトiPS細胞のミトコンドリア毒性によるスクリーニング法を開発した。またヒトiPS細胞由来神経細胞のネットワーク活動を多点電極アレイスステムにより記録することにより、DNTが懸念される化合物の評価を行い、作用点に基づいて分類することができ、一定の予測性が得られることが示唆された。また、リードアクロス手法を用いた発達神経毒性予測手法の確立に有用な基礎的知見を得ることができ、精度の高い毒性試験データベースを整備することができた。これらの結果を利用することで、OECDが進めているようなtiered approachによるDNT評価手法の開発に貢献できることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-04-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202126003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
化学物質の安全性評価は、3Rs原則のもと、New Approach Methodologies (NAM) の活用により今までより予測性が高くヒト健康を確保できる評価法が期待される。発達期の神経毒性はin vivoが中心であるが、ヒト脳の発達や成熟は複雑なプロセスを経ることから、特に神経毒性に関してはメカニズムが不明で適切な評価方法が活用されていない。そこで我々は、ヒトiPS細胞を用いた化合物評価を構造と機能の観点から、それぞれ技術基盤を構築した。
臨床的観点からの成果
近年、自閉症関連スペクトラムの子供が増えているとされ、遺伝的要因と環境的要因に大別される。環境的要因として、これまでSystematic Literature Reviewの結果等から特定の化学物質への胎児期の暴露量と出生児の知能指数の低下との相関関係が報告されている。このことなどを踏まえて、化学物質の発達神経毒性を正確に評価することは極めて重要な課題であり、本研究で、農薬など環境中の化学物質の評価により、子どもの健康の確保が期待される。
ガイドライン等の開発
2023年秋にDNT in vitro testing battery (DNT-IVB) 初期ガイダンスが公開された。現在、17種類のin vitro試験法が記載されており、ヒトiPS細胞やラット神経細胞を用いた多点電極アレイシステムが含まれている。専門家会議で、いつどのように17アッセイを活用するのか、検証や技術移転に向けた各アッセイの陽性対照物質、陰性対照物質の選定、既存のin vivo試験データの詳細な分析、バリデーションなどを議論しており、引き続き、本ガイダンスに貢献する。
その他行政的観点からの成果
DNT-IVBの1つであるヒトiPS神経やラット神経を用いた多点電極アレイシステムは、多施設間の検証や技術移転などが不十分であり、2024年4月のDNT5会議、10月のOECD DNTワークショップ、専門家会議などで議論した。引き続き、評価法の再現性や信頼性、予測性、in vivoとの相関、曝露情報に基づくリスク評価などを検証する必要がある。発達神経毒性のハザードポテンシャルを有する化学物質のスクリーニング法として活用し、将来的に化審法など化学物質のリスク管理に活用されることが期待される。
その他のインパクト
先天異常学会で、子どもの健康に関する環境化学物質のシンポジウムで議論を行った。また、日本動物実験代替法学会でも同様に神経毒性のシンポジウムを企画して、議論した。2024年4月のDNT5会議、10月のOECD DNTワークショップでも日本の取り組みについて講演した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
OECDガイダンス案の作成に協力した.
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamashita, R., Takahashi, Y., Takashima, K., et al.
Induction of cellular senescence as a late effect and BDNF-TrkB signaling-mediated ameliorating effect on disruption of hippocampal neurogenesis after developmental exposure to lead acetate in rats.
Toxicology , 456 , 152782-152782  (2021)
10.1016/j.tox.2021.152782
原著論文2
Takahashi, Y., Yamashita, R., Okano, H., et al.
Aberrant neurogenesis and late onset suppression of synaptic plasticity as well as sustained neuroinflammation in the hippocampal dentate gyrus after developmental exposure to ethanol in rats.
Toxicology , 462 , 152958-152958  (2021)
10.1016/j.tox.2021.152958
原著論文3
Shimizu, S., Maeda, N., Takahashi, Y., et al.
Oral exposure to aluminum chloride for 28 days suppresses neural stem cell proliferation and increases mature granule cells in adult hippocampal neurogenesis of young-adult rats
Journal of Applied Toxicology  (2022)
10.1002/jat.4299
原著論文4
Takahashi, Y., Okano, H., Takashima, K., et al.
Oral exposure to high-dose ethanol for 28 days in rats reduces neural stem cells and immediate nascent neural progenitor cells as well as FOS-expressing newborn granule cells in adult hippocampal neurogenesis
Toxicology Letters  (2022)
10.1016/j.toxlet.2022.02.006.
原著論文5
Yuto Ishibashi, Yasunari Kanda, Ikuro Suzuki et al
Evaluation of neurotoxicity for pesticide-related compounds in human iPS cell-derived neurons using microelectrode array
Toxicol In Vitro , 93 , 105668-  (2023)
10.1016/j.tiv.2023.105668

公開日・更新日

公開日
2023-04-28
更新日
2025-05-28

収支報告書

文献番号
202126003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
21,845,000円
(2)補助金確定額
21,845,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,884,931円
人件費・謝金 8,266,295円
旅費 304,000円
その他 989,774円
間接経費 2,400,000円
合計 21,845,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-05-27
更新日
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