文献情報
文献番号
202126002A
報告書区分
総括
研究課題名
バイタルサインの統合的評価をエンドポイントとした新規急性経口投与毒性試験方法の開発-統計学による半数致死量から診断学による概略の致死量への転換-に関する研究
課題番号
19KD1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部・動物管理室)
研究分担者(所属機関)
- 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
- 種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
- 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
19,135,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
急性毒性試験は時代と共に簡便化され、使用する動物数が削減された。しかし、試験のエンドポイントは動物の「死亡」のままであり、死因、標的臓器等その内容は一切考慮されていない。そのため、ヒトの中毒治療に有用ではないとの批判がある。一方、動物福祉の観点から「死亡」をエンドポイントとすることに強い批判がある。本研究は、Reductionと Refinementによりヒトの安全性確保に主眼を置いた新規急性経口投与毒性試験方法の開発を目的としている。現在、急性毒性において使用されているエンドポイントを「死亡」からより精緻な「複数のバイタルサイン」に置き換え、化学物質の毒性強度の指標を「統計学」を背景とした「半数致死量(LD50)」から「診断学」を基盤にした「概略の致死量」へ転換を図る。具体的には、1匹の動物から多項目に亘る毒性徴候を精緻に測定し、計算科学によって化学物質の急性毒性の強度と毒性標的の合理的判定基準を作成(スコア化)することで、ヒトが急性曝露された際の危険度をより正確に予測する。これにより、毒劇法の指定に関して、中毒事象を含むより現実に想定される事故等に即した規制が可能となる。
研究方法
一般状態、心電、心拍、血圧、体温、呼吸、脳波などのバイタルサイン(VS)を指標とし、動物数の削減とヒトの安全性確保の向上を目指す。VSの測定には、近年、著しい技術革新により小型化された簡便な無線装置を含むITデバイス、新素材センサーを利用する。本研究は、(A)今までの情報や経験から選択したVSの諸項目の、急性毒性指標としての妥当性、再現性、信頼性、を確認する研究、(B)選択したVSの諸項目を正確に、実験動物から測定するためのデバイスの改良の二つの柱からなる。(A)として(1)急性毒性発現における遺伝子発現変動解析、(2)急性毒性試験における行動解析、(B)として、(3)VSセンサーの開発、(4)VSの統合的解析方法の開発、の4課題を分担研究として設定した。
結果と考察
VSセンサーの開発では、Carbon-nanotube yarn(CNT-Y)を用い、従来法に比較して侵襲性の極めて低い手法にて心電波形及び脳波を取得することに成功した。また、ラット用パルスオキシメータの改良を進めた。急性毒性試験における遺伝子発現変動解析では、代謝物によって毒性が発現すると考えられる4,4'-Dihydroxybiphenylのマウス用量設定実験、並びに70mg/kgを最高用量として本実験を実施、臓器のサンプリングを実施した。急性毒性試験における行動解析では、アセフェートとテトロドトキシンを投与したマウスの行動様式と顔面表情について高速ビデオカメラ画像による経時的解析を行い、加えて超音波発声の測定を行った。その結果、活動量低下、痙攣、歩行異常、自発運動の消失、振戦を検出、表情観察では眼瞼腫脹と瞬目不全、半眼、流涙を明確に捉えることに成功した。一方でいずれの群においても超音波発声は確認に至らなかった。VSの統合的解析方法(ソフトウエア)の開発では、主にAutoEncoder(AE)タイプのニューラルネットワークモデルを用いた「概略の致死量」を推定するためのAcute Toxicity Vital Signs Score定義について検討した。開発にはヒトやラット、マウスの心電波形データを用いた。その結果、AEモデルは予測性能において、昨年度検討を行なった畳み込みニューラルネットワーク(CNN: Convolutional Neural Networks)モデルの性能を上回った。現時点では、血圧、体温は商業的に入手可能な装置を使用し研究を遂行しているが、新規経口投与毒性試験の実用化のためには、全てのVSセンサーを統合して実験者の利便性を高め、かつ、廉価な装置として開発する必要がある。
結論
VSセンサーの開発では、CNT-Yを用いて心電波形及び脳波の測定が可能となった。ラット用に開発したパルスオキシメータでは、24時間以上連続して心拍数、SpO2、呼吸数の計測に成功した。現在は商業的に入手可能なVS測定装置と独自開発のセンサーを並行して使用し実験を実施しているが、新規経口投与毒性試験の実用化のためには、これらの機器を統合して実験者の利便性を高め、かつ、廉価な装置として開発する必要がある。VSの一部を自動測定する手法は、医薬品開発の安全性薬理試験で使用されるテレメトリー法が確立されているが、送信機を埋植する手術と術後の回復期間期間、専用ケージおよび受信機を備えた実験室が必要であり急性毒性への導入は難しい。本研究を推進することにより、ヒトの安全性確保、動物福祉の充足、試験費用の低減と期間の短縮による効率化が期待される。
公開日・更新日
公開日
2022-07-13
更新日
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