危険ドラッグ等の乱用薬物の迅速識別に関する分析情報の収集及び危害影響予測のための研究

文献情報

文献番号
202125024A
報告書区分
総括
研究課題名
危険ドラッグ等の乱用薬物の迅速識別に関する分析情報の収集及び危害影響予測のための研究
課題番号
21KC1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部第3室)
研究分担者(所属機関)
  • 田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 緒方 潤(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 石井 祐次(九州大学 大学院薬学研究院)
  • 森 友久(星薬科大学 薬品毒性学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
指定薬物制度に対応し,具体的な化合物や植物を指定薬物として指定する際に考えられる問題点を科学的に解決し,規制化に必要な評価手法及び科学的データを監視指導・麻薬行政に提供することを目的とする.
研究方法
新規流通危険ドラッグについて,国連等の国際公的機関が発信する海外薬物情報を広く収集するとともに,問題となりうる製品を入手し,新規流通化合物の構造決定及び分析用標品の準備,各種分析データの整備,識別法等を検討した.一方,危険ドラッグの中枢神経系への影響を検討するために,in vitro及びin vivoの新規評価法を検討した.また,危険ドラッグのマウス脳メタボロームに及ぼす影響を解析した.さらに,危険ドラッグ市場に流通する植物製品のDNA分析による基原種同定及び活性成分分析を行った.
結果と考察
令和3年度に入手した危険ドラッグ製品から,新規流通10化合物を検出・同定した.また,シート状危険ドラッグ3製品より,LSD類縁体3化合物を単離・同定した.新規流通4-OH-McPT等トリプタミン系危険ドラッグについて,GC-MS測定時に検出される熱反応生成物の構造を解析した.合成オピオイドのニタゼン類14化合物について,マススペクトルだけで明確に識別可能な手法を提示した.LSD類縁体19化合物について,機器分析を用いないオンサイトで検出可能なイムノクロマトグラフィ-を原理とした簡易スクリーニングキットを用いた測定法を検討し,置換基や立体の違いによる検出感度の違いを評価した.危険ドラッグ製品からの検出事例も散見されるPDE-5阻害活性を有するED治療薬及び類縁体102化合物について,超臨界クロマトグラフィー(SFC)-QTOF-MSを用いて,迅速な分離が可能で,プレカーサー及びプロダクトイオンの精密質量値を取得可能なスクリーニング法を開発した.フェンタニルの構造類似体フラニルエチルフェンタニル(新規指定薬物),合成カンナビノイド5F-EDMB–PINACA(新規指定薬物),LSD類縁体のLSZ,isoLAMPA及びisoLSZ(未規制化合物)を合成し,分析用標品として確保した.
一方,危険ドラッグの中枢作用を科学的に評価することを目的として,新規活性評価法を検討した.麻薬メトキセタミン(MXE)の構造類似新規流通危険ドラッグ2化合物と主代謝物2化合物の中枢作用についてマウス新鮮脳幹スライス標本を用いて評価した結果,いずれの化合物もNMDA受容体阻害作用を有し,IC50値はMXEと同程度であった.また,これらの化合物について,NMDA受容体とのドッキングスタディによりコンピューターシュミレーションを行なった結果,すべての化合物のスコアはMXEとほとんど差がなく,in vitroの結果と矛盾しなかった.ヒトiPS細胞由来神経細胞を用いた多点電極アレイシステムにより検討した結果,NMDA受容体阻害作用を有するメトキセタミンのフェノタイプは,ケタミンやフェンシクリジンと類似してシグナルを抑制することが明らかとなった.合成カンナビノイド3化合物を対象として学習・記憶障害と内因性カンナビノイドレベルへの影響を経時的に解析した結果,いずれの化合物も自発運動量の低下作用を示すが,それらの時間依存性は異なり,評価の際は長時間プロトコールの併用が重要であることが示された.フェネチルアミン系幻覚薬2-CI およびカチノン系化合物 4F–オクテドロン投与マウスにおいて,精神刺激薬様の感覚を有するにもかかわらず,自発運動の低下が認められたが,2次元画像データから,ピボット様の行動変化を引き起こすことにより運動低下を引き起こすと考えられた.
植物系危険ドラッグ12製品のDNA分析を行い基原植物の同定を行った結果,5製品がDMT含有植物,2製品がメセンブリン含有植物であった.また,DNA情報を利用したマジックマッシュルーム判別法を開発するために,サイロシビン含有や関連遺伝子の存在が報告されているPanaeolus及びGymnopilusのゲノムDNAからサイロシビン合成系遺伝子4種を取得した.さらに活性成分サイロシビン,サイロシン及びその生合成に係わる13種類のトリプタミン類を分析対象として,LC-QTOFMSにより,関連きのこの菌糸体及び子実体中の定性分析を行った.
結論
指定薬物総数は令和4年3月末時点で2405となった.本研究成果の一部は,令和3年度に5回実施された指定薬物指定の根拠資料の一部として用いられた.また,分析データは監視指導・麻薬対策課長通知として発出されるとともに,国立衛研違法ドラッグ閲覧システムに登録され公開された.本研究結果は危険ドラッグの規制化に有用な情報を提供し,国の監視指導行政に直接貢献するものである.

公開日・更新日

公開日
2022-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202125024Z