サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築

文献情報

文献番号
202125018A
報告書区分
総括
研究課題名
サリドマイド胎芽症患者の健康、生活実態の把握及び支援基盤の構築
課題番号
20KC2005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田辺 晶代(国立研究開発法人国立国際医療研究センター 糖尿病内分泌代謝科)
研究分担者(所属機関)
  • 芳賀 信彦(国立障害者リハビリテーションセンター  自立支援局)
  • 日ノ下 文彦(帝京平成大学 健康医療スポーツ学部看護学科)
  • 宮本 心一(独立行政法人国立病院機構京都医療センター 消化器内科)
  • 長瀬 洋之(帝京大学 医学部 内科学講座 呼吸器・アレルギー学)
  • 田嶋 強(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院)
  • 曽根 英恵(国立国際医療研究センター病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
14,674,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
サリドマイド胎芽症(サ症)者は種々の身体機能的、心理的問題を抱えているが、60歳前後の年齢となり、今後は加齢に伴い罹患する各種疾患や運動機能障害に直面することになる。そのため、より密で個々に対応するテーラーメード支援が必要となることが予想される。R3年度は新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) 蔓延により、支援の手が届きにくく、研究班とサ症者、サ症者同士の連携が取りにくい状況になった。そのような状況を踏まえ、サ症者の健康、生活に役立つ情報を提供することを第一の目的として研究を行った。
研究方法
1. 人間ドック健診の実施
人間ドック健診担当の3施設で、日帰り人間ドック健診を実施した。また、脂質・糖代謝、画像所見に関するデータを解析した。
2. 新型コロナウイルスワクチン接種の注意点に関する説明文の作成
上下肢形成不全者における筋肉注射に関する文献や成書が乏しいことから、研究分担者である日ノ下を中心に、ワクチン接種が先行していた欧米のサ症研究者からの情報を広く得た。さらに研究班員の経験に基づき至適なワクチン接種部位の選定を行った。
3. COVID-19への対処法を掲載した小冊子の改訂
R2年度に発行した小冊子に新規情報の追加、更新作業を行った。
4. 二次的運動器障害に対するマッサージを含むリハビリテーション診療についての検討
令和2年度に日本のサ症者を対象に行ったアンケート調査の集計、解析し、マッサージを含むリハビリテーション診療の有用性、障害を克服する為に必要な人間工学的な技術についての検討を行った。
5. サ症者のこころの健康とQOL (生活の質) に関する研究
各国におけるQOLに関する研究を踏まえ、本邦におけるサ症者の協力を得て痛みやQOLに関するアンケート調査を行った。
結果と考察
1. 人間ドック健診の実施
コロナ禍で医療機関受診が困難であり、受診者は計6名であった。年齢は全例が59歳であった。 BMIが正常でも脂肪肝、脂質異常症や糖代謝異常を合併している例が多く見られた。また、特に女性では大腿骨近位端の骨密度が重度に低下していた。脊椎CTでは頚椎症・前方すべり、二分脊椎・仙尾骨陳旧性骨折をそれぞれ1名に認めた。一方、塊椎や無胆嚢症、側頭骨の形成異常など、従来高頻度発生を指摘されていた項目については、今回検出されなかった。
2. サ症者に対する新型コロナウイルスワクチン接種の注意点に関する説明文の作成
新型コロナウイルスに対するワクチンは筋肉注射を要し、一般的には上腕の上部に接種が行われる。しかしサ症者では上肢形成障害のため接種部位の選定が困難であることが予想された。また、ワクチンの副作用、副反応に対する強い懸念や不安も大きいと考えられた。そこで、サ症者およびワクチン接種を担当する医療者のために、新型コロナウイルスワクチン接種時の注意点に関する説明文書を作成、配布した。
3. COVID-19への対処法を掲載した小冊子の改訂
COVID-19の流行期においては接触感染や飛沫感染を防ぐ生活様式を実行する必要がある。また、ワクチン接種を含めた対策は、ウイルス変異と流行状況に伴い時々刻々と変遷している。そこでマニュアルを改訂し、疫学、治療体系、ワクチンについての考え方をアップデートした改訂版を作成した。特に、1) オミクロン株の疫学、特徴、2) 新規承認薬の情報、3) ワクチンの情報について追記、改訂した。
4. 二次的運動器障害に対するマッサージを含むリハビリテーション診療についての検討
日本のサ症者を対象に行ったアンケート調査の集計、解析結果から、痛みや凝りを訴えるサ症者の約半数が自費でマッサージ等を受け、それにより生活障害が改善したことが明らかになった。また、障害克服の為の人間工学的な技術の検討を行い、その評価法を検討した結果、座位で用いる圧センサーマット、ビデオ画像を用いた動作解析を行うためのソフトウェア、上肢末梢の皮膚温変化を計測するサーモグラフィの準備が必要であることが明らかとなった。
5. サ症者のこころの健康とQOL (生活の質) に関する研究
身体的および精神的QOLは一般ノルムの範囲内であること、41.2%の参加者が何らかの精神疾患を抱えているあるいは高いリスクにあること、身体的な痛みに対する認知的コーピングの一つである破滅思考が精神的QOLの低下に関係していることが示唆された。今後、痛みに対するコーピング、ソーシャル・サポートに加え、レジリエンスとモビリティを測る尺度を加えて調査を行うことを計画している。
結論
COVID-19の流行下で、サ症者の健康、生活の向上に有用な情報の発信を行うことができた。またコロナ禍の影響で本年度も少数例ではあったが、人間ドック健診を実施し、健康維持や治療に繋げるアドバイスを提供することができた。

公開日・更新日

公開日
2022-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2022-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202125018Z