薬剤性肺障害の発現状況の国際比較に関する研究

文献情報

文献番号
200838034A
報告書区分
総括
研究課題名
薬剤性肺障害の発現状況の国際比較に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-019
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
久保 惠嗣(信州大学医学部 内科学第一講座)
研究分担者(所属機関)
  • 吾妻 安良太(日本医科大学内科学講座 呼吸器・感染・腫瘍部門)
  • 河野 修興(広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子内科学)
  • 太田 正穂 (信州大学医学部法医学 )
  • 萩原 弘一(埼玉医科大学呼吸器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
6,375,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤(間質)性肺炎の発生頻度をわが国と欧米、他のアジア諸国とで比較し、多いとすれば遺伝的に規定されているのかを明らかにすることである。さらに、薬剤性肺炎の発症・予後予測マーカーとしての血清KL-6の意義についても検討する。
研究方法
ゲフィチニブを初めとする分子標的薬、抗がん薬、新規抗リウマチ薬につき薬剤(間質)性肺炎の発症頻度を論文、報告書などを検索し検討した。ゲフィチニブによる薬剤性肺炎を発症した症例でのKL-6値の推移を検討した。薬剤性肺炎を発症した9例につきHLAタイピング、薬物代謝酵素の遺伝子多型などを解析した。
結果と考察
今回検索したブレオマイシン、TS-1、イマチニブ、ゲフィチニブ、MTX、レフルノミド、エタネルセプトおよびインフリキシマブのうちで、ブレオマイシン、ゲフィチニブおよびレフルノミドのわが国と欧米での薬剤性肺炎の発生頻度は、各々、10.2% vs 0.01%、5.27% vs 0.45%および1.3% vs 0.018%であり、わが国で有意に高い。ブレオマイシンおよびゲフィチニブによる薬剤性肺炎の発生機序は細胞障害性であり、今後、アレルギー性の機序による薬剤性肺炎での検索が必要であろう。
 ゲフィチニブによる薬剤性肺炎を発症した肺がん6例の内、KL-6の高値の3例は死亡した。ゲフィチニブ治療開始前後で血清KL-6値が上昇してくる症例は,ゲフィチニブによる致死的な薬剤性肺障害を発症している,あるいはゲフィチニブ治療に対して反応性が乏しい可能性が高いと思われた。
 HLA解析の結果、薬剤性肺炎を発症した9例では、コントロール群に比し、HLA-A*0206アリルが有意に増加(55.6% vs 0%, p=0.011)していた。日本人におけるHLA-A*0206アリル頻度は8.99%である。薬物代謝酵素(CYP2C19)の遺伝子多型では、薬剤性肺炎発症群では酵素欠損者はいなかったが、コントロール群では半数でみられた(p=0.033)。日本人では約23%が酵素欠損者である。
結論
本研究で国内外での薬剤性肺炎の発生頻度に関し調査しえた薬剤の内、ゲフィチニブ、ブレオマイシンおよびレフルノミドがわが国で間質性肺炎の発生頻度が有意に高いと言える。
ゲフィチニブ投与肺がん症例でKL-6値の上昇は、ゲフィチニブによる薬剤性肺炎を発症・治療効果を推定する一因子となり得る。
サンプル解析数は少数であったが、薬剤性肺炎発症者にHLAアリルや薬物代謝酵素の遺伝子多型に相関が見られた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-06
更新日
-

文献情報

文献番号
200838034B
報告書区分
総合
研究課題名
薬剤性肺障害の発現状況の国際比較に関する研究
課題番号
H19-医薬・一般-019
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
久保 惠嗣(信州大学医学部 内科学第一講座)
研究分担者(所属機関)
  • 吾妻 安良太(日本医科大学内科学講座 呼吸器・感染・腫瘍部門)
  • 河野修興(広島大学大学院医歯薬学総合研究科分子内科学)
  • 太田正穂 (信州大学医学部法医学部)
  • 萩原弘一(埼玉医科大学呼吸器内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬剤(間質)性肺炎の発生頻度をわが国と欧米、他のアジア諸国とで比較し、多いとすれば遺伝的に規定されているのかを明らかにすることである。さらに、薬剤性肺炎の発症・予後予測マーカーとしての血清KL-6の意義についても検討する。
研究方法
ゲフィチニブを初めとする分子標的薬、抗がん薬、新規抗リウマチ薬につき薬剤(間質)性肺炎の発症頻度を論文、報告書などを検索し検討した。ゲフィチニブによる薬剤性肺炎を発症した症例でのKL-6値の推移を検討した。薬剤性肺炎を発症した9例につきHLAタイピング、薬物代謝酵素の遺伝子多型などを解析した。
結果と考察
今回検索したブレオマイシン、TS-1、イマチニブ、ゲフィチニブ、MTX、レフルノミド、エタネルセプトおよびインフリキシマブのうちで、ブレオマイシン、ゲフィチニブおよびレフルノミドのわが国と欧米での薬剤性肺炎の発生頻度は、各々、10.2% vs 0.01%、5.27% vs 0.45%および1.3% vs 0.018%であり、わが国で有意に高い。ブレオマイシンおよびゲフィチニブによる薬剤性肺炎の発生機序は細胞障害性であり、今後、アレルギー性の機序による薬剤性肺炎での検索が必要であろう。
 ゲフィチニブによる薬剤性肺炎を発症した肺がん6例の内、KL-6の高値の3例は死亡した。ゲフィチニブ治療開始前後で血清KL-6値が上昇してくる症例は,ゲフィチニブによる致死的な薬剤性肺障害を発症している,あるいはゲフィチニブ治療に対して反応性が乏しい可能性が高いと思われた。
 HLA解析の結果、薬剤性肺炎を発症した9例では、コントロール群に比し、HLA-A*0206アリルが有意に増加(55.6% vs 0%, p=0.011)していた。日本人におけるHLA-A*0206アリル頻度は8.99%である。薬物代謝酵素(CYP2C19)の遺伝子多型では、薬剤性肺炎発症群では酵素欠損者はいなかったが、コントロール群では半数でみられた(p=0.033)。日本人では約23%が酵素欠損者である。
結論
本研究で国内外での薬剤性肺炎の発生頻度に関し調査しえた薬剤の内、ゲフィチニブ、ブレオマイシンおよびレフルノミドがわが国で間質性肺炎の発生頻度が有意に高いと言える。
ゲフィチニブ投与肺がん症例でKL-6値の上昇は、ゲフィチニブによる薬剤性肺炎を発症・治療効果を推定する一因子となり得る。
サンプル解析数は少数であったが、薬剤性肺炎発症者にHLAアリルや薬物代謝酵素の遺伝子多型に相関が見られた。

公開日・更新日

公開日
2009-04-06
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200838034C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で国内外での薬剤性肺炎の発生頻度に関し、調査し得た薬剤の内、ゲフィチニブ、ブレオマイシンおよびレフルノミドがわが国で間質性肺炎の発生頻度が有意に高いと言える。また、未だに症例が散見されるゲフィチニブによる薬剤性肺炎・肺障害では、治療開始前後で血清KL-6値が上昇してくる症例は,ゲフィチニブによる致死的な薬剤性肺障害を発症している,あるいはゲフィチニブ治療に対して反応性が乏しい可能性が高い事が明らかになった。
臨床的観点からの成果
 抗がん薬、分子標的薬、新規抗リウマチ薬などの使用の際には、薬剤性肺炎の発症頻度がわが国で高頻度である可能性を常に考え、慎重に経過観察すべきである事を示唆する研究と思われる。また、薬剤性肺炎を発症する可能性がある薬剤の使用の際にはKL-6値の推移が致死的な障害を予知し得る指標となり得る事を示唆する研究と思われる。
ガイドライン等の開発
すでに日本呼吸器学会編集による「薬剤性肺障害の評価、治療についてのガイドライン」が2006年に発行されている。次回の改訂時には本研究での成果を盛り込む必要があろう。
その他行政的観点からの成果
ブレオマイシン、ゲフィチニブおよびレフルノミドの薬剤性肺炎の発生頻度は明らかにわが国で高頻度であった点を考慮すると、海外で上市された薬剤で薬剤性肺炎の頻度が少ないと推定される薬剤に対しても、わが国での使用に関しては臨床治験が必要であろう。特に、抗がん薬、分子標的治療薬、新規抗リウマチ薬などの生物製剤、などでは注意が肝要であろう。
その他のインパクト
数例からの検討ではあるが、薬剤性肺炎発症者にHLAアリル(HLA-A*0206)や薬物代謝酵素(CYP2C19)の遺伝子多型とに相関が見られた事は、今後、さらに例数を重ねて検討すべき重要な課題である。

発表件数

原著論文(和文)
31件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
18件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kanda S,Koizumi T,Kubo K 他
Second-line chemotherapy of platinum compound plus CPT-11 following ADOC chemotherapy in advanced thymic carcinoma: analysis of seven cases.
Anticancer Res , 27 , 3005-3008  (2007)
原著論文2
久保惠嗣
薬剤性肺障害のガイドライン.
成人病と生活習慣病 , 37 , 301-306  (2007)
原著論文3
久保惠嗣
ゲフィチニブ(イレッサⓇ)による薬剤性肺障害の最新情報.
リウマチ科 , 37 , 376-379  (2007)
原著論文4
久保惠嗣
薬剤性肺障害の最近の話題.
呼吸器科 , 12 , 95-101  (2007)
原著論文5
久保惠嗣
医薬品副作用学‐薬剤の安全 使用アップデート‐Ⅲ.副作用各論‐重大な副作用‐肺水腫
日本臨床 , 65 (8) , 420-425  (2007)
原著論文6
久保惠嗣
薬剤性肺障害の診断と治療
治療 , 89 , 3138-3143  (2007)
原著論文7
河野修興,久保惠嗣,井上義一他
【薬剤性肺疾患 診断と治療の進歩】 薬剤性肺炎をめぐって.
日本内科学会雑誌 , 96 , 1168-1186  (2007)
原著論文8
草間由紀子、小泉知展、久保惠嗣 他
非小細胞癌患者に対するゲフィチニブ再投与例の臨床的検討
肺癌  , 47 , 689-694  (2007)
原著論文9
久保惠嗣
薬剤性肺障害、薬剤性肺炎.
工藤翔二(監・編):呼吸器疾患診療マニュアル、日本医師会雑誌、 , 137 (2) , 285-287  (2008)
原著論文10
久保惠嗣
重篤副作用疾患別対応マニュアルの公表を受けて 間質性肺炎と急性肺損傷・急性呼吸窮迫症候群のマニュアルについて.
臨床薬理 , 38 , 99-  (2007)
原著論文11
久保惠嗣
薬剤性肺障害.
別冊日本臨床 新領域別症候群シリーズ No.8 呼吸器症候群(第2版)(Ⅰ)-その他の呼吸器疾患を含めて-、 , 443-447  (2008)
原著論文12
久保惠嗣
薬剤性肺炎.
医学と薬学 , 59 , 724-730  (2008)
原著論文13
久保惠嗣
重篤副作用疾患別対応マニュアルの公表を受けて 間質性肺炎、急性肺損傷・急性呼吸窮迫症候群およびNSAIDsによる喘息発作のマニュアルについて.
臨床薬理 , 39 , 27-28  (2008)
原著論文14
久保惠嗣
薬剤性肺障害の評価・治療についてのガイドライン.
日本呼吸器学会雑誌 , 46 , 9-  (2008)
原著論文15
Droma Y, Ota M, Kubo K 他
Two hypoxia sensor genes and their association with symptoms of acute mountain sickness in Sherpas.
Aviat Space Environ Med. , 79 , 1056-1060  (2008)
原著論文16
Droma Y, Hanaoka M, Kubo K 他
Adaptation to high altitude in sherpas: association with the insertion/deletion polymorphism in the Angiotensin-converting enzyme gene.
Wilderness Environ Med. , 19 , 22-29  (2008)
原著論文17
Hanaoka M, Yu X, Kubo K 他
Leptin and Leptin Receptor Gene Polymorphisms in Obstructive Sleep Apnea Syndrome.
Chest. , 133 , 79-85  (2008)
原著論文18
Hanaoka M, Droma Y,Kubo K 他
Polymorphisms of human vascular endothelial growth factor gene in high-altitude pulmonary oedema susceptible subjects.
Respirology , 14 , 46-52  (2009)
原著論文19
萩原弘一.
臨床ゲノム研究 成果と課題.癌と遺伝学 ゲフィチニブ(イレッサ) 感受性とEGFR遺伝子変異.
医学のあゆみ , 225 , 873-877  (2008)
原著論文20
石川暢久,河野修興.
薬剤性肺障害.
リウマチ科 , 40 , 363-370  (2008)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-