精神活性物質の迅速検出法ならびに有害作用評価法開発に関する研究

文献情報

文献番号
202125011A
報告書区分
総括
研究課題名
精神活性物質の迅速検出法ならびに有害作用評価法開発に関する研究
課題番号
20KC1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 秀依(東京理科大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
11,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では、新規精神活性物質である危険ドラッグの流通により、その乱用に基づく事件事故が多発した。海外においても各国で新しい危険ドラッグが登場し、その流通が拡大しており、健康被害の発生は依然として大きな社会問題となっている。こうした危険ドラッグに関して、迅速かつ包括的な薬物検出および有害作用の評価法の導入が必須となっている。世界的な危険ドラッグ問題としては、合成カンナビノイドに加えて、フェンタニル誘導体の流通が増加している。標準品として合成カンナビノイドおよびフェンタニル誘導体のライブラリーを作製し、有害作用の評価や機器分析による微量分析法について検討することが急務である。本研究では、細胞を利用して、危険ドラッグの検出とその毒性を同時に検出する手法の開発を試みた。また、危険ドラッグの化合物ライブラリーを作製し、機器分析による微量分析法について検討した。
研究方法
本研究では、合成カンナビノイドの検出とその毒性を同時に検出する細胞の作成を試みた。合成カンナビノイド検出細胞の構築に関しては、細胞毒性の発現と密接に関わるアポトーシスの誘導に着目し、アポトーシス誘導に関連性がある活性型カスパーゼ3タンパク質を蛍光発光で検出できる細胞作出を実施した。また、危険ドラッグのライブラリー作製に関する研究では、3-アロイルインドールを基本骨格にもつ合成カンナビノイドおよびフェンタニル誘導体の合成を進め、機器分析による微量分析法について検討した。
結果と考察
合成カンナビノイドの作用点であるカンナビノイドCB1受容体に着目して、カンナビノイドCB1受容体発現細胞にアポトーシス誘導に関連性がある活性型カスパーゼ3タンパク質と蛍光タンパク質を融合させたGFP-Casp3を導入し、CB1-GFP-Casp3細胞を作成した。CB1-GFP-Casp3細胞に合成カンナビノイドであるCP-55,940を添加したところ、30分以内に蛍光値が増加した。また、CP-55,940添加180分後における細胞生存率を測定したところ、著明かつ有意な細胞生存率の減少が認められた。一方、CP-55,940添加による蛍光の増加ならびに細胞生存率の減少は、カンナビノイドCB1受容体拮抗薬であるAM251の前処置により完全に抑制された。したがって、CB1-GFP-Casp3細胞における合成カンナビノイド添加後の蛍光値増加は、CB1受容体を介して発現し、細胞毒性発現の指標になることが明らかになった。本細胞は、合成カンナビノイド添加30分以内に、薬物誘発による細胞毒性の有無が検出できる細胞として有用である。危険ドラッグライブラリー:JWH-018に代表される3-アロイルインドール基本骨格の構造を大きく三つのパートに分け、インドール部、アロイル部、及びN-アルキル部の組み合わせを替え、系統的な新規精神活性物質の合成を行った。3-アロイルインドール誘導体については、256種類の合成を完了した。また、フェンタニル誘導体についても網羅的な化学合成を行い92種の化合物を作製し、化合物ライブラリー化した。化学合成した危険ドラッグ類については、化合物ごとにNMR、IR、MSを測定し、キラルカラムを用いたキラルHPLCの分離条件について精査し、ジアステレオマーの分離・単離及びエナンチオマーの分離・単離を実施した。また、ラマン分光法による網羅的分析を行い、危険ドラッグ類の化合物ライブラリーデータベースとした。
結論
本研究では、カンナビノイドCB1受容体発現細胞にアポトーシス誘導に関連性がある活性型カスパーゼ3タンパク質と蛍光タンパク質を融合させたGFP-Casp3を導入し、CB1-GFP-Casp3細胞を作成した。CB1-GFP-Casp3細胞に合成カンナビノイドを添加すると、初期に蛍光の増加が確認され、その後、細胞生存率が低下することから、本細胞は危険ドラッグが示す細胞毒性の迅速な検出細胞として利用可能であることが示唆された。同様に、カンナビノイドCB1受容体アゴニスト以外の薬物では蛍光値の増加が認められないことから、特に有害作用を示す危険性のある合成カンナビノイドの検出に利用できると考えられる。危険ドラッグライブラリー:合成カンナビノイドにおいては3-アロイルインドールを基本骨格にもつ化合物群について、256種の誘導体を合成した。また、フェンタニル誘導体についても網羅的な化学合成を行い92種の化合物を作製し、化合物ライブラリー化した。化学合成した危険ドラッグ類については、化合物ごとに機器分析情報を整理し、化合物ライブラリーデータベースとした。本研究で合成を進めている合成カンナビノイド、フェンタニルの化合物ライブラリーおよびそのデータベースは、危険ドラッグの法的な規制強化や薬理活性、毒性の検討に役立つと期待される。

公開日・更新日

公開日
2022-05-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202125011Z