規制薬物の分析と鑑別等の手法の開発のための研究

文献情報

文献番号
202125001A
報告書区分
総括
研究課題名
規制薬物の分析と鑑別等の手法の開発のための研究
課題番号
19KC1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部第3室)
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 緒方 潤(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 小林 典裕(神戸薬科大学 生命分析化学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
6,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,麻薬・向精神薬取締法,覚せい剤取締法,大麻取締法及びあへん法などで厳しく規制される薬物及び植物の効果的な鑑別法を薬物取締行政に提示するために実施する.令和4年3月時点で,医薬品医療機器等法下,指定薬物として規制されている薬物は2405種類となった.また,指定薬物から麻薬に規制強化された薬物は69種類にも及ぶ.これら薬物は,所持・使用が禁止されているが,構造類似体が多く存在し,また,ほとんどの薬物において代謝物情報が未知であるため,特に,生体試料中薬物の鑑別は困難を極めている.そこで,この研究では,主に生体試料中規制薬物及び代謝物の迅速で高感度,かつ選択性の高い鑑別法開発に焦点をあて,新規に開発された質量分析装置等を用いた検討を行う.また乱用される植物について,成分分析及び遺伝子分析による鑑別法の開発を行う.以上,本研究は,法規制薬物及び植物について効果的な鑑別を行うための手法を確立することを目的としている.
研究方法
キラル溶媒和剤を用いてNMRによる覚醒剤及び覚醒剤原料の立体識別法を検討した.CBD製品のIPD-TMS誘導体化GC/MS分析法を検討した.qNMR法により大麻草由来CBD製品中のカンナビノイド成分の定量を検討した.大麻草由来の高純度CBD製品より,Δ9-THCを合成し,その副生成物のΔ8-iso-THCの同定を検討した.押収されたΔ8-THC等を豊富に含有する大麻リキッド製品および市販のe-cigarette製品について,GC-FIDで主要なカンナビノイドの定量を行うと共に,Δ8-iso-THCを検出するか否か分析した.カチノン類とオピオイド系化合物について標準品の合成を行なった.大麻草のDNA多型に基づいた鑑別法の確立を目的として,STR共優性マーカーを用い,より詳細にアレルパターンを検討した.特異モノクローナル抗体を活用する法規制植物成分オンサイト分析法ついて,TBS化シロシンに対するマウスモノクローナル抗体を新たに樹立してシロシンをTBS誘導体に変換したのち検出するELISA系を構築し,幻覚性キノコ乾燥粉末中シロシンの検出を検討した.
結果と考察
法規制薬物の鑑別に関する研究では,キラル溶媒和剤を用いてNMRによる覚醒剤及び覚醒剤原料の立体識別法を検討した.その結果,Methamphetamine及びEphedrine, PseudoephedrineにBINOL, TFAE, MTPAを添加することで,立体異性体のNMRピークが分離した.CBDの分解反応におけるGC注入口の影響についてCBD製品のIPD-TMS誘導体化GC/MS分析法を検討した結果,従来の加熱法よりも優れていることが示唆された.CBD製品を用いてIPD-TMS誘導体化GC/MSを検証したところ,HPLCの結果と一致し,CBD異性化によりΔ9-THCの誤判定防止に有効であると考えられた.1H-qNMRにより大麻草由来製品に含有されるCBD,CBG,CBNの定量を行なった結果,粉末製品は高い純度であることがわかった.シャッター製品,ハーブ製品,オイル製品は2種類以上のカンナビノイド,その他の化合物も含有するものでも定量は可能であった.押収されたΔ8-THC等を豊富に含有する大麻リキッド製品および市販のe-cigarette製品について,GC-FIDによりカンナビノイドの定量を行い,Δ8-iso-THCの検出も検討した.その結果,識別マーカーの一つとしてΔ8-iso-THCが有用である可能性が示された.オピオイド系化合物のMetonitazeneとカチノン類のEutylone塩酸塩を分析用標品として合成した. 法規制植物の鑑別に関する研究では,大麻草のDNA多型に基づいた鑑別法の確立を目的として, STR共優性マーカーを用い,アレルパターンを検討した結果,標的とした各遺伝子とは異なる遺伝子の配列が得られた.既報のMarkerでも同様に標的とは異なるDNA断片が検出され,cannabinoid synthasesの配列のみから作成されたMarkerではcannabinoid synthasesのCNVもありケモタイプ判別が難しいと示唆された.特異モノクローナル抗体を活用する法規制植物成分オンサイト分析法ついて,TBS化シロシンに対するマウスモノクローナル抗体を樹立した.本抗体を用いるELISAはシロシンのものより100倍以上高感度であり,ミナミシビレタケに含まれるシロシンを検出可能で,対照試料についてはシロシンが検出されなかったことから,擬陽性が出にくいELISA系が確立できたと考えられた.
結論
本研究は,厚生労働省の薬物取締行政に直接貢献する研究であり,国の乱用薬物対策に即したものである.また今後出現しうる新規の乱用薬物の鑑別についても有用であると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2022-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202125001B
報告書区分
総合
研究課題名
規制薬物の分析と鑑別等の手法の開発のための研究
課題番号
19KC1002
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
田中 理恵(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
研究分担者(所属機関)
  • 花尻 瑠理(木倉 瑠理)(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部第3室)
  • 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 緒方 潤(国立医薬品食品衛生研究所 生薬部)
  • 小林 典裕(神戸薬科大学 生命分析化学研究室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,麻薬・向精神薬取締法,覚せい剤取締法,大麻取締法及びあへん法などで厳しく規制される薬物及び植物の効果的な鑑別法を薬物取締行政に提示するために実施する.令和4年3月時点で,医薬品医療機器等法下,指定薬物として規制されている薬物は2405種類となった.また,指定薬物から麻薬に規制強化された薬物は69種類にも及ぶ.これら薬物は,所持・使用が禁止されているが,構造類似体が多く存在し,また,ほとんどの薬物において代謝物情報が未知であるため,特に,生体試料中薬物の鑑別は困難を極めている.そこで,この研究では,主に生体試料中規制薬物及び代謝物の迅速で高感度,かつ選択性の高い鑑別法開発に焦点をあて,新規に開発された質量分析装置等を用いた検討を行う.また乱用される植物について,成分分析及び遺伝子分析による鑑別法の開発を行う.以上,本研究は,法規制薬物及び植物について効果的な鑑別を行うための手法を確立することを目的としている.
研究方法
フェンタニルと類似化合物を市販のイムノアッセイスクリーニングキットで検討した.誘導体化試薬を用いた大麻成分Δ9-THCの尿中代謝物とそのグルクロン酸抱合体のLC-MSを検討した.押収された大麻リキッド製品と市販のe-cigarette製品をGC-FIDで分析した.国庫帰属品の大麻濃縮物をLC-QTOF-MSで分析した.大麻含有食品中のカンナビノイドの定量をQuEChERS法及びGC-FIDで検討した.CBDの分解反応におけるGC注入口の影響について検討した.qNMR法で大麻草由来製品中のカンナビノイドの定量を検討した.キラル溶媒和剤を用いてNMRによる覚醒剤及び覚醒剤原料の立体識別法を検討した.規制薬物の標準品の合成を行なった.大麻の茎部分をLC-QTOFMSで分析した.DESI-MSイメージングで大麻草各部位を分析した.大麻草についてSTR共優性マーカーを用いアレルパターンを検討した.シロシン及びシロシビンまたはTBS化シロシンに対するマウスモノクローナル抗体を用いたELISA系を構築し,幻覚性キノコ乾燥粉末中シロシンの検出を検討した.
結果と考察
スクリーニングキットでフェンタニルと類似化合物のうち4化合物を5μg/mL以下の濃度で検出できた.THC-COOHのDansyl誘導体はLC-MSによる検出感度が約15倍で,尿中THC-COOH-glucuronideを25 ng/mLの低濃度で測定出来た.大麻草由来の高純度CBD製品よりΔ9-THCを合成した副生成物と,大麻リキッドのGC/MSによる分析結果について多変量解析の結果,明確にクラスター分けできた.国庫帰属品の大麻濃縮物をLC-QTOF-MS分析でΔ9-THCP, CBDP等も検出された.大麻含有食品中のカンナビノイドの定量をQuEChERS法及びGC-FIDで検討した結果,Δ9-THCは0.33~7.14 mg/gでCBC,THCV,CBGが検出された.CBDの分解反応におけるGC注入口の影響の検討で,IPD-TMS誘導体化はΔ9-THCの誤判定防止に有効であった.Δ9-THCの合成副生成物のΔ8-iso-THCを同定し立体構造を推定した.メタンフェタミン,エフェドリン, プソイドエフェドリンにキラル溶媒和剤BINOL等の添加で,立体異性体のNMRピークが分離した.qNMRにより大麻草由来製品に含有されるCBD,CBG,CBNの定量を行なった結果,粉末製品は高い純度とわかり,オイル製品等はその他の化合物が存在しても定量できた.大麻リキッド製品、e-cigarette製品のGC-FID分析で識別マーカーとしてΔ8-iso-THCが有用であった.カチノン類3種,フェンタニル誘導体5種,オピオイド系化合物1種の標準品の合成を行なった.
LC-QTOFMS分析の結果,大麻草茎部分は上の区分の方、上側の表皮にTHCAまたはCBDAが多かった.DESI-MSイメージングで大麻草の主に花穂,苞葉,葉でTHCAに由来するイオンが観察され,腺毛の分布との相関が示唆された.大麻草のSTR共優性マーカーを用いたアレルパターンの検討の結果,標的とした各遺伝子とは異なる遺伝子の配列が得られた.既報のMarkerでも標的とは異なるDNA断片が検出され,cannabinoid synthasesの配列のみから作成されたMarkerではケモタイプ判別が難しいと示唆された.TBS化シロシンに対するマウスモノクローナル抗体を用いるELISAは高感度でミナミシビレタケに含まれるシロシンを検出でき,擬陽性が出にくいと考えられた.
結論
本研究は,厚生労働省の薬物取締行政に直接貢献する研究であり,国の乱用薬物対策に即したものである.また今後出現しうる新規の乱用薬物の鑑別についても有用であると考えられる.

公開日・更新日

公開日
2022-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202125001C

収支報告書

文献番号
202125001Z