文献情報
文献番号
199700555A
報告書区分
総括
研究課題名
心血管作動性因子と成人病及び老化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
寒川 賢治(国立循環器病センター研究所)
研究分担者(所属機関)
- 中尾一和(京都大学医学部)
- 木村定雄(千葉大学医学部)
- 宮本薫(群馬大学生体調節研究所生理活性物質センター)
- 平田恭信(東京大学医学部)
- 南野直人(国立循環器病センター研究所)
- 中里雅光(宮崎医科大学)
- 小室一成(東京大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
32,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
生体機能の老化を考える上で心血管系は最も重要な器官であり、その機能の低下や異常は種々の成人病や老化の進展に深く関わる。近年、心血管作動性因子、特にアンジオテンシン・, Na利尿ペプチド, エンドセリン等のペプチド性因子とその受容体に関する生化学的, 分子生物学的研究が大きく展開し、その全体像が明らかにされつつある。さらに最近我々が発見した新しい心血管作動性因子、アドレノメデュリン(AM)と関連ペプチド(PAMP)も、心疾患, 高血圧や動脈硬化などの血管代謝障害に深く関与すると考えられている。本研究では、上記因子とそれらの受容体による心血管系の機能制御のメカニズムの解明と、そのバランスの乱れや異常による成人病の発症や老化進展について、分子生物学, 発生工学的手法を中心に用いて解明すると共に、診断, 治療への応用を目指したものである。
研究方法
本年度は、新しい心血管作動性因子であるアドレノメデュリン(AM)をはじめとして、アンジオテンシンII, Na利尿ペプチド, エンドセリン, グアニリン及びそれらの受容体について、発現調節, 機能解析, 病態生理的意義の検討を行い、これらの成人病の病態と老化への関与を探った。また、診断及び治療応用にむけての基礎的検討も行った。
結果と考察
1)アドレノメデュリン(AM)の発現調節, 機能解析及び病態生理的意義
AMは生体内の多くの細胞から分泌され、その産生及び機能の異常は成人病と深く関連すると考えられる。培養血管内細胞(EC), 培養繊維芽細胞におけるAMの発現, 産生調節機序及びAM受容体の性質, AMの作用を調べた。その結果、ECはAMを多量に産生, 分泌し、酸化LDLやその構成成分であるリゾフォスファチジルコリンにより産生が亢進した。AMは平滑筋細胞の増殖を抑制するため、ECの産生するAMは内膜肥厚などを抑制している可能性がある。また、繊維芽細胞(Swiss 3T3)もAMを産生しており、炎症性サイトカインやリポポリサッカライド刺激で産生が亢進した。繊維芽細胞はAMにより細胞増殖が促進されることより、創傷や炎症後の組織の繊維化, 治癒などに関連するものと考えられた。
AMは血管壁で多量に産生され、動脈硬化をはじめとする循環器疾患に深く関わり、その遺伝子発現は種々の因子により制御される。ヒト血管内皮細胞(HAEC)におけるAM遺伝子発現調節機序について、AM遺伝子5'隣接領域のプロモーター活性をルシフェラーゼ法により解析した。その結果、転写開始点より-85~-93baseに存在するNF-IL6のコンセンサス配列が重要で、その配列中の3塩基に変異を導入すると活性が42%低下すること、HAECの核蛋白を用いたゲルシフト法にて、NF-IL6コンセンサス配列に特異的に結合するバンドが存在することを明かにした。一方、-33~-68の部位には、7ヶ所にAP-2結合部位のコンセンサス配列が存在し、ゲルシフト・アッセイでもその配列に結合するバンドを確認した。以上より、HAECにおいてAM遺伝子の発現にはRNAポリメラーゼのTATA boxへの結合が重要であり、さらに転写因子としてNF-IL6やAP-2が関与すると考えられる。
2)脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の臨床診断的意義の検討と治療への応用
BNPの成人病及び老化における病態生理的意義と臨床応用への可能性を明らかにするため、BNP過剰発現トランスジェニックマウス(TGM)を作製し、BNPの生物作用を個体レベルで検討した。その結果、TGMでは血中BNPが対照マウスの10~100倍に上昇し、心臓重量の減少と平均血圧の低下が認められ、BNPの持続的な降圧作用が証明された。また、TGMでは椎骨及び長管骨の著しい伸長が認められ、BNPの内軟骨性骨化促進作用が明らかとなった。BNPの循環調節と共に骨軟骨代謝調節作用が明らかとなり、Na利尿ペプチドの循環器疾患(心不全等)及び骨代謝疾患(骨粗症等)に対する治療薬としての可能性が示唆された。
3)心血管系における2種類のエンドセリン受容体発現のスイッチ機構と動脈硬化
高血圧, 動脈硬化に関与する血管平滑筋上の2種のエンドセリン受容体の発現密度がなぜ異なり、また1種の受容体でもなぜ多様な薬理的反応性を示すのかは全く解明されていない。野生型エンドセリンB(ETB)受容体と2種のC末端部欠損型B受容体を発現した培養細胞を用いて脱感作機構を解析し、リン酸化非依存性の機構の存在を明らかにした。
一方、巨大結腸症患者のETB受容体の解析により2種の遺伝子変異を同定し、変異受容体発現細胞の解析より受容体機能が低下または受容体の局在が異常であることを明らかにした。
4)動脈硬化の発症, 進行における内因性血管作動物質の病態生理的役割の検討
動脈硬化の発症, 進行における内皮由来ET・一酸化窒素(NO)系の病態生理的役割を明らかにするため、動脈硬化血管内皮のNO遊離に及ぼすET受容体刺激の影響を検討した。高血圧, 糖尿病, 高脂血症モデルラットの単離灌流腎を用いて、ETB受容体刺激薬であるBQ-3020による血管抵抗とNO遊離速度の変化を測定した。その結果、低濃度のBQ-3020は健常ラットの腎血管を拡張させたが、病態モデルラットでは腎血管を収縮させた。遊離NO量はBQ-3020の濃度依存性に増加したが病態ラットでは減少しており、同時に、ETB受容体は中膜に比し内皮細胞で減少していた。以上より、動硬化の進行にETB受容体刺激の関与が示唆され、ETB受容体も阻害する拮抗薬が有用と考えられる。
5) 心臓リモデリングにおけるアンジオテンシン(AT)IIの役割
AT系の心臓リモデリングにおける役割についてATII1a型受容体欠損マス(KOマウス)を用いて解明した。KOマウスの胸部または腹部大動脈を縮窄し、圧負荷を加えて心肥大の形成について解析した。また新生仔培養心筋細胞を用い、伸展による心肥大形成の分子機序を解析した。その結果、大動脈の縮窄によりKOマウスにおいても野性型マウスと同様にMAPキナーゼ活性の亢進、心肥大時に特徴的な遺伝子の発現、心肥大の形成が認められた。さらに培養心筋細胞を伸展させたところ、両マウスにおいてMAPキナーゼ活性が亢進した。そのMAPキナーゼの亢進に野性型マウスではCキナーゼが、KOマウスではチロシンキナーゼが重要であり、異なるシグナル伝達系により心肥大が形成されると考えられた。以上より、ATIIの関与なしに機械的刺激により心肥大が形成されうることが明らかとなった。
6)水・電解質代謝におけるグアニリンファミリーの基礎的, 臨床的研究
新たな水・NaCl代謝調節ホルモンであるウログアニリンの定量系を開発し、病態及び加齢による血漿濃度の変動を検討した結果、腎不全, 心不全で増加し、これらの重症度に相関していた。経口NaCl負荷により、消化管での生合成亢進と血管内への分泌亢進、尿中への排泄増加を認めた。老齢者の血漿濃度は若年者より軽度高く、経口NaCl負荷による反応性は若年者の2/3に低下していた。ウログアニリンは、水・NaCl代謝調節に関し、腸管-腎臓連関を結びつける内分泌性因子(intestinal natriuretic factor)である可能性がある。
7)コレステロール代謝関連受容体の発現調節に関する研究
SR-BIは、最近新たに見いだされたHDL特異的受容体である。老化に伴い増加する動脈硬化, 心筋梗塞などの疾患には、血管平滑筋細胞へのコレステロールの取り込みが深く関与している。本研究では、SR-BIのラット卵巣からのクローニングを行い、その構造決定及び発現調節の解析を行った。その結果SR-BIは、ラット卵巣ではゴナドトロピン刺激により調節されるステロイド合成関連遺伝子として機能していることが明らかとなった。
AMは生体内の多くの細胞から分泌され、その産生及び機能の異常は成人病と深く関連すると考えられる。培養血管内細胞(EC), 培養繊維芽細胞におけるAMの発現, 産生調節機序及びAM受容体の性質, AMの作用を調べた。その結果、ECはAMを多量に産生, 分泌し、酸化LDLやその構成成分であるリゾフォスファチジルコリンにより産生が亢進した。AMは平滑筋細胞の増殖を抑制するため、ECの産生するAMは内膜肥厚などを抑制している可能性がある。また、繊維芽細胞(Swiss 3T3)もAMを産生しており、炎症性サイトカインやリポポリサッカライド刺激で産生が亢進した。繊維芽細胞はAMにより細胞増殖が促進されることより、創傷や炎症後の組織の繊維化, 治癒などに関連するものと考えられた。
AMは血管壁で多量に産生され、動脈硬化をはじめとする循環器疾患に深く関わり、その遺伝子発現は種々の因子により制御される。ヒト血管内皮細胞(HAEC)におけるAM遺伝子発現調節機序について、AM遺伝子5'隣接領域のプロモーター活性をルシフェラーゼ法により解析した。その結果、転写開始点より-85~-93baseに存在するNF-IL6のコンセンサス配列が重要で、その配列中の3塩基に変異を導入すると活性が42%低下すること、HAECの核蛋白を用いたゲルシフト法にて、NF-IL6コンセンサス配列に特異的に結合するバンドが存在することを明かにした。一方、-33~-68の部位には、7ヶ所にAP-2結合部位のコンセンサス配列が存在し、ゲルシフト・アッセイでもその配列に結合するバンドを確認した。以上より、HAECにおいてAM遺伝子の発現にはRNAポリメラーゼのTATA boxへの結合が重要であり、さらに転写因子としてNF-IL6やAP-2が関与すると考えられる。
2)脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の臨床診断的意義の検討と治療への応用
BNPの成人病及び老化における病態生理的意義と臨床応用への可能性を明らかにするため、BNP過剰発現トランスジェニックマウス(TGM)を作製し、BNPの生物作用を個体レベルで検討した。その結果、TGMでは血中BNPが対照マウスの10~100倍に上昇し、心臓重量の減少と平均血圧の低下が認められ、BNPの持続的な降圧作用が証明された。また、TGMでは椎骨及び長管骨の著しい伸長が認められ、BNPの内軟骨性骨化促進作用が明らかとなった。BNPの循環調節と共に骨軟骨代謝調節作用が明らかとなり、Na利尿ペプチドの循環器疾患(心不全等)及び骨代謝疾患(骨粗症等)に対する治療薬としての可能性が示唆された。
3)心血管系における2種類のエンドセリン受容体発現のスイッチ機構と動脈硬化
高血圧, 動脈硬化に関与する血管平滑筋上の2種のエンドセリン受容体の発現密度がなぜ異なり、また1種の受容体でもなぜ多様な薬理的反応性を示すのかは全く解明されていない。野生型エンドセリンB(ETB)受容体と2種のC末端部欠損型B受容体を発現した培養細胞を用いて脱感作機構を解析し、リン酸化非依存性の機構の存在を明らかにした。
一方、巨大結腸症患者のETB受容体の解析により2種の遺伝子変異を同定し、変異受容体発現細胞の解析より受容体機能が低下または受容体の局在が異常であることを明らかにした。
4)動脈硬化の発症, 進行における内因性血管作動物質の病態生理的役割の検討
動脈硬化の発症, 進行における内皮由来ET・一酸化窒素(NO)系の病態生理的役割を明らかにするため、動脈硬化血管内皮のNO遊離に及ぼすET受容体刺激の影響を検討した。高血圧, 糖尿病, 高脂血症モデルラットの単離灌流腎を用いて、ETB受容体刺激薬であるBQ-3020による血管抵抗とNO遊離速度の変化を測定した。その結果、低濃度のBQ-3020は健常ラットの腎血管を拡張させたが、病態モデルラットでは腎血管を収縮させた。遊離NO量はBQ-3020の濃度依存性に増加したが病態ラットでは減少しており、同時に、ETB受容体は中膜に比し内皮細胞で減少していた。以上より、動硬化の進行にETB受容体刺激の関与が示唆され、ETB受容体も阻害する拮抗薬が有用と考えられる。
5) 心臓リモデリングにおけるアンジオテンシン(AT)IIの役割
AT系の心臓リモデリングにおける役割についてATII1a型受容体欠損マス(KOマウス)を用いて解明した。KOマウスの胸部または腹部大動脈を縮窄し、圧負荷を加えて心肥大の形成について解析した。また新生仔培養心筋細胞を用い、伸展による心肥大形成の分子機序を解析した。その結果、大動脈の縮窄によりKOマウスにおいても野性型マウスと同様にMAPキナーゼ活性の亢進、心肥大時に特徴的な遺伝子の発現、心肥大の形成が認められた。さらに培養心筋細胞を伸展させたところ、両マウスにおいてMAPキナーゼ活性が亢進した。そのMAPキナーゼの亢進に野性型マウスではCキナーゼが、KOマウスではチロシンキナーゼが重要であり、異なるシグナル伝達系により心肥大が形成されると考えられた。以上より、ATIIの関与なしに機械的刺激により心肥大が形成されうることが明らかとなった。
6)水・電解質代謝におけるグアニリンファミリーの基礎的, 臨床的研究
新たな水・NaCl代謝調節ホルモンであるウログアニリンの定量系を開発し、病態及び加齢による血漿濃度の変動を検討した結果、腎不全, 心不全で増加し、これらの重症度に相関していた。経口NaCl負荷により、消化管での生合成亢進と血管内への分泌亢進、尿中への排泄増加を認めた。老齢者の血漿濃度は若年者より軽度高く、経口NaCl負荷による反応性は若年者の2/3に低下していた。ウログアニリンは、水・NaCl代謝調節に関し、腸管-腎臓連関を結びつける内分泌性因子(intestinal natriuretic factor)である可能性がある。
7)コレステロール代謝関連受容体の発現調節に関する研究
SR-BIは、最近新たに見いだされたHDL特異的受容体である。老化に伴い増加する動脈硬化, 心筋梗塞などの疾患には、血管平滑筋細胞へのコレステロールの取り込みが深く関与している。本研究では、SR-BIのラット卵巣からのクローニングを行い、その構造決定及び発現調節の解析を行った。その結果SR-BIは、ラット卵巣ではゴナドトロピン刺激により調節されるステロイド合成関連遺伝子として機能していることが明らかとなった。
結論
心血管作動性ペプチドとその受容体による心血管系の調節, 保護, 再構築などの機能制御機序の解析を行った。また、BNPの骨軟骨代謝調節作用、ウログアニリンの水・電解質代謝における意義及びSR-BIのステロイド合成関連遺伝子として機能を明らかにした。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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