文献情報
文献番号
202124031A
報告書区分
総括
研究課題名
野生鳥獣由来食肉の食中毒発生防止と衛生管理ガイドラインの改良に資する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
21KA1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
前田 健(国立感染症研究所 獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
- 壁谷 英則(日本大学生物資源科学部)
- 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
- 宇根 有美(岡山理科大学獣医学部)
- 杉山 広(国立感染症研究所 寄生動物部)
- 鈴木 康規(北里大学 獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
25,451,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
わが国では捕獲鳥獣の利活用の推進を図るため、鳥獣被害防止特措法の改正(H28年)、食品衛生法の一部改正(H30年)を行ったほか、R2年には「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」を一部改正し、一般衛生管理措置に加え、1) 解体処理施設等でのHACCPの考え方を取り入れた衛生管理、2)取扱者の体調管理と野生鳥獣由来感染症対策、3)屋外で内臓摘出する場合の衛生管理措置、4)野生鳥獣肉の消費時における衛生的取扱等を明示し、これ迄以上に、捕獲・処理・加工・調理・消費の各段階で科学的根拠に基づいた狩猟/捕獲者・処理者・調理従事者・消費者の安全性確保(人獣共通感染症/食中毒のリスク)と衛生管理に関する知見の一層の蓄積が求められている。捕獲頭数増加に伴いH29年からH30年には全国の野生鳥獣肉処理施設が630から682施設に増える中、実態に即した適切な衛生管理の普及と処理技術を有する狩猟者及び関連施設事業者の養成と平準化は喫緊の課題である。本研究では、1)野生鳥獣が保有する食中毒の病因物質並びに血液等を介する病原体の汚染状況と異常個体・臓器の病理学的検索に関する研究、2)HACCPの考え方を取り入れた衛生管理の確立に向け、処理施設での工程毎に健康被害に繋がる恐れのある原因調査と汚染防止・低減に関する研究、3)食品製造や調理段階での食品リスク軽減に関する研究を実施する。
研究方法
本年後は下記の項目を実施した。
①野生鳥獣が保有する病原体(ウイルス)の汚染状況に関する研究:1)野外調査計画、2)E型肝炎ウイルスの実験室内解析法の確立、3)狩猟者および鳥獣肉を取扱者の感染症対策②野生鳥獣が保有する食中毒細菌の汚染状況と薬剤耐性に関する研究③野生鳥獣が保有する病原体(寄生虫)の汚染状況に関する研究④異常個体の病理組織学的検索とカラーアトラスの充実⑤処理施設における解体処理工程での微生物汚染防止に関する研究⑥食品製造や調理段階における食品リスクの軽減に関する研究
①野生鳥獣が保有する病原体(ウイルス)の汚染状況に関する研究:1)野外調査計画、2)E型肝炎ウイルスの実験室内解析法の確立、3)狩猟者および鳥獣肉を取扱者の感染症対策②野生鳥獣が保有する食中毒細菌の汚染状況と薬剤耐性に関する研究③野生鳥獣が保有する病原体(寄生虫)の汚染状況に関する研究④異常個体の病理組織学的検索とカラーアトラスの充実⑤処理施設における解体処理工程での微生物汚染防止に関する研究⑥食品製造や調理段階における食品リスクの軽減に関する研究
結果と考察
本年度は、下記の成果が得られた。1) 回収が容易な糞便中に含まれるHEV遺伝子の検出を開始し、3検体の陽性糞便を検出した。2)細胞馴化したHEVを用いて中和試験法の開発を試みている。3)SFTSVのシカでの調査により、2017年の千葉県での人での発生を予測できていることが判明した。4)COVID-19に対するシカの抗体保有を検査した結果、6県296頭の2020年に捕獲されたシカはすべて抗体陰性であった。5)「野外における内臓摘出」を実施する施設として、大日本猟友会による紹介(岩手県猟友会、岡山県猟友会、宮崎県猟友会)、「令和2年度野生鳥獣肉の衛生管理等に関する実態調査」の回答に基づく施設を新たな研究対象として検討中。6)解体処理工程における各種拭き取り検体の細菌叢解析を実施した。7)旋毛虫T9が寄生した実験感染マウスの筋肉を、ローストビーフの低温調理を模した加熱方法(75℃, 1分)で処理したところ、旋毛虫T9の感染性は消失することを確認した。8)北海道のヒグマと北東北(岩手県)のツキノワグマに、旋毛虫T9の寄生を確認した。9)アナグマ中抜きと体の複数箇所を切除法により採材し、衛生指標菌定量試験に供した。10)野生カモ盲腸内容からのカンピロバクター検出試験を行った。11)HACCP導入に伴い機器導入を行う予定のジビエ食肉加工施設の協力を得て、加熱調理条件等に関する検討を開始した。12)HACCP導入に伴い設備更新した加工施設での衛生モニタリングを開始した。13)イノシシおよびシカの病変カラーアトラス作成を目的として、8つの協力機関から、病変を有する新鮮臓器そのもの81検体の提供を受けて(12月現在)、マクロ写真の収集も進んでいる。14)イノシシにおける肥大心好発地域や、エゾシカにおける脂肪壊死症好発地域などが見出された。15)糞便189サンプルから、黄色ブドウ球菌8株、ESBL疑いのCTX耐性菌20株分離した。ゲノム解析を行った3株のブドウ球菌は、他の家畜とは異なるクローンであり、既報のSE遺伝子を保有しないことが明らかとなった。
結論
1)捕獲シカの新たな活用として、血液を採集し、SFTSを含む感染症のリスク分析に用いることを提案したい。2)国内のシカでのSARS-CoV-2感染は認められなかったが、米国の報告を考慮すると定期的な調査が重要である。3)アナグマ食肉製品の衛生指標菌数分布並びに菌叢構成は事業者間で有意な差異を認め、当該獣肉の取り扱いにあたっての衛生管理状況の把握と改善に向けた検討が今後必要と考えられた。
公開日・更新日
公開日
2022-08-23
更新日
-