文献情報
文献番号
202124018A
報告書区分
総括
研究課題名
既存添加物の品質向上に資する研究
課題番号
20KA1008
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 直樹(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
研究分担者(所属機関)
- 西崎 雄三(国立医薬品食品衛生研究所 食品添加物部)
- 井之上 浩一(立命館大学 薬学部)
- 永津 明人(金城学院大学 薬学部)
- 出水 庸介(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
- 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
- 天倉 吉章(松山大学 薬学部)
- 大槻 崇(日本大学 生物資源科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
11,714,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
既存添加物357品目(枝番込み374品目,但し,香辛料抽出物を1品目(74基原)とする)の内,222品目(枝番品目込み)の成分規格が設定済であるが,残り151品目(枝番込み)と香辛料抽出物1品目(74基原)の成分規格が未設定である(令和2年12月現在).成分規格が未設定である理由として,1.流通確認が取れないもの,2.基原・製法・本質が曖昧なもの,3.有効成分が解明できていないもの,4.現時点の科学技術で妥当な規格試験法が設定できないもの,が挙げられる.すなわち,少なくとも1に該当するものを除き,2~4の問題を解決することが成分規格設定には必要である.このような背景から,自主規格,流通・使用実態,安全性評価状況等の調査,評価手法の基礎検討及び応用研究を通じて,既存添加物の品質向上に資する基礎情報を得ることを目的として本研究を実施した.
研究方法
昨年度に引き続き,(1) 既存添加物の成分規格に関する研究:自主規格,流通・使用実態,安全性評価情報等を調査する.(2) 既存添加物の有効成分の解明:最新の知見及び技術により詳細な成分解析を行い,成分規格の設定に必要な指標成分を探索する.(3) 試験法及び分析法の開発:従来法では試験法が設定困難なものについては,指標成分又は代替物質の合成による定量用標品の供給体制の確立または定量用標品を必要としない相対モル感度(RMS)を用いたSIへのトレーサビリティを確保した定量法,分子生物学的手法を応用した試験法,等を検討する.
結果と考察
(1) 既存添加物の成分規格に関する研究:現時点において,食品添加物公定書に収載されていない品目について自主規格の作成を進めた.また,流通・使用実態を調査した.更に,製品情報及び流通実態の有無により,規格化の可能性が低いものとして55品目をリストアップした.(2, 3)既存添加物の有効成分の解明,試験法及び分析法の開発:昨年度,8品目の成分組成及び有効成分を検討したが,本年度は,アナトー色素,オリゴガラクチュロン酸,ニガヨモギ抽出物,香辛料抽出物(ローズマリー)等を加え12品目16基原について継続して検討した.オリゴガラクチュロン酸については,カルバゾール-硫酸法が現時点では最良な試験法であることを確認した.アナトー色素については,主成分のHPLC分離条件を検討した.ニガヨモギ抽出物については,LC/MS分析等により苦味成分を同定し,本品目の成分規格においてはTLCによる確認試験の設定が妥当であると結論した.また,有効性を指標とする試験法としてDPPHを用いた酸化防止剤の抗酸化能評価法の妥当性評価を行った.qNMRの応用では,香辛料抽出物の主成分が定量可能であることを確認した.RMSを利用した分析法では,酵素処理ナリンジンの成分規格試験への応用を試み,本法が適用可能であると結論した.また,RMSを利用した分析法で装置依存なく精確な定量値が得られるように,PDA検出器の校正物質の設計及び全合成を検討した.また,微生物由来基原の酵素品目の同定法の構築のため,タンパク質アミノ配列を指標としたMALDI-TOF-MSによる同定手法を引き続き検討し,Mascotサーチ以外にNCBIデータベースから取得した配列データを比較し同定精度を検証した.
結論
本研究で得られた結果は,既存添加物の成分規格案作成のための重要な基礎資料となっている.(1) 既存添加物の成分規格に関する研究 では,これまでに自主規格,規格案及び流通・使用実態の調査結果をとりまとめた.次年度以降に,安全性情報を整理し,成分規格作成の実現可能性及び優先順位を整理する予定である.(2, 3) 既存添加物の有効成分の解明,試験法及び分析法の開発 では,(1)の情報を元に,入手可能であった品目について,有効成分が明らかでないものについては成分分析を検討した.これらの基礎情報より成分規格案を作成し,2018から2020の間に新規38品目及び改正18品目を,2021には新規14品目及び改正2品目を食品添加物公定書作成検討会に提案しており,本研究により成分情報が収集でき,試験法が設定可能と判断された品目についてはは概ね順調に成分規格案が作成されている.また,必要とされた新技術については開発・実用化・標準化を自ら行っている.qNMRについてはJIS K0138 (2018)を成立させ,現在ISO化を行っている.RMSについては令和4年度にJAS化を開始し,令和5年にISO化を進める予定である.これらの新技術は我が国の公的な試験法として採用されるだけでなく,米国薬局方(USP)においてもこれらの新技術の導入が検討されている.このように既存添加物に係る研究成果は,その枠を超えてレギュラトリーサイエンスの発展に確実に貢献している.
公開日・更新日
公開日
2022-09-28
更新日
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