非定型BSE等動物プリオン病のヒトへの感染リスクの推定と低減に資する研究

文献情報

文献番号
202124013A
報告書区分
総括
研究課題名
非定型BSE等動物プリオン病のヒトへの感染リスクの推定と低減に資する研究
課題番号
20KA1003
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
堀内 基広(北海道大学 大学院獣医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 新 竜一郎(宮崎大学 医学部 感染症学講座 微生物学分野)
  • 古岡 秀文(帯広畜産大学 畜産学部)
  • 宮澤 光太郎(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門ウイルス・疫学研究領域感染生態ユニット)
  • 萩原 健一(国立感染症研究所 細胞化学部)
  • 飛梅 実(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 小野 文子(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
26,478,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 牛海綿状脳症 (C-BSE) は世界的に公衆衛生上の脅威となったが、飼料規制等の管理措置により発生は収束している。一方、非定型BSEの存在が明らかとなり、非定型BSE (L-BSEとH-BSE) が高齢牛で孤発してC-BSEの起源となる可能性も指摘されている。ヒツジのスクレイピーは、病原体 “プリオン” に多様性があり、ヒトに感染しうるプリオン株の存在は否定できない。鹿科動物の慢性消耗病 (CWD) は、2016年以降、北欧でも発生が報告され、感染拡大が懸念されている。C-BSE発生収束後も、動物プリオン病は発生しており、ヒトの健康危害への懸念が絶えない。プリオン病は致死性の神経変性疾患で治療法がないため、C-BSE再興の防止、並びに非定型BSEを含め動物プリオン病のヒトへの感染リスクの低減を目的とした管理措置は重要である。最近、非定型スクレイピーがC-BSEの起源となることが報告された。従って、動物プリオン病の病原体の性状が変化してヒトへ感染することを想定した対策が必要となる。各種動物プリオン病の高精度検出・性状解析法の整備、各種動物プリオン病のヒトへのリスク、および、ヒトに感染性を有する病原体に変化する可能性に関する知見は、適切な管理措置の根拠となる。そこで本研究では、1) 各種動物プリオン病の高精度検出系の整備、2) 非定型BSE感染ウシおよびサルの病態解析、3) プリオンの異種間伝達によりヒトへの感染リスクを伴うプリオン株の出現、に関する研究を進め、動物プリオン病の病原体がヒトへ感染するリスクの低減に貢献する。
研究方法
1)中枢神経系組織中に存在するRT-QuICの阻害物質を同定するため、脳乳剤のエタノール抽出画分、rMoPrP結合画分、およびその有機溶媒抽出画分におけるRT-QuICの阻害活性を調べた。
2)L-BSE脳内感染カニクイザル脳乳剤をシード、野生型マウス、ウシPrP発現Tgマウス、ヒトPrP発現Tgマウス、ハムスターPrP発現Tgマウスの脳乳剤を基質としてサルで増殖したL-BSEを検出するPMCA法を構築し、L-BSEプリオン経口接種カニクイザルの脳および脾臓からPrPScの検出を行った。
3)非定型BSEを実験接種したカニクイザルの病態解析:H-BSE脳内接種サルおよび経口投与サルの臨床症状の観察、運動機能、および高次脳機能解析、および中枢神経系組織の病理学的および生化学的解析実施して、感染成立の有無を調べた。
4)従来型スクレイピー感染ヒツジ(国内6症例、米国1症例、英国1症例)と実験感染によって得たCH1641-likeスクレイピー感染ヒツジ(1症例)の5または10%脳乳剤(20 µL)をヒトプリオンタンパク質遺伝子過発現マウス (TgHu129MM) の脳に接種し、伝達の有無を、臨床症状、ウエスタンブロットおよび免疫組織化学染色により調べた。
結果と考察
1)中枢神経系組織乳剤中に含まれるRT-QuICの阻害物質として、sphingomyelinが同定された。Sphingomyelinのコリン残基を除去することでRT-QuIC阻害活性が低下したことから、脳乳剤中に含まれるsphingomyelinを除去する前処理は、RT-QuIC反応の改良に有効と思われる。
2)L-BSEが経口ルートでカニクイザルに感染することが確認された。自然発生すると考えらるL-BSEがヒトに経口感染する可能性が示唆されたことから、L-BSEの感染源がフードチェーンに入ることのないよう、現状のBSE対策を維持する必要があると考えられる。
3)H-BSEプリオンの脳内接種および経口接種を行ったカニクイザルの解析から、伝達を示す証拠は得られなかったことから、霊長類を用いた感染実験でも、H-BSEプリオンのヒトへの伝達リスクは、C-BSEプリオンやL-BSEプリオンと比べ、低いことが示唆された。
4)ヒトプリオンタンパク質遺伝子過発現マウス (TgHu129MM) を用いた感染実験から、従来型スクレイピープリオンのヒトへの伝播リスクは極めて小さいと考えられた。
結論
・RT-QuICの阻害物質としてsphingomyelinが同定され、今後RT-QuICの改良としてsphingomyelinの除去法を検討する。
・L-BSEが経口ルートでカニクイザルに感染することが明らかとなった。一方で、H-BSEは、C-BSE、L-BSEに比べ、霊長類への伝達性は低いと考えられた。
・L-BSEプリオンのウシ間における経口伝播の可能性は低いことが示された。
・ヒトプリオンタンパク質遺伝子過発現マウス (TgHu129MM) を用いた感染実験から、従来型スクレイピープリオンのヒトへの伝播リスクは極めて小さいと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-08-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202124013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
30,344,000円
(2)補助金確定額
30,292,000円
差引額 [(1)-(2)]
52,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 18,369,975円
人件費・謝金 1,394,302円
旅費 31,432円
その他 6,630,291円
間接経費 3,866,000円
合計 30,292,000円

備考

備考
分担機関の農業・食品産業技術総合研究機構において、消耗品の一部の納入目途がたたず購入しなかったため、未使用額が発生した。

公開日・更新日

公開日
2023-09-05
更新日
-