文献情報
文献番号
202124010A
報告書区分
総括
研究課題名
腸管粘膜バリア破綻条件下での高分子化合物の経口暴露による毒性影響の解明
課題番号
19KA3004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
松下 幸平(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
- 赤根 弘敏(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
2,748,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
食品中から検出されている高分子化合物の一つであるポリスチレン(PS)粒子については,マイクロスケールのPS粒子を用いたマウスの経口投与による亜急性毒性試験において,腸管や他の主要臓器に毒性影響はみられなかったとの報告があるものの,ナノスケールのPS粒子については詳細に検討した報告はなく,ヒトへの影響を評価するためのデータは国内外ともに乏しいのが現状である.本研究では,健常ラットと腸炎モデルラットに高分子化合物であるPS粒子を反復経口投与した際の生体影響について比較・検証し,ナノ化高分子化合物のリスク評価に資するデータを得ることを目的とした.
研究方法
6週齢の雄性F344ラット計70匹を平均体重が均一となるように各群5匹ずつ14群に割り付けた.飲料水として調整水を投与する健常群及び1%DSSの間欠投与で大腸炎を誘発させる大腸炎群を設定した.DSS投与群にはDSSを1%の濃度で1週間飲料水に混じて自由摂取させ,次の1週間は調整水を摂取させるサイクルを3回繰り返した.2週目からは30 nm及び300 nmのPSをそれぞれ40, 200 及び1000 mg/kg体重/日の用量で,プラスチック製ディスポーザブル経口ゾンデを用いて10 ml/kg体重の容量で28日間強制経口投与した.対照群には溶媒の蒸留水を等量経口投与した.投与量は直近の体重に基づいて算出した.投与期間中は,一般状態,体重及び飲水量を週1回測定した.実験開始8週目(PS投与の26日目又は27日目)に,全動物について尿検査を実施した.実験開始8週後(PS投与28日後)半日の絶食後イソフルラン深麻酔下にて腹部大動静脈より採血後,全臓器を肉眼観察後摘出し,大腸は内腔にホルマリンを注入して進展させて10%中性緩衝ホルマリンにて固定し,全長の標本作製を行った.血液学的検査,血液生化学検査,主要臓器の臓器重量測定及び全臓器の病理組織学的検査を実施した.また,調整水群の対照群と30 nm及び300 nm PSの1000 mg/kg体重/日投与群各群2匹について,ホルマリン固定臓器から空腸,回腸,肝臓の凍結切片を作製し,被験物質の観察を行った.
結果と考察
投与時のPSは,想定通りにナノサイズ及びマイクロサイズに分散していることが確認され,反復経口投与試験として適切と考えられた.
経過中死亡動物は見られず,体重,飲水量,摂餌量に有意な変化は見られなかった.一般状態において,DSS水群では調整水群よりも軟便及び下痢が頻回観察され,出血性下痢も一部の動物に認められたものの,PS投与による増強は認めず,行動異常も見られなかった.尿検査,血液学的検査,血清生化学検査及び臓器重量においても,PS投与による影響は認めなかった.病理組織学的検査では,DSS水投与群では,盲腸,結腸及び直腸に腸炎所見が認められ,意図した大腸炎が誘導されていることが確認された.DSS投与群の腸間膜リンパ節に軽微〜軽度のマクロファージの空胞化が認められたが,PS投与による増強はみられなかった.その他の変化はF344ラットの自然発生性病変として知られる所見であり,用量相関性もないため,偶発性の変化と考えられた.凍結標本の観察から,PSは腸管内腔に,透明で一部に約2 µmまでの凝集を示す微細顆粒状物質として認識されたものの,組織内での局在は確認されなかった.また,全身諸臓器の何れにおいてもPS投与に関連した異物反応は認めなかった.
経過中死亡動物は見られず,体重,飲水量,摂餌量に有意な変化は見られなかった.一般状態において,DSS水群では調整水群よりも軟便及び下痢が頻回観察され,出血性下痢も一部の動物に認められたものの,PS投与による増強は認めず,行動異常も見られなかった.尿検査,血液学的検査,血清生化学検査及び臓器重量においても,PS投与による影響は認めなかった.病理組織学的検査では,DSS水投与群では,盲腸,結腸及び直腸に腸炎所見が認められ,意図した大腸炎が誘導されていることが確認された.DSS投与群の腸間膜リンパ節に軽微〜軽度のマクロファージの空胞化が認められたが,PS投与による増強はみられなかった.その他の変化はF344ラットの自然発生性病変として知られる所見であり,用量相関性もないため,偶発性の変化と考えられた.凍結標本の観察から,PSは腸管内腔に,透明で一部に約2 µmまでの凝集を示す微細顆粒状物質として認識されたものの,組織内での局在は確認されなかった.また,全身諸臓器の何れにおいてもPS投与に関連した異物反応は認めなかった.
結論
健常動物のみならず,大腸炎存在下においても,粒径30 nm及び300 nm のPSそのものは,1000 mg/kg体重/日までの28日間反復経口暴露による毒性影響はないと考えられた.
公開日・更新日
公開日
2022-09-30
更新日
-