薬物体内動態支配因子のファーマコゲノミクスに基づく医薬品開発評価

文献情報

文献番号
200838001A
報告書区分
総括
研究課題名
薬物体内動態支配因子のファーマコゲノミクスに基づく医薬品開発評価
課題番号
H18-医薬・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 洋史(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 樋坂 章博(東京大学 医学部附属病院)
  • 北山 丈二(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、個別化医療への応用の期待されるP450代謝酵素(CYP)について、ファーマコゲノミクス(PGx)あるいは薬物間相互作用による動態変化の予測に必要な情報を効率的に収集し、最終的に薬効・安全性の変化を予測して適正使用に貢献することを目的とする。平成20年度は、薬物動態(PK)の変化を薬効・安全性の評価に読み替える系統的な方法論の確立を目的とした。また、より広範な薬剤に予測を適用するために、精度を落とさずにin vitroの情報を利用する方法論を開発した。
研究方法
薬物動態の予測を実用的に行うには、方法が単純でしかも予測精度が高い必要がある。本研究で我々は薬物動態の理論を再検討し、予測に不可欠な最低限度の情報を、①遺伝子変異あるいは併用薬の影響によるCYPの活性変化と②基質薬の各CYP分子種への代謝寄与率の2つに絞った。前年度まではこれらの情報を臨床試験の成績から得て精度の良い動態(PK)変化の予測に成功したが、今年度は、第一に変化の予測が重要なのはPKではなく薬効・安全性であることから、PKの変化をランク分けして、薬効・安全性の変化に読み替える新しいシステム、PISCSを確立した。また第二に、ミクロソームを使うin vitroの代謝実験を、PKの線形を仮定しやすい低濃度で行い、PGxや相互作用のPKの変化の精度良い予測が可能かを検討した。
結果と考察
基質の代謝寄与率(CR)は、肝ミクロソームを用いるin vitro実験から精度良く予測することが可能であり、特に発現系酵素を利用するRAF法とLC-MS/MSを利用した高感度分析法と組み合せることで、精度と評価の効率の優れた代謝寄与率の評価法を確立した。また、さらに多くの薬剤についてCYPの代謝寄与に関する情報を収集し、PGxや相互作用によるPK変化が大きいと予想される薬剤を選択し、論文発表することで問題提起に努めた。PISCSの利用で特に相互作用については合理的な注意喚起が可能になると考えられ、逆に現在の添付文書の多くの矛盾点が見出された。
結論
本研究で構築した方法論を積極的に用いることで、市場の非常に多くの薬を今後PGxや薬物間相互作用によるPK変化の予測対象にできる展望が開けた。また、この方法論を新薬開発に利用することで、合理的に臨床試験を実施することで候補品のより効率的な選択が可能になると考えられた。PISCSについては、PGxの実施や相互作用の注意喚起について重要な合理的基準の1つになると期待された。

公開日・更新日

公開日
2009-04-20
更新日
-

文献情報

文献番号
200838001B
報告書区分
総合
研究課題名
薬物体内動態支配因子のファーマコゲノミクスに基づく医薬品開発評価
課題番号
H18-医薬・一般-001
研究年度
平成20(2008)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 洋史(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 樋坂 章博(東京大学 医学部附属病院)
  • 北山 丈二(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成18(2006)年度
研究終了予定年度
平成20(2008)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
薬の効果/副作用に個人差が著しい原因の1つとして、薬物代謝能力の個人差が指摘されている。実際に代謝酵素の遺伝子に変異のある場合や、酵素の活性を著しく変動させる他薬を併用する場合には、基質薬の薬物動態(PK)は血中濃度AUCとして数倍から十数倍の大きな変動を示すことが知られている。本研究はこのような変化が、どのような薬剤に、どのような遺伝子変異あるいは併用薬により生ずるか、またそれが臨床上どの程度問題かを網羅的に予測する方法論を確立することを目的とした。
研究方法
基質薬のPK変化を決定する最も重要なパラメータとして、経口クリアランスに対する当該代謝経路の寄与率(CR)に注目した。CRをin vivoおよびin vitroの実験から精度良く求める方法を考察した。CRとCYP活性変動の2つのパラメータから、遺伝子変異あるいは相互作用によるPK変化の網羅的予測を試みた。代謝酵素の遺伝子変異としては、東洋人に特異的なCYP2D6*10に特に注目し、複数の薬剤でin vitro実験により代謝速度を野生型酵素と比較した。以上の研究で予測されるPKの変化をランク分けすることで、薬効・安全性の変化へと系統的に読み替える新しいシステムPISCSを考案した。
結果と考察
CRは臨床試験のPK変化あるいはin vitroミクロソーム代謝実験から良好に評価が可能であった。CRとCYPの遺伝子変異あるいは併用薬のCYP活性の阻害率あるいは誘導率をパラメータ化することで、数百に及ぶ薬物間相互作用等によるPK変化が良好に予測できることが示された。CYP2D6*10は9個の基質薬について73~91%もの大幅な活性減少が確認され、この変異が東洋人でβ遮断薬や抗てんかん薬の効果の個人差の1つの原因になっていると考えられた。PISCSにより遺伝子変異や相互作用による用量調節の必要性が、臨床的重要性から合理的に判定可能となり、一方で現在の添付文書の相互作用の注意喚起の不備が明らかになった。
結論
本研究により、市場の非常に多くの薬について、今後CRを評価することで、ファーマコゲノミクスや薬物間相互作用によるPK変化の精度の良い予測を可能とする展望が開けた。また、この方法論を新薬開発に利用することで、CYPの遺伝子変異、あるいは薬物間相互作用によるPK変化を適切に予測し、合理的に臨床試験を実施して候補品を適切に評価し選択するとともに、臨床で適正使用のために有用な情報の提供が可能になると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2010-05-24
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200838001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究により、新薬および市場の非常に多くの薬について、代謝寄与率を評価することで、代謝酵素の遺伝子変異あるいは薬物間相互作用による、薬物動態/薬効/安全性の変化の精度の良い予測を網羅的に可能とする展望が開けた。上記の予測に必要最小限の情報の本質が明確となった。具体的には、in vitro実験としては線形条件下での代謝寄与率の評価、in vivo実験としては遺伝子変異あるいは典型的阻害剤を併用時の血中濃度変化の評価が重要である。
臨床的観点からの成果
この方法論を新薬開発に利用することで、早期にファーマコゲノミクスを考慮する必要性が判断でき、また相互作用について合理的に臨床試験を計画できる。また、臨床現場においても、これまでの添付文書中の注意喚起等に比べ、遺伝子変異や相互作用による薬物動態変化に対してより統一的、網羅的な情報が提供可能となるとともに、その臨床的重要性を迅速に判断できる枠組みが提供された。
ガイドライン等の開発
統一的、網羅的に薬物間相互作用の注意喚起を図るシステム PISCS(Pharamcokinetic Interaction Significance Classification System)を提案し、公表した。
その他行政的観点からの成果
現在は成果が発表されつつある段階であり、まだ具体的に施策に反映された成果はない。
その他のインパクト
薬剤師対象の雑誌 PharmaTribune 2009年3月号に特集記事として「しくみから理解する薬物間相互作用」を掲載するとともに、代謝酵素の遺伝子変異、あるいは薬物間相互作用による顕著な動態変化関係する代表的な薬物代謝酵素の基質薬、阻害薬、誘導薬の一覧表をA0版の付録ポスターとして発表した(杉山雄一 監修、樋坂章博、大野能之, 鈴木洋史, 前田和哉 共著)。本誌は日本全国の全ての薬局、病院薬局、薬学系大学、製薬会社に配布された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
日本薬学会第128および129年会におけるハイライトポスター、第17回日本医療薬学会における優秀発表賞受賞を含む
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohno Y, Hisaka A, Suzuki H
General framework for the prediction of an AUC increase by CYP3A4-mediated oral drug interactions based on drug interactions with standard drugs
Clinical Pharmacokinetics , 46 (8) , 681-696  (2007)
原著論文2
Ohno Y, Hisaka A, Ueno M, et al
General framework for the prediction of oral drug interactions caused by CYP3A4 induction from in vivo information
Clinical Pharmacokinetics , 47 (10) , 669-680  (2008)
原著論文3
Hisaka A, Kusama M, Ohno Y, et al
A proposal for a pharmacokinetic interaction significance classification system (PISCS) based on predicted drug exposure changes and its potential application to alert classifications in product labeling
Clinical Pharmacokinetics , 48  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-