文献情報
文献番号
202124005A
報告書区分
総括
研究課題名
畜産食品の生物学的ハザードとそのリスクを低減するための研究
課題番号
19KA1005
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 貴正(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
- 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
- 工藤 由起子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
- 岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
12,631,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国における鶏肉製品のカンピロバクターやサルモネラ汚染率は依然として高く、これら細菌による食中毒の原因食品として推定されることも多い。このような状況から、更なる汚染防止策の構築・推進に向け、リスクアナリシスの考え方に基づいた微生物規格基準の設定等に資する知見を進展・集積させる必要がある。そこで、当該製品を対象とした微生物の定量的汚染実態データの集積を図ることを目的として、鶏肉製品におけるカンピロバクター等の定量的汚染実態に関する研究、畜産食品における微生物迅速試験法に関する研究、鶏肉加工製品におけるサルモネラ等の汚染実態に関する研究、畜産食品の加工工程におけるリスク低減手法とその効果に関する研究を行った。
研究方法
鶏肉製品におけるカンピロバクター等の定量的汚染実態に関する研究では、定量的データの信頼性を高めるために鶏肉製品のカンピロバクター汚染実態調査を追加実施するとともに、当該分担研究で分離されたCampylobacter jejuni株について、フルゲノムシークエンスを用いた遺伝子学的系統解析を行った。畜産食品における微生物迅速試験法に関する研究では、鶏皮を検体としてISO法に準じたmCCDA法と迅速定量試験法の候補としたTEMPO法のカンピロバクター定量試験における同等性を評価するとともに、食鳥処理場包装品を対象としたカンピロバクター定量的汚染実態調査を実施した。鶏肉加工製品におけるサルモネラ等の汚染実態に関する研究では、最もよく分離されたSalmonella Schwarzengrundについて遺伝子学的系統解析を行った。畜産食品の加工工程におけるリスク低減手法とその効果に関する研究では、高圧処理(500MPaで10分間)後に加熱調理(200℃で5分間)した場合の細菌低減効果を評価した。
結果と考察
3年間で調査した鶏モモ肉製品510検体のうち254検体(50%)からカンピロバクターが検出され、平均値は1.2 ± 1.0 log10 CFU/g、最大菌数は4.3 log10 CFU/gとなり、欧州の食鳥処理場で達成目標値として設定される3.0 log10 CFU/gを超過した検体は43検体(8%)であった。対象菌の検出成績の変動要因と推定された季節性については秋季>夏季>春季の順に菌数が高い状況であったほか、75日齢以上で処理された成鶏、地鶏由来検体は、75日齢未満で処理された肉用若鳥(ブロイラー、銘柄鶏)由来検体に比べて有意に低い菌数を示した。Campylobacter jejuni計111株はMLSTにより63型に分類され、遺伝子型と日齢との間に関連性が認められた。迅速定量試験法の評価については、鶏皮を検体とした場合、TEMPO法はmCCDA法と高い相関性(R2=0.96)を示す結果が得られ、TEMPO法はISO法に準じたmCCDA法と同等の性能を有することが確認された。また、定量的汚染実態調査において、鶏肉製品のカンピロバクター検出率には上述の季節性以外に西日本>東日本という地域性が認められ、また、汚染菌数は食鳥処理場間で異なる傾向が認められた。つみれや肉団子等の鶏肉加工製品から分離された株は、国産鶏肉由来株と遺伝子学的に同一であり、製品の汚染源は鶏肉であると推定された。焼き鳥モモ串を検体として、高圧処理後に加熱調理をした場合、色調に大きな変化を生じさせることなく、サルモネラ属菌及びカンピロバクターは定性試験法で検出下限値未満となり、加熱調理前に高圧処理することが両菌を原因とする食中毒の発生リスクの低減に効果があると考えられた
結論
国産鶏肉のカンピロバクター汚染菌数は総じて低いものの、季節、鶏種、地域、食鳥処理場の要因によって差異が認められ、一部の製品では高度汚染も認められた。今後、高度汚染の原因究明を通じ、国産鶏肉における本菌汚染実態の詳細な把握と制御策構築に関わる知見の集積が期待される。迅速定量試験法では、今回ISO法に準じたmCCDA法と同等性が確認された定量試験法(TEMPO法)を応用することで畜産食品における食中毒菌の汚染実態の定量的把握を加速化させることが期待される。サルモネラについては、鶏肉加工製品中のサルモネラ属菌汚染状況が明らかとなり、今後もリスク管理策の構築に向けた基礎的知見の集積が期待される。殺菌技術とその効果については、焼き鳥等の多様な鶏肉料理の特性・特徴に応じた低減技術の選択が可能になると期待される。
公開日・更新日
公開日
2022-07-19
更新日
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