日本国内流通食品に検出される新興カビ毒の安全性確保に関する研究

文献情報

文献番号
202124004A
報告書区分
総括
研究課題名
日本国内流通食品に検出される新興カビ毒の安全性確保に関する研究
課題番号
19KA1004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
吉成 知也(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部第四室)
研究分担者(所属機関)
  • 小西 良子(東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,688,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カビ毒はカビが感染した農作物中に生産され、カビ毒に汚染された食品により、急性的な中毒症状や慢性的な摂取によるガンの発症などが引き起こされている。これまで厚生労働科学研究において、2001年より様々なカビ毒について日本に流通する食品における汚染実態や毒性に関する研究を行い、カビ毒に汚染された食品の摂取の低減を目的とした施策策定の科学的根拠となるデータを取得し、食の安全性確保に貢献してきた。本研究事業では、3種のタイプAトリコテセン系カビ毒、ステリグマトシスチン(STC)、エンニアチン類(ENs)及びビューベリシン(BEA)を研究対象とした。
研究方法
①汚染実態調査では、タイプAトリコテセン系化合物については7食品目計181検体の調査を、BEAとENsについては9食品目216検体の調査を、STCについては8食品目199検体の調査を行った。②毒性試験では、マウスにおけるエンニアチンB(ENB)の薬物動態試験と肝臓の遺伝子発現解析を実施した。③簡易分析法の開発では、STCのELISA系のさらなる高感度化と標準曲線の安定化を目標とし、系の改良を行った。④複合汚染のリスク解明については、カビ毒汚染レベルの高いライ麦からその原因菌の探索を行った。
結果と考察
①汚染実態調査:タイプAトリコテセン系化合物3種の合算値について、平均濃度はきな粉が最も高く、次いでハト麦加工品、ライ麦粉、そば粉であった。BEAについては、きな粉の平均濃度が最も高く、次いでハト麦加工品、雑穀、ゴマであった。ENBについては、ライ麦粉の平均濃度が最も高く、次いで小麦粉(国産)であり、その他の食品目より高い傾向にあった。STCの平均濃度については、玄米が最も高く、次いでそば(乾麺)であった。②ENBの代謝試験:マウスにおける高い経口バイオアベイラビリティ(85.6%)が確認された。また、肝臓の遺伝子発現解析ではシトクロームP450をコードした遺伝子を含む、多くの代謝関連遺伝子の発現がENBの経口投与によって増加することが明らかになった。③STCの簡易測定法の開発:標準品及び試料を100%メタノールで溶解し保存しておくことでELISAにアプライ前の析出を防止することができ、安定した標準曲線と汚染実態に則した50% 阻害濃度を得ることができた。また、実態調査の試料は多機能カラムによる前処理を行うことでLC-MS/MSの測定値と相関性の高い値を得ることができた。④複合汚染のリスク解明:タイプAトリコテセン系化合物のT-2トキシン、HT-2トキシン及び4,15-DASの複合汚染の原因菌としては、海外産ハト麦においてはF. incarnatum、国内産ハト麦及びライ麦においてはF. sporotrichioides及びF. armeniacumが、それぞれ汚染の原因菌となっていた可能性が示された。
結論
実態調査に関して、タイプAトリコテセン系化合物については、小麦粉(国産)、ハト麦加工品、ライ麦粉、きな粉及びそば粉における汚染レベルが高い傾向にあった。BEAはハト麦加工品、ENsは小麦粉とライ麦粉で汚染が主に認められ、検出される食品目が異なっていた。特に北海道産のライ麦粉においてmg/kgオーダーでENBが検出される検体が認められ、ENsの高汚染が起きる環境が日本に存在することが明らかになった。STCについては、玄米とそば粉において、他の食品目より高い汚染が認められた。日本人における各食品目の摂取量を踏まえ、3年間で得られた小麦粉の汚染調査結果を用いて、日本人におけるタイプAトリコテセン化合物、ENs及びSTCのばく露量を推定することとした。代謝試験の結果、マウスでは経口投与によりENBが十分に吸収されることが明らかになったことから、ENBの毒性が当初の想定と比較して低い可能性があり、ENBは経口投与により吸収されるものの、一般毒性は今回用いた用量より高い用量で出現するものと考えられた。STCの簡易測定法に関して、本年度改良したELISA法は、測定可能範囲は0.1~10.0 ng/mLであり、IC50は1.2 ng/mLであった。玄米、小麦粉とも2.0 µg/kg以上では90%以上の回収率を示し、汚染玄米を用いた測定でもLC-MS/MSとの相関性が取れていることが明らかになった。このことから、国産玄米および小麦粉のSTC汚染食品のスクリーニングには充分に対応できる方法であると考えられた。ライ麦、ハト麦におけるカビ毒の複合汚染のリスク因子については、生産地によって、Aspergillusトキシン及びFusariumトキシンの汚染状況、及び汚染原因菌の種類に偏りが存在することが明らかとなった。今後、これらの偏りが生じる原因とメカニズムを解明し、汚染を軽減させるための研究を実施する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2022-10-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-10-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202124004B
報告書区分
総合
研究課題名
日本国内流通食品に検出される新興カビ毒の安全性確保に関する研究
課題番号
19KA1004
研究年度
令和3(2021)年度
研究代表者(所属機関)
吉成 知也(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部第四室)
研究分担者(所属機関)
  • 渋谷 淳(国立大学法人東京農工大学大学院 農学研究院動物生命科学部門)
  • 小西 良子(東京農業大学 応用生物科学部 栄養科学科)
  • 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カビ毒はカビが感染した農作物中に生産され、カビ毒に汚染された食品により、急性的な中毒症状や慢性的な摂取によるガンの発症などが引き起こされている。これまで厚生労働科学研究において、2001年より様々なカビ毒について日本に流通する食品における汚染実態や毒性に関する研究を行い、カビ毒に汚染された食品の摂取の低減を目的とした施策策定の科学的根拠となるデータを取得し、食の安全性確保に貢献してきた。本研究事業では、3種のタイプAトリコテセン系カビ毒、ステリグマトシスチン(STC)、エンニアチン類(ENs)及びビューベリシン(BEA)を研究対象とした。
研究方法
国内流通食品を対象とした汚染実態調査では、タイプAトリコテセン系化合物については多機能カラムを、STCについてはイムノアフィニティーカラムを、BEAとENsについては、C18カートリッジを用いて精製を行い、LC-MS/MSにより定量する分析法を開発し、汚染実態調査を行った。ばく露量推定は、日本人における小麦加工品の摂取量と小麦粉おける各カビ毒の汚染量の分布を掛け合わせて求めた。毒性に関する研究では、エンニアチンB(ENB)を6週齢マウスに28日間反復経口投与した。投与期間終了後、剖検時に血液を採取し、血液学検査と血液化学検査を実施した。薬物動態試験では、マウスにENBを経口又は静脈内に投与し、経時的に採血と糞の回収を行った。血漿及び糞からの抽出液中のENB濃度をLC-MS/MSにより定量した。簡易分析法の確立では、マウス抗IgGヤギ抗体を吸着させた96穴プレートにマウス抗AF抗体を加えて測定用プレートを調製した。測定検体を添加後、AFB2-HRP複合体による競合反応後、HRPの基質を加え、発色させた。マイクロプレートリーダーで吸光度を測定し、検体中のSTC濃度を定量した。カビ毒の複合汚染のリスク解析では、ハト麦及びライ麦を寒天プレートに置き、培養後、生育したコロニーを釣菌して分離した。β-tubulin及びEF-1α遺伝子の解析と形態学的特徴により、菌種の同定を行った。
結果と考察
カビ毒の汚染実態調査:タイプAトリコテセン系化合物については、3年間で累計10食品目計477検体、ENsについては、累計12食品目658検体、STCについては、累計8食品目507検体の調査を行った。調査結果を基に算出した日本人におけるばく露量やばく露マージンの値から、いずれの新興カビ毒も直ちに日本人の健康に影響を与える汚染レベルでは無いことが明らかになった。毒性試験:エンニアチンB(ENB)のマウスを用いた28日間反復経口投与毒性試験を実施した結果、病理組織学的検査においてENBの影響と考えられる変化は認められず、無毒性量は最高用量の30 mg/kgとなった。また、薬物動態試験の結果、高い経口バイオアベイラビリティ(85.6%)が確認されことから、ENBの毒性が当初の想定と比較して低い可能性があり、一般毒性は今回用いた用量より高い用量で出現するものと考えられた。簡易測定法の開発:STCを対象としたELISA測定系については、実態調査に応用できる感度と精度を有する系の開発に成功した。T-2トキシン、HT-2トキシン及び4,15-DASの3つを同時に測定できるELISAを市販品から探索については、市販の7種のT-2トキシンELISAキットに使われている特異抗体が4,15-DASも認識するか否かを検討した結果、いずれも4,15-DASには交差性を示さないことがわかった。カビ毒の複合汚染のリスク解析:タイプAトリコテセン系化合物の汚染原因菌としては、海外産ハト麦においてはF. incarnatum、国内産ハト麦及びライ麦においてはF. sporotrichioides及びF. armeniacumが候補として見出された。ハト麦、ライ麦試料中のタイプAトリコテセン系化合物の汚染プロファイルの差異と、これらの検出されたFusarium属菌の種類は関連していると考えられ、この菌種の違いがそれぞれの穀類のFusariumトキシン汚染のリスク因子の一端となっている可能性がある。
結論
カビ毒の汚染実態調査では、分析法の確立と目標数の汚染調査が完了し、その結果から、ばく露量を推定し、日本人の健康に与える影響の評価を達成した。毒性試験については、これまで毒性・代謝に関する情報が不足しており、リスクが全く不明であったENsについて、マウスにおいては体内に吸収されるものの、強い毒性は発揮しないという新たな知見を取得した。この結果と汚染調査の結果を合わせ、健康リスクを明らかにすることを達成した。簡易試験法の開発については、STCが高頻度で検出される玄米と小麦において、日本において流通する検体の汚染レベルを調べることのできる感度を有する簡易分析法の確立に成功した。

公開日・更新日

公開日
2022-10-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-10-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202124004C

収支報告書

文献番号
202124004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,688,000円
(2)補助金確定額
10,688,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,595,476円
人件費・謝金 2,362,566円
旅費 2,406円
その他 727,553円
間接経費 0円
合計 10,688,001円

備考

備考
消費税の関連で、1円支出が多くなったが、自己資金で支払った。

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-